新たなる絆(胃)
無事に初日の顔合わせを済ませたザッカル局長は、その後ホスト国である合衆国大統領ハリソンと個別会談を開いていた。
とは言え、交渉をしているわけではない。太陽系に滞在している間の予定を再確認しているだけである。
滞在中の宿泊施設や警備の予定を説明されたザッカルであるが、穏やかな笑みを浮かべて謝辞した。
「ご配慮痛み入るが、地球側へ無用な負担を掛けたくはない。お招き頂ければ何処へでも馳せ参じますが、それ以外は軌道上の母艦にて過ごさせていただく」
純粋に地球側の負担を心配した発言であるが、受け取り方次第で地球の警備を信用していないと言われたようなものである。
ただ、幸いその言葉を受けたのがアード人の善性をよく知るハリソン大統領であったことから、不幸な行き違いが発生することはなかった。
「ご配慮に感謝します」
「変わらずに双方の連絡役はティナ大使に任せるつもりだ。
今回は滞在期間も長く彼女自身も地球各地を訪問したい様子だから、可能な限り彼女の要望を叶えてほしい。こちらは後回しにして構わん。いや、むしろ後回しにしてくれ」
ここでハリソンはある疑念を抱いた。これまでもそうであったが、アード側が余りにもティナの望むように動いているからだ。
しかも今回はアード政府の重役にして直接の上司であるザッカルを伴っているにも関わらず、それでもティナの意思を優先させているのだ。地球の常識から言えば、それは異常なことである。
そこまで思い至った時、ハリソン大統領の長年の勘が警鐘を鳴らした。
何故今ザッカル局長は、わざわざ自分よりもティナを優先するように念押しをしてきたのか。
そして異星人対策室、より正確にはジョン=ケラーより内密にと念押しされて出された提言である『何よりもティナの意思を尊重することが、交流の鍵である』との言葉。
これらの材料は、ある結論を彼の脳裏に導き出した。
途端に青ざめるハリソン大統領へザッカル局長は同情をたっぷり含んだ優しげな瞳で見つめ、そっと肩を叩いた。
「お互いに、知りたくもなかったことを知ってしまった様子。
口になさるな。それはアードでも最重要機密であり、私もつい先日知ってしまったのですから」
「貴方もですか!」
「お互いに苦労しますな。愚痴ならば幾らでも聞きますので、いつでも連絡してきてください」
「感謝します、ザッカル殿」
二人の間に奇妙な友情が芽生えた頃、その原因である少女は椎崎首相の滞在するホテルでのんびりと過ごしていた。ティナ達がこのまま滞在すると聞いた椎崎首相は、直ぐ様部屋を手配したのだ。
もともと完全な貸し切り状態だったので部屋の準備は簡単であったが、同時に警備の問題が発生した。
「問題はありません。むしろティナ達が滞在していることを知られるリスクが高まります」
「そうね、外部に悟られないよう注意して。彼女達のことは他言無用、口外は許さないわ。気を引き締めなさい!」
アリアの助言を受けて椎崎首相は特別な警備の追加は行わず、彼女達が滞在することも秘匿するように指示を出した。
さて、ティナ達を呼び出したのにティリスからとんでもない爆弾提案を受けた椎崎首相は改めてティリスとの非公式会談を設けた。
まあ会談と言っても、用意された部屋での雑談のようなものであるが。
「そのご褒美についてだけど、非公式扱いにしてくれないかしら?条文に明記されちゃったら、我が国の立場が悪くなる。無用な諍いは避けたいから」
「何で争いになるのかな?☆」
用意された椅子に座り、足をプラプラさせながら愉しげに頬杖をつきつつ椎崎首相を見つめるティリスを相手に、対面に座る椎崎首相も笑顔を浮かべた。
「もう、腹の探り合いは無しにして頂戴。ちゃんと理解しているのは分かってるんだから。
さっきの提案だって、ティナちゃんが我が国を贔屓にしてくれているから、でしょう?」
「美月ちゃんは賢いね☆どうせならティナちゃんが日本を贔屓にする理由も教えてくれたら嬉しいな☆」
「それは……私の口からは説明出来ないわ。ティナちゃんとの約束だもの。どうしても知りたいなら、本人から聞いてちょうだい」
前世に関わる内容であり、下手に公表すれば地球全土に混乱を招く情報である。少なくとも国際的な日本の立場が悪くなる可能性がある以上、彼女の口から真実を語るつもりはない。
また、ティナにもその危険性を充分に言い聞かせていた。
「ざんねーん☆まあでも、ティナちゃんが贔屓にしているならアードもその方針を引き継ぐだけだよ。
地球側がどんな反応を見せるか知らないけど、万が一意見が纏まらなかったら、日本だけでも了承するように表明してね」
「個別には対応しないんじゃなかったの?」
ティリスの正体に薄々勘づいている椎崎首相は、その方針と矛盾する提案に首を傾げたが。
「ティナちゃんの意志がアードの地球に対する意志になる。賢い美月ちゃんなら、言わなくても理解してくれると思うな☆」
意味深な言い回しは、椎崎首相の疑問を確信に変えるのに充分な意味を持っていた。とは言え、彼女は特に驚かない。
実は朝霧より、内密かつあくまでも自分の推論としてティナの出自についての報告を受けていたのだ。
とは言え、ティナの正体を知っても恐らく地球上で椎崎首相だけは特に驚かない。何故ならば、彼女にとってティナは既に特別な存在なのだから。
「そう、やっぱりティナちゃんは特別な存在なのね。個人的にはとっても嬉しいわ」
驚くわけではなく、心底嬉しそうな反応を見せる椎崎首相にティリスもまた笑顔を浮かべる。
ティナと彼女の間に存在する特別な絆に関して疑問が無いわけではないが、この反応を見るにわざわざ聞き出す必要も無いだろうと判断したのだ。
その夜はティナ達と一緒に過ごして、部屋に用意されていたキングサイズのベッドで皆仲良く眠りについた。羽や翼があるので少し注意が必要であったが、それもまた椎崎首相にとって貴重な体験となったのである。
だが、外ではちょっとした騒ぎになっていた。アリアがティナ達の存在を秘匿するように動いていたが、銀河一美少女ティリスちゃん号で待機していたフィーレが折角だからとクレアに依頼して、試作していた人型ロボットアースを十機もホテル周辺へ派遣したのだ。
突如としてホテル周辺に現れた全長五メートルの人型ロボット。
シールド、ビームガン、ビームサーベルを装備したそれらのロボット群は直ぐ様話題となった。
夜間であるにも関わらず大勢の人々が押し寄せて、警備担当者達の消化器官に深刻な打撃を与えたが、仲良く熟睡しているティナ達が知る由もなかった。




