11話 兄の集い
「俺は断然ツクヨ派なんだが、お前らはどうよ」
「いえ、僕そのゲームやったことないですし」
「僕も右に同じだね」
あの後、男子会とやらに強引に連れて来られた。某牛丼のチェーン店。3人で横一列に座るのはいいのだが、なぜ僕が真ん中なのか。
面倒なことを訊かれるのかと思えば、話題は例によってゲーム。何の集まりなんだろう、これ。
「お前ら男子高校生だろ? ギャルゲーくらいやれよ。マジでヒロインに恋するから」
「だそうだけど、リア充の蒼井後輩からするとどうだい?」
リア充って……いや、リア充なんだろうけど、その言われ方はなんか引っかかりを覚えてしまう。
「恋愛小説を主人公に自己投影しながら読んで、ヒロインに恋をするなんてこともなくはないですからね。まぁ、僕はないですけど」
「いや、小説とゲームは違うんだって。そこに姿があって、声があって、リアルなんだよ」
小説とノベルゲームではたしかに違うだろうけれど、しかし、どちらもリアルではなくフィクションだ。
「黒崎、残念だけどゲームはリアルじゃないから。いわゆる恋愛シミュレーションゲームは」
「リアルの恋愛をシミュレーションしてないとか、その手の真実をゲーマーに言うなよ。わかってるよ。現実の女子高生はキモい、ウザい、死ねしか言わないんだ」
「いや、現実もそこまでひどいものではないけどね」
「なぁ、俺のことが大好きでちょっと抜けてるけど家庭的な妹はどこにいるんだよ」
「現実と虚構の落差が大きいね、まったく」
友人同士のやりとりが僕を挟んだ状態で繰り広げられ、僕としてはすこぶる居心地が悪い。
「ちなみに、お前らの妹ってどんなん? キモい、ウザい、死ね以外にやりとりあんの?」
「それをやりとりとは言えないでしょ。僕は妹からそういう罵声を受けたことはないけどね」
「紺野さんはそういうことを言うタイプではないでしょうね」
いや、うちの妹だって外ではそういうことを言うタイプではないのかもしれないし、家の中では実はなんてことも普通にあり得るか。
「学校での妹とうちでの妹は結構違うものだよ。意外にもうちでの妹は結構お喋りなんだ。学校であったこととかよく話してくれる」
紺野さんがお喋りというのは確かに意外だ。まぁ、人見知りなだけで、慣れた相手には結構話すタイプだと言われれば納得もできる範囲だが。
「紺野の妹って塾でも時々見るよな。図書室で出会う系のサブヒロインタイプの」
その言い草に会長は顔をしかめたが抗議の言葉を口にはしなかった。
「蒼井の妹は今日一緒にいた子の大きい方だろ。ルックスいいよな、普通に」
妹も結構小柄なので大きい方という形容には違和感がある。
「まぁ」
「いや、うちの妹もルックスは悪い方じゃないんだけどな。蒼井は妹とかなり仲良いんだろ? 妹と仲良いってどんな感じよ」
「どんな感じと言われましても」
何を訊いた質問なのかがわからない。
「妹と一緒に出かけるとか俺からしたらありえんのだが」
「まぁ、一緒に買い物とかは普通に行きますけど」
「デートじゃん」
「デートじゃないですよ。妹なんで」
いや、デートっぽいこともあったけど。
「僕も妹と一緒に出かけることはほとんどないね。蒼井兄妹は相当仲が良いんだね」
「シスコンって言われるのはもう慣れてるんでいいですよ」
ただ、この2人だって僕と別軸のシスコンな気はする。
「兄妹関係って何で決まるんだよ、マジで。うちだけなんでこんなにギスギスしてんの」
「黒崎の妹って、確かうちの妹の同級生だったよね。ってことは、蒼井後輩とも同級生」
「え! そうなん!?」
まぁ、これで赤の他人だったらそれはそれでびっくりだ。
「黒崎ってクラスメイトならいますね」
「マジか。仲良かったり?」
「いえ、清々しいほどに嫌われてます」
「あいつ、学校でもそんな感じなんか」
「まぁ、なんでしょう。特別悪い人ではないと思いますけどね。集団の真ん中が似合うタイプですよね」
集団の真ん中にいるのだから、集団に迎合しない相手と対立するのは道理。
「あいつ実行委員とかマジで好きだよな。よく知らんけど、最近もなんかやってたし」
「合唱祭ですね。実行委員じゃなくてパートリーダーで。まぁ、実行委員と特に変わりはなかった気もします」
「俺、行事の実行委員とか絶対無理だし。なんで兄妹でこんなに違うかね。お前らは兄妹で似てたりすんの?」
兄妹で趣味嗜好がまったく合わないということもあるだろう。しかし、うちだって似た者兄妹かと言われれば、違うと答えたい。
「まぁ、性格は結構違うところもありますけど、本とか音楽とか食べ物とかそういう好みは結構近いですかね」
とりあえずそう返した。
「うちは、どうだろうね。うちの妹は決断する時に僕の後を追うところがあるからね。似てるっていうよりは、同じ環境に身を置き続けているが正確かな。結果として似た部分は出てくるけど、元々似ていたかというとそんなことはないかな」
紺野さんは確かに兄を追い続けている感は否めない。
「兄妹も色々だな。さて、俺も自慢のお兄ちゃん目指して、とりあえず勉強しますかね。お兄ちゃん勉強教えてみたいなのとか、待ってても絶対起こんねぇよな」
「それはうちもないかな」
「言い方はさておき、勉強を教えるのはよくありますけど」
2人は引き気味の目でこちらを見ていた。
「高校生にもなって? マジで兄妹仲良すぎで引くわ」
「兄よりは塾の先生とかに訊くものだよね、普通。いや、僕もちょっと引くよ」
塾に通うことが普通である2人とうちでは感覚が違うのかもしれない。妹にとって最も気軽に質問できる相手が僕というだけなのだから。
「いや、まぁ、妹は塾行ってませんし」
「じゃあ、うちの塾どうよ」
「しばらくは塾通い自体を考えないと思います」
「いやいや、高1から受験は始まってるんだぜ。いや、マジで。俺みたく私立通ってると高2で高校内容終わって、残り1年は受験勉強に集中するって感じ。そういうやつらと戦ってく以上、早め早めの準備が大切なんだって」
「とか言いつつ、黒崎は蒼井後輩の妹とお近づきになりたいだけだろう?」
「いや、蒼井と仲良いなら、俺にもチャンスあるくね?」
「今年は受験生なんだし、そんなことにかまけてる暇ないだろう」
「そういうこと言うなよ。あーあ、この前の模試、第1志望D判定。受験生なりたくねぇ」
「なりたくないね、本当に」
「いいよなぁ。蒼井はまだ2年で。彼女もいて、かわいい妹もいて、殴ってくる後輩もいて」
「最後のはいらないんですけど」
「蒼井後輩はうちの妹やその友達とも仲がいいらしい」
「ふざけんな。ギャルゲーの主人公かお前は」
男子会もとい兄の集いはしばらく続き、黒崎先輩からのあたりがだんだんと強くなってきたあたりで僕は退散した。




