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35話 桃太郎

 リアル多忙のため、36話の投稿を1週間遅らせます。


 鬼ヶ島に乗り込み鬼を退治せよ。オレはそれだけ言われて家を放り出された。気のみきのまま。持ち物は申し訳程度に持たされた吉備団子のみ。


 捨てられたのだと、そう直感した。


 オレは子どもの頃から桃から生まれたなんて聞かされて育った。当然、桃から人間は生まれない。


 つまり、オレは拾い子なのだろう。桃から生まれたというのは、どこの誰の子かもわからんという比喩なのだ。


 加えて、団子だけを持たされ鬼を倒して来いというこの仕打ち。オレを家から追い出したかったという本音が透けて見える。


 いや、爺さん婆さんには感謝しているのだ。どこの子ともかもわからないこのオレを14年間育ててくれたのだ。捨てられたなどと恨みがましく言える立場ではない。


 鬼退治。そんな無理難題を成し遂げれば、あの家に帰れるのだろうか。


 鬼による被害は近隣の村で数多くあり、領主によって討伐隊も何度か組まれたと聞く。その上で鬼は今なお健在だ。


 それをオレに退治しろって、そんなのは現実的じゃない。オレは確かに力自慢といって差し支えはないが、別に人間離れしたってほどじゃない。鬼とやり合うにしても、一対一ならまだしも一騎当千なんてもちろん無理。


 行く当てもなく、闇雲に彷徨っているといつのまにか隣村まで来ていた。この辺りでは交易の中心となる大きな村だ。


 オレは鬼ヶ島に鬼退治に行くことになっているらしいが、それは長期目標として、まず今日の宿と飯を得なくてはならない。


 飯は一応吉備団子があるので、1日2日はそれで耐え忍ぶにしても、宿はそうはいかない。鬼のせいで治安も良くはないし、野宿というわけにもいかない。


 団子だけは捨てるほど持たされているし、これをいくらか売って身銭を得るか。幸い、この村でものを売った経験はある。


 今日を生きる金を得るため、オレは市の顔役の元に向かった。


「よう、今日は1人かい?」


「はい、訳ありまして家を出ることになりました」


 顔役は睨むような目をこちらに向けた。肥え太った禿頭のくせに嫌に迫力がある。


「自立か。どう暮らす?」


「鬼ヶ島に鬼退治へ」


「あぁ? 義勇隊に志願するってか? アホか。あれは金にならない。身体ばっか張って大した金も貰えないなんてあんな仕事、底辺がやるもんだ」


 怒鳴り散らされたが、オレはそうしろと言われて家を出されたのだ。


「でも、そうしろと祖父母から」


「ちっ。あの爺婆は世の中を知らねぇんだよ。鬼退治なんて今時 流行りゃしない。悪りぃことは言わね、義勇隊なんてやめとけ。

 それよりその辺の商人の小間使いをした方がまともな暮らしができるってもんだ。お前は知った仲だし、いい奴を紹介してやるよ」


 鬼退治ではなく商人の小間使いをやれということらしい。別に鬼退治をしたいなんてことはないし、それで生活できるなら悪くないけれど、でも、鬼退治をしないと……。


「鬼退治をしないと、家に帰れません」


 我ながら情けない声だった。顔役は頭をかいて、少し困った顔をした。


「はぁ。わかった。でも、まずは金だ。鬼退治に行くって、お前さん刀の1本も持ってないでなに言いやがるってもんだ。義勇隊のとこに行ったって追い返されるのがオチさ」


 それは確かに顔役の言う通りだ。鬼と素手で闘うなんて聞いたこともない。


「だからよ、まずは商人の小間使いでもして金を貯めんだ。で、刀に鎧、装備一式を買う。そしたら、それから義勇隊のとこに行けばいい。な?」


 先立つものがなければ何もできないか。仕方ない。一歩ずつ鬼退治に向かっていくしかない。


「わかりました。働き先、紹介してくれますか?」


「おう、任せろ」


 オレは顔役に連れられ商人の屋敷に向かった。犬山という名の屋敷。かなり大きい。


「やっさんを呼んでくれ」


 顔役は小間使いにそう言う。この屋敷、既に小間使いは十二分に揃っている様子だが。



「んじゃ、そこまで」


 倉間氏の声でペンを止める。マズい、話が何も進んでないところまでしか書いていない。


 じゃあ、書いたものを回収します。ちょっと休憩してて。


 原稿は回収され、倉間氏はそれを持って教室を出た。


「2人はどんな話を書いたんです?」


 設楽さんは倉間氏が出ると同時に私語を開始した。


 講師が退出しているとはいえ、今は授業中。ペラペラと喋っていていいものなのか。


「書いてみると難しくないですか? 5人の貴公子のうちの1人が何故かありもしない宝物を見つけてきちゃってかぐや姫が大慌てって感じのコメディを描いてみたんですが、いやー、ストーリー構成って苦手でやっぱキツイなってなりますね」


 設楽さんは1人楽しそうに語る。


「文芸部さんは桃太郎でしたよね。どういう感じにしました?」


「どういう感じと言われましても……」


 言い淀んでいると倉間氏が教室に戻り、設楽さんはパッと前に向き直った。恐らく、休憩時間はいつもそうなのだろう。


「はい、休憩終了。じゃあ、後半は他の人の作品読んでみよっか。他の人の作品を読むのも色々と創作意欲を刺激されるし」


 倉間氏は離席中に原稿をコピーしていたらしい。これはある種、公開処刑とでも言えるだろうか。まぁ、このふざけた作品を読まれることにそこまでの抵抗はないけど。


 渡された原稿のコピーに僕は目を落とした。


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