第十章:本
静寂。二人のどちらも口を開かなかった。何を言えばいいのか分からなかった。
アレックスはただ、あの建物からできるだけ遠くへ離れ、人里離れた場所を見つけて車を止め、本を調べ、次の行動について考えたかった。恐怖に満ちたあの夜は終わり、ようやく太陽が昇り始めていた。少しでも光があれば、あの恐ろしい出来事を忘れる助けになるだろう。車の中では、気まずい空気が続いていた。数キロ走ったあと、アレックスは体調が悪くなった。外の世界が止まることなく回り始めた。現実が歪んで見え、まるで幻覚のようだった。道路も、車も、セレーネさえも歪み、ぼやけ、万華鏡を通して見ているかのようだった。心臓が激しく鼓動し始めた。ドクン、ドクン、ドクン。呼吸はどんどん速くなり、荒くなった。唾を飲み込むのも難しかった。喉は乾き、冷や汗が流れた。彼は必死に車を路肩に寄せた。幸い、右側に小さな退避スペースがあった。セレーネは彼が何をしているのか分からなかったが、やがて気づいた。彼の様子がおかしい。先ほどまで敵意と冷酷さに満ちていたその目が、今は純粋な恐怖に変わっていた。彼は震えながら前を見つめていた。
「アレックス、アレックス!どうしたの?何があったの?」セレーネは心配そうに尋ねた。
アレックスは話すことができず、呼吸はますます荒くなった。
「車から降りて!早く!少し外の空気を吸ったほうがいいわ。」アレックスは車を降り、ボンネットに寄りかかって落ち着こうとした。目を閉じ、その場でじっとしていた。ゆっくりと呼吸は整い、震えも消えていった。朝の冷たい空気が大きな助けになった。セレーネは何も言わずに近づき、小さな水のボトルを手渡した。アレックスは一口飲むと、驚いたように話し始めた。
「セレーネ、ごめん!俺はひどいことをしてしまった。俺は怪物だ!本当にごめん。君にあんなものを見せてしまって。」彼の目は涙で潤んでいた。
「自分の行動も、考えも、コントロールできなかったんだ。俺は…」
「アレックス、あのモーテルで何が起きたのかは分からない。でも覚えておいて。あの人たちは悪い人たちだった。あなたが彼らを殺したことで、もしかしたら多くの命を救ったのかもしれない。」セレーネはそう言ったが、本当は嘘だった。実際には、今この瞬間も彼女は怖かったし、起きたことを簡単に忘れることはできなかった。
「セレーネ、嘘をつかないでくれ。君の目を見た。俺を見るその視線を見たんだ。君は俺を怖がっている。それは当然だ。セレーネ、俺は怖いんだ。」
「何が?」と彼女は尋ねた。
「自分が何をしてしまうかだ。怖いのは行為そのものじゃない。行っている最中に感じる感情なんだ。セレーネ、あの女を拷問しているとき…俺は楽しんでいたんだ!」セレーネは青ざめたが、それを隠そうとした。
「アレックス、正直に言うわ。怖い。あの場所でのあなたは別人だった。でも、あなたの中にはまだ理解していない何かの力があって、それが支配しようとしているんだと思う。同じことが起きないようにするには、自分が何者なのかを完全に知ること、そしてこの怒りや心の闇がどこから来ているのかを理解するしかないわ。モーテルで起きたこと、あの家での火傷、そしてあなたの友達が語った“永遠の者”との最初の出会い——それらはすべて謎だけど、いつか答えが出るはず。そしてそれがあなたを救うかもしれない。」セレーネは大きな自信と落ち着きを見せながらそう説明した。しかし彼女の心の中には疑いと恐怖、不安が渦巻いていた。
「たぶん君の言う通りだ、セレーネ。前に進むことを考えないと。いつか自分が何者なのか、そしてなぜこんなことが起きているのか分かるはずだ。ありがとう、セレーネ。本当にごめん。」
「大丈夫、もう考えないようにしましょう。今は本があるんだから、ルーベンの心を見つけるための呪文を探しましょう。」と彼女は提案した。
「そうだな。あそこに座ろう。」アレックスは、人目につかない小さな場所を指さした。そこには周りを木々に囲まれた小さなスペースがあり、いくつかのベンチが置かれていた。そこからいくつかの小道が伸びていた。二人は座り、本を取り出した。以前の持ち主たちの使い方を思うと、セレーネは内容にあまり乗り気ではなかった。それでも開くしかなかった。ここで諦めるわけにはいかなかった。
「準備はいい、セレーネ?開けるよ。」
アレックスはズボンに差していたナイフを取り出し、手のひらに小さな切り傷をつけた。そしてその血を、闇の本の表紙の上に滴らせた。血は均等に広がり、ペンタクルのすべての隙間を満たしていった。すると突然、燃え上がった。アレックスは驚いて本を地面に投げた。炎が消えると同時に、本はひとりでに開いた。
「この本、好きじゃない!」とセレーネが叫んだ。
「俺もだよ!毎回開くのにこんな手順が必要じゃないといいけどな。じゃないと、何かに火をつけるか、俺が出血多量で死ぬかだ。」アレックスは、また何か起きるのではないかと警戒しながらゆっくりと本に近づいた。それを手に取り、再び座った。
「まあ、とりあえず今は安定してるみたいだな。」アレックスはほとんど皮肉のような口調で言った。
ページは羊皮紙でできており、とても古そうだった。文字はラテン語と、見たことのない言語で書かれていた。インクは暗い赤色で、本の内容を考えると、二人はそれが血なのではないかと推測した。しかし、それだけではなかった。本は何か別のものを放っていた。エネルギー、そして不吉な感覚。まるで生きているかのようだった。その本には邪悪で暗い魂が宿っており、きっとそれは、この本を生み出した者と同じものだった。アレックスとセレーネは、その感覚をはっきりと感じ取っていた。ページをめくるたびに、圧力のようなものがどんどん強くなっていった。それは重く、強大な力だった。外のエネルギーを吸収している。本は、栄養を摂っているのだった。
「アレックス、この本おかしい!秒ごとに力が抜けていく感じがする。閉じて、今すぐ閉じて!」セレーネは叫んだ。
アレックスはすぐに本を閉じた。




