ティナ、地球へ
無事にザッカル局長が国連本部へたどり着いて交渉が開始されたのを見届けた私は、大仕事が終わった安心感からフェルと一緒に彼女が好きな植物園でのんびりしつつ、暇な時間で地球を観光しようって話してたら美月さんから呼び出しを受けた。
かなり焦っていたし、直ぐにフェルと一緒に地球へ降りることにした。ばっちゃんもご指名だったから声をかけたんだけど、本人は物凄く悪巧みしてそうな顔でニヤニヤしてた。
「銀河一美少女の笑顔に失礼な☆」
「銀河一美少女(生後十世紀)」
「笑うな☆」
まあいつもの悪ふざけをして、美月さんから教えて貰った場所へ転移することにした。豪華なお部屋の画像が表示されて、いつものようにフェルと手を繋いだんだけど。
「ティナも目的地をイメージしてみてください。その方が、転移も楽ですから」
「そうなの?分かった」
じゃあこれまではフェルに必要ない負担を描けちゃってたのかな?相変わらず気付かない鈍感な自分に腹が立つけど、教えてくれたなら実践だ。
目を閉じて意識を集中させて、表示された画像をそのまま思い浮かべて。ちょっとでもフェルを助けるために、いつものようにマナを使って……ん?
「っと」
無事に転移できたみたいで、何処かのホテルの部屋の中に居る。
……なんだか転移する瞬間だけフェルが手を離したような気がしたけど。
「どうしました?ティナ」
「ううん、何でもない」
隣で可愛らしく首をかしげてるフェルとはしっかりと手を繋いでいるし、気のせいだよね。うん。
本人は気付いていないが、自分のマナだけで軌道上から転移したのである。この時点で、並みのアード人やリーフ人を遥かに上回るマナが宿っていることが示された。フェルはそれを確認するために一芝居打ったのである。閑話休題。
「誰も居ないね☆」
「寝室だと思うけど……コラッ、ばっちゃん!ベッドで遊ばないの!」
豪華な寝室には私達以外の誰も居ない。ばっちゃんがベッドで跳び跳ねて遊んでいるから取り敢えず注意して……あっ、転移魔法だ。
「地球上では常にお側に居ると宣言した筈ですが?」
「ごめん、アリア」
アリアが現れた。どうやらクレアが飛ばしたらしい。
私達やリーフの転移魔法は自分と触れたものを目的地へ転移させるけど、ノームの転移魔法は対象を任意の場所へ転移させることが出来る。つまり、自分も一緒に転移する必要がないんだ。
うん、私達より魔法技術力が高い。汎用性の高さで負けてるし。
「最盛期のノーム人は、アードを上回る文明を保持していたのでしょう。大変興味深いです」
「うん、そう思うよ。それより美月さんは?」
「隣室に生命反応を多数確認しました。おそらくここはマスター美月の寝室かと」
「お忍びでティナと会いたかったんでしょうか?」
「ん、そうかもしれない。フェル、確か美月さんはマナ適性があったよね?」
「はい、あのドリンクを飲んだ人は全員ありますよ」
ふむ、美月さんに関しては私関係無いけど好都合だ。距離も近いし、念話を……まあ、地球風に言えばテレパシーを使ってみよう。
ファンタジー作品お馴染みのテレパシーは、もちろんアードやリーフにもある。
ただ、物凄く使い勝手が悪い。チートのフェルでさえ有効範囲が百メートルも無いし、一人にしか送れない。しかも魔法があれば簡単に妨害や盗聴が出来るんだよね。だからアードの通信分野はほとんど科学の産物だ。
惑星全体へテレパシーを飛ばせて、しかも人数制限が無さそうな女王陛下が如何に規格外か分かるよ。
まっ、取り敢えずやってみよう。目を閉じて、美月さんを思い浮かべて……よし、繋がった。
『美月さん』
「……?」
ホテルに用意された会議室で随行員達と今後の話し合いをしていた椎崎首相は、突如脳裏に響いた声に驚き、周囲を見渡す。
「総理?」
「ううん、何でもないわ」
声をかけてきた随行員へ笑顔で返した。気のせいかと思ったのだが。
『美月さ~ん』
またである。しかも今回ははっきりとティナの声が響いた。だが、周りにティナは居ない。
もしや……そう考えた彼女は、物は試しに心の中答えてみた。
『ティナちゃん?』
『あっ、繋がりましたね。私の声が届いてるみたいで安心しましたよ』
『ビックリしちゃったわ。これ、所謂テレパシーというものかしら?』
『そうですよ!実は指定された場所にフェル達と一緒に来たんですけど、今お忙しいですか?』
『大丈夫よ、ちょっと待っててね』
指定した時間帯である夜に来るものと思っていたが、まだ夕方である。その辺りが実にティナらしいと微笑ましく思いながら、会議を切り上げるべく動いた。重要な案件では無いのだ。後回しにしても問題はない。
「明日からも交渉は続くし、ここまでにしましょう。国許にも伝えて。我が国は提示された条件を呑むとね。
皆も出来るだけ休んで。私も少し休むわ」
「畏まりました」
随行員達を下がらせて自身も用意された寝室へ赴く。
そこにはベッドをトランポリンのようにして遊ぶティリス、彼女が落ちても良いように待機しているアリア、窓から夕陽に照らされた合衆国の街並みを並んで眺めるティナフェルが居た。
「あっ、美月さん!」
「こんばんは、ティナちゃん。フェルちゃん達も元気そうね」
振り向いたティナが笑顔で声を掛けてきたので、椎崎首相もまた笑顔だ。
そして次にティナは椎崎首相の服装を見て目を見開いた。スーツ姿と思っていたが、まさかのセーラー服である。
ティアンナが飲ませた栄養ドリンクの影響で一気に若返った彼女は、元来の容姿の良さもあってセーラー服を着ればまさに美少女女子高生となるのである。
「美月さん、その服は……?」
「もちろん公の場ではスーツを着ているわよ、ティナちゃん。でも意外と国民の皆さんに好評だから、普段着代わりにしてるの。
まあ年甲斐もなくだなんて批判する声もあるけれど、国民受けが良いならそれくらい我慢するわ」
女性議員は増えているが、それでも文明誕生から政治の世界は男の世界である。その中で総理をやっている椎崎首相への風当たりは強い。
そんな最中、自身の容姿すら躊躇無く利用するところに彼女の政治家としての強かさが垣間見える。
「似合っていますよ、美月さん!あっ、そうだ。紹介しますね!」
ティナが手招きをすると、ティリスを見ていたアリアが近寄ってきた。
「こうして直接お会いできて光栄です、マスター美月」
「私も会えて嬉しいわ、アリア。朝霧外交官からお話は聞いているけれど、美人さんね。それに、わざわざ髪の色を変えるなんて……貴女の優しさが伝わるわ」
わざわざ髪色を変えたアリアの真意を察した椎崎首相に、アリアも笑みを返した。
「感謝します、マスター美月」
「流石美月ちゃん、察しが良いねぇ☆
よし、ご褒美をあげちゃう!☆第四項の火星について、日本と共同管理って明記しちゃうね☆」
いきなりティリスから落とされたとんでもない爆弾が、椎崎首相の胃を直撃した瞬間である。




