28話 ゆで卵
予約投稿ミスりました。次はいつも通り13時投稿のつもりです。
創作という行為は一般的に黒歴史とされることが多い。では、そんな黒歴史を募集する今回の企画は成立するのだろうか?
塾を終え帰宅した後、漫研の夕陽さんと連絡を取りつつ提出フォームを作った。夜遅くなったが、夕陽さんとしては今日中に形を固めたかったらしい。
Google フォームなんて使ったのは初めてだが、案外やれば出来るものだった。
役割分担として、提出への対応は主に文芸部、宣伝は主に漫研ということになった。宣伝は間違いなく僕たちにとって不得手な分野なのでありがたい。
宣伝用にこの企画のTwitterアカウントも作られたが、発信は漫研の方でやってくれるので、こちらは見守るだけ。とりあえず初ツイートとして企画説明が呟かれた。
こうして色々準備を整えていると、本当にイベントをやっているのだと実感する。恐らく、今まで文芸部でやったことの中で最もイベントらしい。
夜に家で作業なんて、まったくもって僕の柄ではないし、心のどこかで何故こんなことしているのかと問う自分もいる。
しかし、これが存外に楽しいのだ。
恐らくはこれが遅くまで残って文化祭の準備をする一般的な高校生の心持ちなのだろう。なんとなくワクワクするような感覚がある。
まぁ、文化祭の例と異なり、僕は今、家に1人で作業をしてワクワクしているのだが。
この企画、作品が何個も集まるとは思っていない。
短編として完結させて作品を送る。やろうと思ってもハードルは高いし、そもそもやろうと思う率も低いだろう。
そんなことはわかりつつも、どこか期待してしまっている。その期待はどうせ裏切られるとわかりつつも、でも、もしかしたらと思うところがあるのだ。
さて、人の作品を待っているばかりでは、集まらなかった時にどうしようないことになる。
今日の授業でやったアレ。もしかしたら使えるのではないだろうか。
女子高生と火星人の話。これをちゃんと小説として作る。僕は眠気が訪れるまでそんなことを始めた。
*
目覚めたのは午前4時半。僕はスマホを片手に持って机に突っ伏していた。考えたまま、考えがまとまらずに眠ってしまったらしい。
ベッドに移って寝直そうかとも思ったが、どうも目が冴えている。今日の予定は塾まで何もない。別に無理して寝ることもない。
なんとなく、握っていたスマホを見た。文書作成アプリに書きかけのプロット。続きを書く気は起きずアプリを閉じた。
そのまま今度はTwitterを開く。元々アプリも入れていなければアカウントも持っていなかったが、企画アカウントのログイン権限を一応もらうことになり、そのためにアプリをインストールした。企画アカウント無闇に使うのも良くないと思い、自分のアカウントも作成をするだけした。
ちょっと触ってみると、なるほどSNSというものは情報に溢れていて、これにどっぷりとハマってしまうのも頷ける。
自分から発信しようという気には全くならないが、受信だけでも便利なツールなのだと思う。
しかし、これといって何かをチェックしたかったわけでもなかったので、数分眺めて閉じた。
勉強でもしようと今度はノートを取り出した。テキトーに問題集を開き解く。
僕は結局、時間を持て余すと読書と勉強以外ないのだ。
それはある意味でとても模範的な高校生なのかもしれない。しかし、でも、そんな高校生になりたいと思う中学生はそうそういないだろう。
勉強で時間を潰し、気づけば6時前。普段の休日ならまだまだ寝ている時間だが、別に起きていておかしい時間でもなくなった。
なんとなく鬱屈した気分を晴らそうと、僕は部屋を出てキッチンへと向かった。
リビングの電気がまだ付いていないことで今日が土曜日なのだと改めて思う。平日なら、この時間はすでに皆起きている。
冷蔵庫を開けるも、この時間に軽くつまむのに手頃なものがない。卵はあるし、ゆで卵でも作るか。ちょっと面倒くさくも感じたが、卵を取り出し鍋に水を張る。
そんな風にガタガタやっていると、母親が起きてきてこちらに顔を見せた。
「あら、休みなのに今日は早いのね」
「目が覚めたから」
「そう。それ、朝ごはん?」
「いや、間食」
「この時間ならもう朝ごはん食べちゃいなさい。パンぐらい焼くわよ」
パンを焼くというのは、トースターにパンを入れるだけである。それくらい必要なら自分でやる。
うちの朝食は積んである菓子パンか食パンを勝手に食べるか、冷凍食品を温めるか。ご飯を炊くのも面倒なのでパンの方に寄ることが多い。レンチンでできるご飯は常備されていないのだ。
「いや、パンはいいや。ご飯炊くよ」
「あら、そう。私はパンで済ませるわね」
母親はトースターでパンを焼き、僕は米を研ぐ。
「そういえば、塾はどう?」
「別に。設備として勉強するのに色々プラスの面はあると思うし、授業も結構考えられてるんだろうけど、すごく大きな差があるかといえば、そうでもないかな」
母親の好きそうな答えを返した。母親は「そう」とだけ言って微笑んだ。
僕が塾を必要ないというだけで上機嫌なのだ。うちの息子は塾なんて行かなくても勉強ができるんだとか思っているのだろうか。
「美月はそういうところに通わせた方がいいのかしらね」
不穏なものの影を感じた。妹を塾に通わせることについて、僕は賛成でも反対でもない。
問題は母親がこれを言い出したことだ。これはつまり、母親は妹のことを自分では勉強できない子だと見限ったとも見れる。
「美月が行きたいっていうなら」
「そう。陸斗、同じ高校に通うんだし、美月のことお願いね。一浜高校に馴染まないように」
頼むなら普通、ちゃんと高校に馴染めるようにだろうに。馴染まないようにって……。まぁ、母親の言いたいことはわかる。わかることと受け入れることは別だけど。
「学校で美月と話すことはないと思うけど。学年が違えば、部活が同じとかじゃない限り接点ないし」
「そう」
米を炊飯器にセットしスイッチを入れた。
母親はキッチンを後にし、僕は残ってできたゆで卵の殻を剥く。
少し気分の悪い朝だった。




