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25話 コラボ企画


 大白先輩は勉強合宿中であったはずなのだが、返信はすぐに来た。曰く、『いいんじゃね』の一言。


 勉強はどうしたんだとか、テキトー過ぎるのではないかとか、思うところがなくもないが、まぁ、返信が早いのはありがたい。


「文芸部LINEあるんですね、俺も入れてくれます?」


 山城くんはこちらが返事をする前にスマホを取り出した。断る理由はないので友達登録をし、招待を送る。


「この感じだと大白先輩が何かしてくれる様子ではないので、漫研への交渉は私たちでしないとですね」


 まぁ、元よりそのつもりだ。


「僕が行ってきますよ」


 漫研と言い出したのは僕だし、たぶん断られないだろうし。


「いえ、私も行きます」


「なら、俺も行きます」


 今いる文芸部総出で行くことになった。総出といっても3人、迷惑になるほどの人数ではないだろう。


 漫研の活動場所である書道室のドアを叩く。交渉役は僕がやることになった。


「はい!」


 部活をしていてドアをノックされるということはほとんどない。部員やその友達、顧問などであれば勝手に入る。


 この時期にノックとなれば新入生の可能性が高い、漫研部員はそう推測したのか僕を見て明らかに落胆した様子を見せた。


「文芸部さん、どうしました?」


 出てきたのは先日廊下で話した女生徒。名前が思い出せないが、恐らく向こうも僕の名前を覚えていないだろう。


「ひとつ相談したいことができまして」


「うちの新入生はあげませんよ!ダメです!絶対ダメです!」


 すごい気迫だ。僕は気圧されつつも、「いえ、そうではなくて」と話を続けた。


 概要を話すと漫研部員は「なるほどなるほど」と大仰に頷き、「中でもう1回話してもらってもいいですか?」と書道室へと通された。


 書道室では机4つを島にしたところに3人が座っていた。2人には見覚えがあり、時々顔を合わせれば挨拶をする間柄だが、残り1人の顔ははたと記憶にない。


 たぶん、先程 絶対にあげないと言われた新入生だろう。


 3人はこちらは立ち上がり「こんにちは」など挨拶をしてきたので、こちらも挨拶で返す。


 漫研は特別親しいわけでもないお隣さんであり、空気的には少し気不味い。


 世間話をするような状況でもないので、すぐに本題に入って説明をした。説明が終わると漫研は顔を寄せ合い、コソコソとは決して言えない声のボリュームで相談を始めた。


「なんか楽しそうじゃない?」


「でも、これ引き受けるってことは、うちの文集の1作品の枠はそれになるってことだよね。ウチの話が載せられなくなるかも」


「そのウチの話ってのはできてるの?」


「できてない。原作者募集中」


「じゃあいいじゃない。文芸部さんが選んだ素晴らしい原作がもらえるんだし」


「それ、集まるの? 集まりませんでした、原作はありませんってなったらウチ描けなくなるし」


 バッと揃ってこちらを向く漫研。


「内々の話として、応募が集まらなかった場合、僕たちで書いたものを応募作品として発表します。なので、何かしらの原作は提供できます」


 言うとすぐに向き直り、また顔を寄せ合う。


「不正じゃないの、それって」


「不正じゃなくて保険でしょ。他の作品があるのに自分たちの話を使うってわけじゃないんだから」


「でも、ウチ、描く話は自分で選びたい」


 またバッと振り返る漫研部員。


「その金賞、銀賞、銅賞、特別賞のうち、特別賞の枠はウチらが選ぶことにして、それを漫画化はどう?」


 わからないではない。小説としては傑作であっても漫画には向かないというものは数多い。コミカライズするなら、持つべき視点は別になるのだろう。


「一理あると思います。作品の確認は僕たちの方でもするとして、特別賞の選定は漫研の皆さんに委任することに自分は異論ありません」


 また顔を寄せ合う漫研部員。統制された動きがどこかコント染みている。


「この人、言葉遣いが堅いね」


「それより、みんなこの案に乗るってことでOK? というか、流れでシズカが描くことになってるけど、それもOK?」


「ウチはOK、問題なし!」


「シズは自分で話 書けないんだし、うってつけだと思う」


「私は先輩方の言う通りに」


「ねぇねぇ、ポスター作ろうよ! だって、賞だよ、盛り上げないと。どうせなら、漫研も協力って形じゃなくて、共同開催とかにしよ。文芸部、漫研のコラボイベント!」


「いいね、いいね。楽しそう。日常系マンガみたい」


「外部コラボなんて漫研史上初かも」


 なんか漫研は盛り上がりを見せているので、宣伝を任せてしまってもいいかもしれない。同じ学校の漫研と文芸部では「外部」ではないなんてツッコミは喉に収めた。


「その話、漫研は乗ります。で、共同開催ってことにしてOK?」


「それは文芸部としては願ってもないことです」


「じゃあ、えっと、実務的な応募方法はどうするとか、日程はどうするとか、そういう話を全員って言うより代表同士で話し合えればいいかなって思うんだけど、今の部長はあなたってことでOK?」


 別に人数が多いわけでもないし、全員で話して決めればいいと思うのだが。責任者会議みたいなものに憧れでもあるのだろうか。まぁ、相手方が結構ノリノリなのに水を差すことはない。


「部長ではないのですが、生憎、部長は春休みの間は多忙でして。この企画についての諸々は、僕もしくは紅林が請け負いますので」


 勝手に紅林さんを巻き込んだ。責任を1人で背負い込むのは御免だ。


「OK. 前に自己紹介したことあるけど改めて、私、漫研代表の夕陽 アキ、よろしく」


 そういって夕陽さんは手を差し出してきた。握手をしろと。この場面での握手というのはわからないことはないが、日本人的にはお辞儀でいいと思ってしまう。握手は心理的なハードルが少し高い。


 こちらから依頼した手前握手は断りづらい。加えて、上履きの色を見ればこの人の学年は僕の1つ上であることがわかる。向こうも僕が1つ下だとわかっていてのフランクさなのかもしれない。学年だけで上下関係が生まれるのはちょっと理不尽だ。


「文芸部の蒼井 陸斗です。よろしくお願いします」


 僕はその手を握った。握手に不満があったことを悟らせないよう、愛想笑いを浮かべて。我ながら、何やっているんだろう。


 文芸部と漫研のコラボ企画がスタートした瞬間だった。


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