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7話 女子会?


 妹があの番号に連絡したのか、それを知らないまま、翌日、日曜日の朝を迎えた。


「ちょっと出かけてくる」


 妹は9時前にはそう言って家を出た。母親は休みのはずだがやはりどこかに出かけていて、父親は泥のように眠っている。擬似的に家に1人。


 なんとなく自分も出かける気分になって家を出た。


 と言っても、外に出たところで僕の向かう先は多くない。とりあえずは書店へと自然に足が向いた。


 新刊コーナーに赴き、テキトーに見繕って立ち読みを始める。塾講師が生徒を殺す場面から始まる倒叙ミステリー。


 なんとなく読み続け30分ほど経った頃、ポケットの中のスマホが震えた。ちょうど読んでいるところが山場だったので無視すると、続け様に何度も震える。


 本を閉じ、スマホを見れば『蒼井美月がスタンプを送信しました』という通知が大量に表示された。


 なんでスタンプ爆撃されなくてはならないのか。


 LINEを開き、最初のメッセージを見ると、書店で立ち読みしている僕の写真が送られてきていた。


 背後に妹がいるらしい。スマホを取り出したら爆撃が止んだのも、こちらを見ているのだろう。いや、普通に声かけろよ……。


『蒼井陸斗: なに?』


 背後は振り向かず、LINEで訊く。


『蒼井美月: あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの』


 なんだ、その菜子さんみたいな返しは。


『蒼井陸斗: ヒツジも一緒に?』


 気の利いた返しは思いつかなかった。


『真っ白最高: あたしヒツジ。今あなたの後ろにいるの』


 えっ。僕は後ろを振り返った。2人の少女がクスクスと笑っていた。


「メェ」


 ヒツジの泣き真似をする菜子さんに、僕はたぶん「はぁ?」という真顔を返していたと思う。



「どういう組み合わせなんですか?」


 書店からエスカレーター付近に移動し、2人と向き合う。


「女子会? うん。女子会」


 菜子さんは即答した。2人で会とは悲しいものだ。


「なるほど。最近の女子は書店で女子会するんですね。さすが菜子さんは最先端を行きますね」


「そうだよ。ゆくゆくは本屋は女子たちで溢れるんだから」


「勘弁して欲しいですね」


「本当にね」


 僕は軽く息を吐き、菜子さんは「ふっ」と軽く笑い。まぁ、いつも通りの軽口の応酬。


「なに、そのテキトーな会話? わけわかんないんだけど。今ので、何がどういう、ん?」


 妹は混乱していた。今の会話には何の意味もないのだから、意味がわからないのは正しい。


「で、なぜ2人が一緒に?」


「蒼くんの1番の女はどっちか話し合ってた」


「妹の前でそういう冗談はやめてもらえますか?」


 たぶん、同じような冗談を妹に対しても言っているんだろう。妹の方も「また言ってる」って感じの反応だ。


「先輩さんは兄さんの近況とか過去を探ってるみたいだったよ。カノジョなら直接訊けばいいのにってこと色々訊かれたし。正直、カノジョってよりストーカーっぽかった」


「ひどっ! 今日1日で仲良くなれたと思ったのに!」


「仲良くなれたので遠慮がなくなりました。もう友達ですよ、先輩さん! だから、ズケズケ行きます。先輩さん、兄さんへの感情が重いです。妹目線で、ちょっとキモいです」


「んにゃっ!?」


「今まで恋とかしたことない乙女なんだなぁって」


「やめーいっ!」


 なんか、知らぬ間に砕けた関係になっている。


「ちなみに、兄さんの私への感情も重くてちょっとキモいので、先輩さんと兄さん、お似合いだと思います」


「それなんかちょっと違くない?」


「さらにちなむと、私の兄さんへの感情も重いかは置いといてちょっとキモいので、私と先輩さんも仲良くなれると思います」


 妹は結局、僕たちは全員気持ち悪いと言いたいらしい……。


「なんか、随分明け透けだな」


 妹は内と外の区別が結構はっきりしている人間だ。それが、菜子さんに対し、僕に向けるのと大差ない口の利き方をしているのは意外だった。


「この人に気を使ったり見栄張ったりする必要ないってこと、とってもわかったから」


 まぁ、菜子さんにはたぶんズケズケといった方が仲良くなれるだろう。


「蒼くん、蒼くん、妹ちゃんって、外面は繕ってるけど、内側は蒼くんにそっくりで捻じ曲がってるね。本当に兄妹」


 こそっと菜子さんはそう耳打ちしてきた。まぁ、同じ環境で育ったので、妹も少々捻くれた一面があるのは否定しないが、僕にそっくりとまで言うのは妹に失礼だと思う。妹は僕よりずっとまともだ、たぶん。


「んー? なにコソコソいってるんですか?」


「別に」


 妹はまぁ、なんか知らないがそれなりに上機嫌そうなので良しとする。成り行きはよくわからないが、猫を被らなくてもいい相手ができたというのも妹にとってたぶんプラスだろう。たぶん。


「ちなみに、蒼くんはお昼って食べた?」


「いえ、まだですけど」


 まだ11時過ぎだ。食べているわけがない。


「じゃあ、一緒に食べない?」


「別にいいですけど」


「なら、お弁当でも買って、蒼くんたちの家で」


「「それはダメです」」


 僕と妹は口を揃えて否定した。


「むぅ」


 菜子さんはプクーと頬を膨らませた。この仕草は、菜子さんの中で癖になるほど染み付いたものらしい。


「今日は家に父親がいるんで」


「じゃあ、じゃあ、誰もいない日なら行ってもいい?」


「誰もいない日に侵入したらそれは空き巣ですよ」


「そういうこと言ってるんじゃなーいっ!」


「うち、テレビゲームとかボードゲームとかそういうものはないので、家に来ても退屈だと思いますよ」


「兄さん、カノジョさんが家に来たいって言ってるんだから、それは、ほら」


 妹の言葉には無視を決め込む。


「まず、蒼くんの本棚が見たい。あと、妹ちゃんの本棚も見たい」


 読書家としては、その本棚に性格がかなり現れる。だから、本棚を見せるのはなかなか抵抗がある。


「私の本棚はなんか恥ずかしいから嫌です」


「恥ずかしい本が置いてあるの?」


「ないですよ! でも、嫌なものは嫌です」


「それより、今日の昼食はどうします? 普通にファミレスかファストフードですか?」


 僕は無理矢理に話を変えた。


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