ティリスちゃん親衛隊
翌日、大人達がアード側から出された条件に関して熾烈な外交戦を繰り広げている頃。
当事者であるティナは、椎崎首相が滞在しているホテルへ改めてクレアとフィオレ、フィーレ姉妹を招いてのんびり過ごしていた。既にザッカル局長は軌道上の艦隊へ戻っており、二日後に再度来訪するまでティナ達も時間の余裕がある。
残念ながら椎崎首相は交渉のため不在であるが、折角だから一日羽を伸ばそうと決めたためである。
「そう言えば、ばっちゃん。最近親衛隊の皆さんを見ないけど大丈夫なの?」
各自が思い思いの時間を過ごす中、当たり前のようにフェルやクレアと一緒に過ごしていたティナ、資料を読んでいたティリスへ問いかけた。
親衛隊とは、ティリスが某国工作員二十名を無理矢理改心させて結成した地球人グループであり、某国絡みで活躍。更にティル誘拐未遂事件でも水面下で動くなど大活躍しているのだが、最近はティリスが直接絡むことは無かった。
ティナとしては遠目に見たことがある程度であり、単純な好奇心から来る質問だったのだが。
「あー……親衛隊はちょっとティナちゃん達の教育に悪い影響を与えちゃうくらい変わっちゃったから、使わないようにしてるんだよね」
珍しくふざけた様子ではなく、逆に溜め息混じりに呟かれたティリスの言葉に、ティナと一緒にフェルとクレアも揃って首を傾げた。そこへ。
「おぉっっ! 魂の導きに従ってみたが、やはり我らの麗しきティリス様はここに降臨なされていたっ!」
「故事に曰く、犬も歩けばティリス様に当たる……ティリス様!我らは貴女の犬です!忠実なる犬ですっ! その美しくしなやかな足で、どうか存分に踏んでくださいませっ!」
「未だにアードに仇成す不心得共め! 我らティリス様の使徒の会が、神に代わって神罰を下してやろうか!」
「アードに栄光あれ!ティリス様の貧乳こそが至上だ! 見苦しい巨乳は悉く死すべし!」
「あんたらどっから湧いてきたの……あと最後の奴、後でお仕置きだからね」
「奇跡か!久しぶりにティリス様の生声きたーーーっっ!!」
「長き月日を耐え抜いた甲斐があったというものだな……嗚呼、我が生涯に一片の悔いなしっ!!!」
「神に感謝……あ、ティリス様が神だった」
突如として現れたのは、屈強な肉体を持つ様々な人種の男達であった。問題点は、全員ティリスの写真がプリントされた服を着ている点であるが。
この時点でティナ達はドン引きし、珍しくティリスが額に青筋を浮かべた。
現れて早々、好き放題騒ぎ散らす彼らこそ、ティリスが改心させたティリス親衛隊の愉快な仲間たちである。
ただし忠誠心が天元突破した結果、ティリスと貧乳をこよなく愛する色々残念なカルト集団へ変貌してしまったが。
「えっと……」
「むっ……貴女は……残念ながら少し育ってしまっているが、巨乳ではなさそうだ。ティリス様の敬虔な使徒として認めよう」
勇気を出して話し掛けてみたティナに対する返答は、既に意味不明であった。
「え?あっ、ありがとうで良いのかな?」
「気にしないで、ティナちゃん。適当に聞き流して良いから」
何故か巨乳を敵視している様子で、フェルやフィオレから距離をおく親衛隊。二人も近寄ろうとしなかったが。
「あの様な無駄な脂肪の塊なと持たない方が良い。貴女のそれがこれ以上育たないことを祈るとして。我々はティリス様の敬虔な使徒である」
「ど、どうも」
それでも頑張ってコミュニケーションを取ろうとするティナの健気さに、ティリスは内心涙を流す。だが、話の内容はあまりにも残念すぎるものであった。
「我々の信仰心を敢えて表現するなら……例えば、あの何の変哲もない壁を見たまえ。見ての通り、真っ平らな壁だが、我らはあれを見てティリス様を思い浮かべることができるのだ!」
「へ? あっ、あぁ……そういう……」
「フハハハハッ! それだけじゃないぞ!例えばまな板、或いは断崖絶壁、更にはベニヤ板!我々は、全ての平面でティリス様を連想できるのだ!」
「うおおおぉぉぉっ! ティリス様ーーーッ!!」
「俺は、地平線や水平線を見てもティリス様を感じ取れるぞ!」
「すべての平面はティリス様に通じる! つまり、世界はティリス様の愛で満たされている!!見苦しい巨乳死すべしッッ!!貧乳こそ至上っ!!! ティリス様を崇めたまえ、唯一無二の貧にゅ……!」
「貧乳貧乳うるさーいぃっっ!!」
「ぐふぉっ!?」
好き勝手言いまくる親衛隊に対し、遂にティリスがキレた。
武芸を嗜むフィオレから見ても見事と言える鋭い前蹴りがリーダーの下腹部を撃ち抜き、男の弱点を撃ち抜かれた痛みに身もだえる。
ダメージを受けたリーダーがよろめき倒れるが、ティリスは踏みつけて追い打ちをかける。流石に土足は躊躇したのか、わざわざサンダルを脱いだ上で股間を踏みつけたのだ。
だが、冷たい目で見下ろされているリーダーの顔が妙に恍惚としているのは気のせいだろうか?
「貧乳で悪かったね!これでも昔は“ないすばでぃ”だったんだからね!」
アナスタシア曰く、ティリスは最盛期の頃から慎ましかった。閑話休題。
「いえ、むしろ……最高です!!」
「お黙り!! お馬鹿さんで、マヌケで、役立たずが!!
図体だけでかいだけのポンコツが、こんな美少女に踏まれて嬉しいの!?ご両親にごめんなさいしよっか!」
「すげぇ!流れるような言葉責めだ!」
「良いなぁ……」
「羨ましい!!!俺も小さなもちもち生足で踏み踏みされたい!」
「我々の業界ではご褒美です!歓喜であります!!」
「めっっ!!!」
「「「はい!!」」」
ティリスに踏みつけられているリーダー以外は、自然と整列し正座する。
その際に、できる限り姿勢を低くしてパンツを覗こうとしたがじろりと睨まれ、すぐに覗くのを止めた。
「やっぱりティナちゃん達の教育に悪い!!!しばらく監禁だよ!私が許すまで、一歩たりとも日本から出ることも禁止!! 通信もだよ!」
「「「「監禁&放置プレイッ!? ありがとうございます!」」」」
「……なにこれ?」
ティナの言葉は、親衛隊以外の居合わせた全員の総意である。地球は実に多様性に富んだ惑星である。
一部始終を目の当たりにしたアリアは、その様にレポートを作成してアード側に共有されることとなる。
つまり、妙な誤解が更に増えた結果となった。




