2話「瞬介の夏休み③」
アルバイトの現場での嫌がらせみたいなのは続いていた。
今までは無視していたが……
「あ?」
と、殺気を乗せてやり返すところから始めた。
すると奴らは急にどうしたというような感じで俺に目も合わせなくなった。
そして――
ネット上には、俺の名前のヒントとなるフラッシュというアカウントで、どのチームがどうのこうのという悪口を書き連ね、わざと奴らに伝わるようにして俺に敵対視する連中を炙りだしていった。
遠慮はしない。
戦うと決めたのだから、やるときはやる。
ただ暴力という手段は使わない。
……いや、言葉の暴力は使うか。
とにかく奴らが痺れを切らすように俺は、誠太と協力してじっくりと奴らとやり合うことにした。
……家族に危害が加わりそうになったのだ、もはや容赦はしない。
アルバイトを終え、そして――奴らが連れた。
それはもうドエライ人数のご一行という感じだった。
「分かってんだろうな? てめぇ」
「うるせ、群れなきゃ何もできない雑魚どもが……こいよ」
俺はわざと相手がむかつくだろう言葉を吐いて、駆けだした。
……奴らがついて来れる速度で。
向かったのは広い公園だ。
そこに集まったのは、どれほどだろうか……まぁ途中で合流してきた連中もいたからそれを考えればかなりの人数だろう。
武器である鉄パイプとか、金属バットを持っているやつもいるが俺としては、何の気負いもなく相手ができる。
さあ、かかってこいと声をかけた。
「ほら、早くかかってこいよ」
そうしてバトルが始まった。
……避けまくっては、たまに頭を撫でて挑発を入れたりとこれはこれで訓練になるから俺にとってはいい運動になるし、避けるためのスペース確保などの参考にもなる。周囲を囲むと言っても結局のところ、相打ちになるのを避けようとするからな。
そんな感じで、ひたすら避けてはオラオラ!と挑発していると――
やっとか。
という思いで懐に仕舞っていたスマホが震えだした。
なので、
「た、助けてくださーーーーい!」
と、大声で思いっきり叫んだ。
相手は急な態度の変化に限界かと思ったのか、勢い込んで行ったが……それはブラフである。
―カシャン!
周囲に灯りが一斉に付く。
そして、メガホンにて呼びかけが行われた。
「現行犯だ! 確保ぉーーーー!!」
という声とともに、警官たちが取り囲んで一斉に検挙が始まった。
何せこの人数による暴力行為の現行犯である。
もちろんこれも、誠太の母である刑事さんの協力もある。
最初は止められたが、大丈夫と誠太と俺が言えば無茶するわねと呆れられた。
そんなわけで順調に補導や逮捕されていくのを見ていると、何やら殺気のようなものが感じられた俺は急いでその場を離れた。
すると、殺気を持った連中も俺についてきていた。
相手は6人。
俺は、ため息をついてナイフを片手に黒装束という不審者を相手に戦うことにした。
「……殺気の時点で素人じゃないよな?」
一応話しかけてみるが、応答はなくただ襲い掛かってきた。
最初の1人を投げるのではなくナイフを持つ手のほうを蹴って、2人目を回し蹴りをお腹のど真ん中に叩き込んだ。
そして3人目4人目へと攻撃をしようとしたその瞬間――
急に自分の体に力が入らなくなったことに気付いた。そして、"妙に体が軽くなった"というとある経験もだ。
このタイミングでかよ、と思った時俺の体の鈍り具合を読んだ相手のナイフを腕に食らった。……掠る程度だったが。
慌てず冷静に、それを心がけ俺は自分の力が戻ったことを確認して相手の力を半分"頂いた上で"自分に上乗せする。
すると追撃をしようとした相手が怯んだのか、一瞬の隙ができたためにまたもや全力の力を持って3人目と4人目、そして攻撃をしようと仕掛けてきた残りの5,6人目の奴らにも見よう見まねの技を放つ。
「円脚!」
ラビィを真似た技。
それによってラビィほどではないが、綺麗にアゴへと入り奴らは昏倒したように力を抜いた。
「はぁ……はぁ……あ、危なかった」
力が戻るタイミングがタイミングだったので、どうしようかと思いながらも、腕の傷を抑えて警察官たちに連行してもらうためにその場を去った。
「……あ、誠太のお母さん!」
「あら、瞬介くん……!? ちょっとあなた怪我してるじゃない! さ、救急車に乗って!」
「す、すいません。ナイフを持った連中に襲われたので……連行お願いできますか」
俺は、警察官を呼んでもらい一緒に武器を持った犯人たちの下へと向かった。
……だが、残念ながら戻った時その場には誰もいなかった。
痕跡であるナイフは回収されたが……。
たしかに昏倒させたのに、まさかあの短時間でと思うが仕方ない。
俺は大人しく救急車に乗り、そのまま病院へと運ばれた。
幸い傷自体は皮を斬る程度の傷だったのは良かった。
翌日には、俺の家の扉にいたずらをした連中も軒並み逮捕された。
近くの防犯カメラに犯行の一部がはっきり映っていたらしい。
まぁ、それは誠太のおかげでもあるので何も言うまい。
「じゃあ、一連の出来事は解決したってことかい?」
「……いや、結局ナイフを使ったやつだけ捕まってないみたいなんだよ」
ずずずーっとストローでジュースを飲みながら答えた。
「お袋も、そこは妙に感じているらしい。わざわざ、ナイフを持って殺意を持つほどのことをされたのかという……まぁ今時はそういうこともありえるとは言ってたけどね」
と、誠太が誠太の母親から聞いたことを伝えてきた。
そのまた翌日、バイト先に向かい辞めることを告げると、残念に名残惜しそうに別れを惜しんでくれたが……それと同時に色々報告してくれた。
俺に絡んできていた奴らは軒並みクビになったらしい。
親方にその話を聞くと――
「……奴らは悪い奴らと付き合ってたんだ、まぁ若いうちはそういうこともあるらしいがさすがにシャレにならん奴らと付き合ってたってんじゃなあ」
そういうことらしい。
そして夏休みも残り一週間の時のこと。
我が家に嬉しい報告がやってきた。
「瞬介、改築ができたそうよ」
……なんていうか、アパートの大家さんには申し訳ないタイミングでどうやら実家の改築が済んだらしい。まぁもちろん弁償をした上でお返しする予定だが……。
そんなこんなで俺の高校最初の夏は、主にアルバイトで終わりを告げようとしていたのだが――
「おはよう、母さん」
「あら、瞬介。おはよう」
「瞬介、おはよう」
「ああ、親父もおはよう」
引っ越してから数日後、もう夏休みも終わる日のこと。
「え、えっと……」
ヤベ、は、恥ずかしいぞこれは……。
しばらくもじもじしていた俺を不審に思ったのか声を掛けられる前に、言い放つ。
「あのさ……これ! その、2人に」
それは、親父へのネクタイ、母さんへのエプロンを買うために夏の間にアルバイトをして貯めたお金で買った初めてのプレゼントだった。これのために高時給のバイトと自分で決めたバイトをしたと言っても過言ではない。
「しゅ、瞬介! あなたったらもう……」
「……ありがとうな、瞬介」
……て、照れくさいことに2人にはありがとうと泣かれてしまった。
恥ずかしいことこの上ないそんなイベントを終え、俺の夏休みは終わりを告げる。
と、同時に異世界側へと行く準備ができたのだった。




