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6話 僕は逃げる

 リアル多忙につき、7話の更新を1週休みます。すみません。全然時間作れなくて無理でした。


 授業を終え、今日は1人家へと帰った。


「美月、今いい?」


「何? 私の制服が届いたからって見に来たの? キモ」


 妹の部屋のドアをノックすると身に覚えのない罵倒が降り注いだ。


「いや、それは知らないけど、渡すものがあって」


「入学祝い? 現金がいい」


 とりあえず上機嫌っぽい。


 ドアが開かれると、妹は当然制服ではなく部屋着を着ていた。


「で、何?」


「これ」


 手紙を渡す。正直、先に中身を確認してしまおうかとも思ったが、流石に不誠実なので思いとどまった。


「何、これ?」


「マクガフィン」


「……マフィン?」


 首を傾げ手紙を透かすような仕草をする妹。やはり、妹にもマクガフィンは通じなかった。


「郡上妹から美月にだって」


「旭ちゃんからってこと!? なんで兄さんが今更!?」


 妹に春期講習で郡上姉と一緒になったことは話していなかった。もともと話す気もなかった。


「春期講習で郡上姉と同じ授業受けてるんだよ」


「えっ、そうなの? 学年違うのに?」


「学年とかあんまり関係ない授業だから」


 実情は理解度に学年の差はある程度関係はあるようだし、可能なら学年別で授業をすべきだとは思う。まぁ、生徒数的に3学年合同にしないと運営できないだろうけど。


「あの2人、結局どうなったの? 詳しく!」


「いや、詳しい事情は聞いてないし」


「なんで聞いてないの!」


「いや、聞きたくないし……」


「いや、そこは聞かないとダメでしょ」


 聞かないとダメらしい。関わらない、知らないで突き通せるならそれでいいと思うのだが。


「まぁ、その手紙に近況とか書いてあるかも。知らないけど」


「読む」


「ん、じゃ」


 妹に手紙を渡し、僕はキッチンへと向かう。夕食を食べよう。夕というより、もう夜だ。


 夕食は用意されていない旨 連絡があったのでコンビニ弁当を買って帰っている。


 テーブルに唐揚げ弁当を広げ食べる。テーブルに席は4つ。4人用のテーブルを1人で贅沢に使う。


 おかずに唐揚げの1品しか入っていない弁当。僕は食事を面倒に思うタイプなので、品数が少ない方がなんとなく楽に感じる。


「兄さん、旭ちゃんから伝言」


 ただ唐揚げを食べていると、妹がスマホを片手にやってきた。


「何?」


「彩葉お姉ちゃんに優しくしてくださいって。兄さん、彩葉ちゃんのこと虐めたりしてるの?」


 疑いというより呆れ気味の視線。


「僕が虐めとか面倒なことする人間だと?」


「嫌がらせなんかはしないだろうけど、無視はすると思ってる」


 僕のことをよくわかっていらっしゃる。


「まぁ、色々訊いてくるのを無視はしてる」


「兄さんさ、彩葉ちゃんの現状はわかってる?」


「いや」


「サイテー。知ってたけど」


 妹は向かいの椅子に座った。


「私たちが勝手に通報したから彩葉ちゃんは色々大変だった、ううん、現在進行形で大変なことになってるの」


 いや、現在進行形では塾に通うくらいには余裕があるはずだ。しかし、そう反駁するのはやめて、「うん」と頷いておく。


「私たちはそれに対して」


「責任は取らないよ。僕たちは加害者じゃない。善意の第三者だ。責任を取る必要はない。虐待の通報者が責任を取るなんて馬鹿げてる。その理屈がまかり通れば」


「誰も通報しなくなる、でしょ。兄さんの言ってることは尤もかもしれないけど、だからって、現実として目の前に彩葉ちゃんがいるのに無視を決め込むのは違うと思う」


 なら、他の事例ではどうなのだろう。隣の家で虐待を確認して、被虐待児が通報しないでというのを押し切って通報し、でも、なんか色々あった結果にその家族が以前のまま隣に住み続けたら、その状況で近所付き合いを続けるのだろうか?

 被虐待児に「なんで通報したの?」なんて聞かれる状況で心中穏やかに暮らせるものか? 通報は義務で責任を負うものではないという前提も、現実には瓦解しているのではないだろうか。


 やはり妹に手紙を渡すべきではなかったかもしれない。


「僕は郡上姉妹にはもう関わらないのが正解だと思ってる」


 郡上姉妹から僕はどれだけでも逃げる。郡上姉との関わりは論理思考の授業が終わるまでの後2日。仮に作文の方の授業で被っても加えて4日。高校は同じになるが、学年が違うのだから関わる機会があっても短期間のもののはずだ。


「兄さんがそう思っても、私はそうしない。これ」


 妹はスマホをこちらに見せた。画面は電話発信のキーパッド。すでに番号は入力され、ワンタップで発信できる。番号から携帯ではなく固定電話だとわかる。


「一応訊くけど、どこの番号?」


「旭ちゃんの今いる家」


 まぁ、そうだろうな。


「番号は手紙に?」


「うん。兄さんも読んだ方がいいと思う」


 今度は手紙をこちらに差し出す妹。僕はそれを受け取らない。


「僕は他人宛の手紙を読むほど無礼な人間じゃないつもりだ」


「ただ知りたくないだけでしょ。はぁ。えっと、旭ちゃんは『ありがとう』って言ってる」


 僕には聞く気はない。少なくとも後2日は知らないで突き通したい。


「そっか、よかった。じゃあ、僕は部屋に戻るよ」


 弁当はとうに食べと終わっている。僕は席を立った。妹が僕の手を掴む。


「旭ちゃんは色々考えて、その上で『ありがとう』って言ってる」


 手を軽く払うと妹はすぐに手を離した。


「兄さん、私たち、間違ったことしてないよ。だから、そんなに怯えなくていい」


「怯えてるわけじゃ」


「最後、兄さんに全部任せちゃってごめん」


 妹はそう言った。頭は下げず、目はこちらをジッと見ていた。


「いや、そういうのいいから、別に」


「兄さん、彩葉ちゃんの話、ちゃんと聞いてあげて。絶対、大丈夫だから。兄さんのしてる想像より、現実はずっとマシだよ。だから、そんな全力で逃げなくて大丈夫」


 絶対とか気安く言ってくれる。


「いや、再開一発目で殴られてるし」


「……え、あれ、そうなの? うーんと、彩葉ちゃんもお母さんと引き離されて精神的に、ね、たぶん。でも、兄さんのこと恨んでるとかそういうのじゃなくて」


「いや、当人は逆恨みって単語使ってたし、理不尽だって自覚はあるにしろ恨んではいるんじゃない?」


「あ、あっれー? そうなの?」


「いや、本当のところどうかなんて知らないけど」


「……やっぱりわかんない。実は彩葉ちゃんの方は超恨んでるかも。わかんない」


 そりゃ、他人がどう思っているかなんてわかるわけがない。


「美月がさっきの番号に電話をするにせよ、僕は逃げるよ。極力関わらない」


 僕はその場を後にした。


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