36話 浦島太郎
主人公: 亀をいじめていた子ども
舞台: 浦島太郎が暮らしていた村。鼈甲細工が特産品(主人公も仕事として亀を狩っていた)。
主人公が鼈甲を取るために亀を狩っているところを浦島太郎に邪魔される。
村人は基本的に鼈甲細工が村の主要産業であることを理解しているが、浦島太郎はそれを理解していない( or 理解しながらも許容していない。過激動物愛護家?)。
浦島太郎は喧嘩が強く、主人公は仕事の邪魔をされた上に怪我を負う。
主人公は激怒し、友人に「浦島太郎を殺してやる」という旨の発言をする。
翌日、主人公は父親と共に浦島太郎の家へ抗議に行く。すると、浦島太郎は昨日から帰っていない。
始めは単なる放蕩で数日で帰ると思われたが、1週間ほど経つと何かあったのではと村を騒がせ始める。
主人公が「浦島太郎を殺してやる」と言っていたことが知れ渡り色々と噂されるように。
主人公は自身の無実を証明するために浦島太郎失踪事件について調べ始める。
優秀な浦島太郎の兄。浦島太郎を軽蔑している妹。子どもたちに甘い母親。仕事に生きる父親。喧嘩仲間である友人達。
さまざまな容疑者から失踪事件の犯人を捜査する主人公(実際は亀に連れられて竜宮城に拉致されているため全員無実)。
ミステリー調で書きつつ、読者は真実を知っているので実質はコメディ。最後は真実がわからないまま、キーとなる亀を主人公が殺してしまってエンド。
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1枚目に書かれたそのプロットに正直感心した。これが菜子さんが書いたというのであれば別に感心するってほどではないのだと思うのだが、これを書いたのは紺野さんだ。
紺野さんが、菜子さんが書いたと言われても違和感がないものを書いた。その事実には純粋な驚きがある。
紺野さんが本を読むシーンは何度か見たこともあるし、文章が書けないということはないのだろうけど、普段まったく搜索をしない人が「はい、書いて」とテーマだけ与えられて書いたものとは信じられない。
火星人の話でもその発想には感心したが、今回も。紺野さんは実は普段から創作活動をしているのではないかと思ってしまう。
2枚目には登場人物設定が書いてあり、本文はない。
つい、紺野さんの方に目が向く。紺野さんはただ凛とした表情で原稿用紙に目を落としていた。
設楽さんの方の漫画も読んでみるが、こちらには、言い方は悪いが、大した驚きはない。漫画のネームの形で描かれたそれは「かぐや姫」の二次創作として思いつきやすい気がする。
5人の貴公子のうち誰かがどうにかして宝を手に入れてしまったらかぐや姫はどうするのか。まぁ、たぶんよくあるテーマだ。
コマ割りとか台詞回しとかは、正直上手いのかどうかもよくわからない。
悪くないのだとは思うけど、紺野さんの方の衝撃が強く、印象が薄くなる。設楽さんの方には普段から創作もしているはずだしというバイアスもある。
「文芸部さん、続きは? これ、この後どうなるんです? ここから犬が登場ですか? というか、犬は人間なんですか?」
僕のものを読み終えたらしい設楽さんから矢継ぎ早に質問が飛んできた。飛んできたのだが、紺野さんと違いプロットなんぞ何も書かずに本文を書き始めた僕は、設定といえ設定を作っていない。
「犬山はそりゃ人間ですが、すみません、設定とか何も考えずにキャラが勝手に動く形で書いていたので、続きについてはなんとも」
「あー、そうなんですね」
なんとなく落胆の色が伺える反応だ。
「それは、今回が即興書きだったからそうした? それとも、いつもそう?」
今度は倉間氏から質問が飛ぶ。
「普段からそんなに色々書いているわけではないですけど、書くときはプロットとかはあまり」
「それで書けるもの?」
「まちまちですね」
そう言いつつ、そもそもが完結まで話を書いたという経験がない。ふざけた短編ならあるが、あれを書くのにプロットが必要とも思わない。
「ある程度ちゃんとしたストーリーを持つ話を作るなら、しっかりプロットを作るべきだとボクは思うよ。プロットを作っている時が楽しい人と、本文書いている時が楽しい人ってそれぞれいるし、蒼井くんは後者なんだろうと思うけど、それでも、プロットは必要だと思うし、簡単にで済ませるべきものでもないと思う。
キャラが勝手に動いて物語になるっていう天才もいるけどさ。普通の人間には無理だよ、それは」
正直、プロットを書くのは面倒くさい。僕にとっての創作はストレス解消の一環という側面があり、それ故に、その中でストレスになることは基本的にやりたくない。
「紺野さんは普通からこういうのが作風? 火星人のもだけど、設定を普通から1個ズラすっていうか」
「いえ、あの、私はこういうの書くのは、初めてで」
「へ、へぇ。そっか」
倉間氏は一瞬固まった。わかる。
「嫌じゃなかったら、それこそ文芸部とか入ってみたら? うん」
「いえ、あの」
「もちろん、書くのが楽しかったらだけどね。なんというか、蒼井くんはわかるでしょ」
いや、倉間氏が具体的に何を言いたいのかはわからない。わからないが、紺野さんに創作を勧めるのはわかる。
「文芸部と漫研のイベント、作品出して欲しいです。これでも、火星のでも、別のでも。読みたいです」
「いえ、あの、私なんて」
その謙遜はここでは不要だ。ここにいる皆が紺野さんの発想を認めている。
「うんうん!読みたい!」
「正直、設楽さんのものより読みたいです」
「え、ひど」
「僕、小説派なので」
割と怖い目を向けられたので一応の弁明。
「絵は上手いんですよ! 漫研で2番か3番か4番目には」
漫研って部員は何人だったか。
この春期講習、勉強になったかは置いておいて、取ってよかったと思う。




