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12話 論理的思考最終日


「おつかれ」


 論理的思考最終日の授業を終えると、郡上姉はこちらに見向きもせずにすぐに教室を出ていった。対して、黒崎先輩はこちらに声をかけてきて、会長もそれにつられてこちらにきた。


「蒼井って他の講座は取ってる?」


「作文を」


「あー、あれか。物好きだな。あれ、この講座以上に人少ないぜ、たぶん」


「そうなんですか?」


「そりゃ、高1と高3の英語と被ってるからな。普通は英語の方を取る。実質新高2限定。それに、主要科目じゃない講座はまず人気低い」


 そうなのか。今回が4人だったわけだが、それより少ないのはちょっと嫌だな。


「うちの妹は確か取ってる」


「フラグ立ったな。4日間2人で作文。一大イベントだ」


 揶揄うような黒崎先輩は視線を逸らし無視する。


「蒼井さ、普段の生活について教えてくれよ。それを元にギャルゲ作るから」


「はぁ」


 これ見よがしに大きなため息をつくと、「冗談、冗談」と言う。


「蒼井、この塾入んの?」


「入りません。春期だけです」


「んじゃ、実は今日で俺と会うのも最後かもな」


 そう言われるとそうかもしれない。4日間で意外と仲良くなれた。


「あのさ、よかったらなんだけど、俺とゲーム作る気とかないか?」


 ……どういう誘いだ、これ?


「ゲーム制作ですか?」


「ああ。俺、趣味でゲーム作ってるんだけど」


「ええ、それは何度も」


「簡単に言って仲間が欲しいわけよ。こう、意見言い合ったりできる相手っての」


「で、それに僕を?」


「おう。蒼井、そういうの興味あるタイプだろ。話してりゃわかる」


 文芸部なんかに所属しているわけで、創作物に対する興味は人並み以上にある方ではある。しかし、実際に作るとなれば話は別で、そこには心理的ハードルがある。


「そんな、コン詰めてガチでやろうってんじゃない。俺だって受験生だし、お遊びだ。気構えるもんじゃない」


「そう言われましても」


「まっ、考えてくれ。LINEするから」


「はあ」


 それだけ言うと「んじゃ」なんて言葉と共に黒崎先輩は去っていった。教室には僕と会長が残る。


「じゃあ、僕からも。蒼井後輩、改めて、生徒会に入らないかい?」


「入りませんよ」


「だろうね。残念だ」


 あまり残念でもなさそうに会長は肩をすくめた。


「なぁ、よかったら真白先輩の近況とか訊いてもいいかい?」


「嫌ですよ」


「はぁ。そうか」


 さっきよりも大層残念そうだ。


「一応言っておくと、僕は真白先輩に恋をしているわけじゃないよ。蒼井後輩のように彼女にしようなんて傲慢なことは考えていない」


「いや、恋より信仰って感じだからこそ怖いんですよ」


「怖いかい?」


「菜子さんが幸福になる水とか売ってたら真面目な顔で買いそうな狂気を感じます」


「はは、買うかもね。何の変哲もない水だと承知の上で、真白先輩から買ったという価値を求めて」


 会長は冗談めかして言うが、言っている内容は本気らしい。


「やっぱり信者じゃないですか」


「信者じゃなくてファンだよ。あくまでも」


「何をきっかけに菜子さんのファンに?」


「お、訊きたいかい? 結構運命的だよ」


「あー、じゃあ、別にいいです。お疲れ様です」


 バッグを背負い、席を立つ。会長をそれに文句もないようで「そうかい。おつかれ」と返してきた。


 春期講習も前半が終わった。塾通いというのも結構疲れる。僕は独学の方があっているかもしれない。

 まぁ、どうにしろ塾に通うという選択肢はうちではない。なら、独学の方があっていると思った方がいい。


 帰り、コンビニに寄った。今日は夕飯の用意はあるはずだが、飴を買っておこうと思っただけだった。


「あ、兄さん。ラッキーだね」


 コンビニに入ると雑誌コーナーで立ち読みをしていた妹がこちらに気づいてやってきた。


「こんな時間に何してんの」


「お母さんとお父さん喧嘩中。帰らないのが吉」


「あー、はい。そういうときは連絡してくれ」


「兄さんが入った方が早く終わるかなって。知らせたんだからいいじゃん」


 うちの両親の仲は悪くない。互いに基本 不干渉を貫いているため衝突が起こらないのだ。しかし、一度喧嘩まで発展してしまうとかなり激しい。


「喧嘩の原因は?」


「私が受験の時、お母さん実家に帰ってたでしょ」


「うん」


 しかし、あの時の父親は意外に母親と妹の関係改善に協力的だったし、母親を責めるようなことを言っていた記憶もない。


「あの時、お母さん、その原因をお父さんとの喧嘩っておじいちゃんに嘘ついてたんだって。おばあちゃんの方には話してたみたいだけど、おじいちゃんには隠してたみたい。で、おじいちゃんからお父さんにその後 大丈夫なのか連絡があったんだって。お父さん、そういうの結構 気にするから」


 親子喧嘩で家出してきたでは格好つかないから、夫婦喧嘩ってことにしてたと。まぁ、わからないではない。で、それがバレて今度は本当に夫婦喧嘩になったと。


「わかった。ありがと。で、どうする? どっかご飯食べ行く?」


「うーん、そうしよっか」


 夫婦喧嘩から僕たちが逃げるのは昔から何度かあった。だいたい、喧嘩が落ち着いて冷静になったころに父親から帰ってこいと連絡がある。それまでは時間を潰そう。


「ファミレス?」


「ラーメン食べたい」


「ラーメン?」


「うん」


「ラーメン屋ね。どこにあったっけか」


「あっちに屋台出てた。で、食べたくなった」


「そう。じゃあ、行ってみようか」


 外は完全に夜だが、まだ高校生も普通に出歩く時間だ。僕たちは何も買わずにコンビニを後にした。


「屋台でラーメン食べるの初めて」


「僕も初めてかも」


 そんなことを言いつつ、屋台の暖簾をくぐった。仕事帰りらしい男性2人が雑談しながら麺をすすっていたが、他に客はないようだ。


「いらっしゃい」


「ラーメン2つ」


「はいよ」


 メニューにはラーメンとだけあり、味付けは不明。まぁ、何でもいいが。


「2人はカップル?」


 店主はラーメンを作りつつこちらに声をかけてきた。


「いえ、兄妹です。親が今日、ちょっと留守で」


 妹が応じ当たり前のように嘘をついていた。


「ああ。なるほど。ご来店は初めてだよね。気に入ったらまた来ておくれ」


「それは味次第ですね」


「おや、こりゃ頑張らないと」


 店主はそれから掛け声とともに湯切りを始めた。これも一種のパフォーマンスか。


「はい、ラーメン2つ お待ち」


 味は醤油だった。オーソドックスで、重たすぎず食べやすい。絶品だと驚くほどではないにしろ、箸は進む。


 僕と妹は黙々とラーメンをすすった。特に会話はなかった。


 ほぼ同時に2人とも食べ終わり、店主に「また来ます」と言い会計を済ますと、店主は嬉しそうに笑ってくれた。


 しかし、まだ、帰ってこいという連絡は来ていなかった。

一応ですが、この物語世界はコロナ禍ではありませんので、屋台なども普通に出てます。

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