第8話 最弱たちの反撃作戦。
第一防壁の破損から、三時間が経過した。
都市は混乱していた。
次々と落下するヴェイルの地上戦闘個体。
上空を飛び交う迎撃ミサイル。
道路には避難する人々が溢れ、軍の輸送車が何度も往復している。
しかし、最大の問題は別にあった。
「……敵の動きが読めない」
防衛司令室。
青砥先生が端末の画面を見つめていた。
こちらが迎撃部隊を配置すると、その位置を避けるように敵が移動する。
ミサイルを発射すれば、発射前から回避行動を取る。
まるで、未来が見えているかのようだった。
「観測眼の大規模ネットワークか……」
リツが呟いた。
ヴェイルの観測技術。
それが母艦によって都市全域に展開されている。
「どうするんですか、先生」
「……正直、打つ手がない」
司令室に沈黙が落ちた。
そんな中。
「一つ、方法があるかもしれません」
声を上げたのはリツだった。
「何?」
「昨日の地下鉄で回収した観測眼、覚えてますよね」
「ああ」
「あれの通信装置を逆利用すれば、敵の観測ネットワークに偽の情報を送り込めるかもしれません」
「そんなことが可能なのか?」
「やってみないとわかりません。でも……」
リツは拳を握った。
「何もしなかったら、負けるだけです」
先生は少し考えた。
そして頷いた。
「……わかった。やってみろ」
◇
作戦は単純だった。
敵の観測ネットワークを一時的に混乱させる。
その隙に防衛軍が反撃し、残された市民を地下シェルターへ避難させる。
ただし、問題が一つある。
通信装置を作動させるためには、都市中央の旧通信塔まで機材を運ばなければならない。
しかも、敵の攻撃が集中している区域だ。
「俺が行く」
レオが立ち上がった。
「レオ?」
「敵を撃ち抜くのは俺の仕事だ。お前は装置を動かすことだけ考えろ」
「……ありがと」
リツは微笑んだ。
そして、二人はアウラを見る。
「……アウラ」
「何?」
「一緒に来てくれる?」
アウラは少し驚いた顔をした。
「俺が?」
「うん」
「……戦力にならないかもしれないぞ」
「わかってる」
リツは笑った。
「でも、一緒にいてほしい」
アウラは数秒黙っていた。
それから、静かに頷いた。
「……わかった」
◇
午後十一時。
旧通信塔。
そこは、すでに戦場だった。
無数の殻兵が道路を埋め尽くし、建物の間を飛び交っている。
「リツ! 急げ!」
「わかってる!」
レオが両手の拳銃を撃ち続ける。
その腕前は、以前とは比較にならないほど鋭くなっていた。
仲間を守るための射撃。
無駄のない動き。
一体、また一体と敵が倒れていく。
しかし、数が多すぎた。
「くそっ!」
レオの残弾が少なくなる。
リツは制御盤へ配線を接続していた。
「あと少し……あと少しなのに!」
画面に赤い警告が表示される。
『認証失敗』
「嘘でしょ!?」
リツは何度も操作を繰り返す。
しかし、装置は起動しなかった。
その時。
「……リツ」
アウラが声をかけた。
「何!?」
「その装置、地下鉄で拾った奴だよな」
「そうだけど!」
「だったら、レオが撃った時に壊れた部分、直した?」
「……え?」
リツは画面を見た。
そして気づく。
観測眼の装置は、戦闘時に通信部分の一部が破損していた。
その代替回路を組み込んだつもりだったが、接続先が間違っている。
「あっ……!」
リツは慌てて配線をつなぎ直した。
『認証成功』
『起動準備完了』
「できた!」
彼女は思わず叫んだ。
「アウラ! ありがとう!」
「いや、なんか思い出しただけ」
「それでも助かった!」
レオが叫ぶ。
「リツ! 今だ!」
「了解!」
リツは装置を起動した。
次の瞬間。
都市全体に、目に見えない電磁波が広がった。
『敵観測ネットワーク、接続異常』
『未来行動予測、失敗』
『各指揮個体、通信混乱』
上空のヴェイル艦隊が、一斉に動きを乱した。
それまで完璧に人類の攻撃を避けていた敵が、初めて隙を見せる。
『全軍へ! 今だ、攻撃しろ!』
防衛軍の一斉射撃。
閃光が夜空を染めた。
ヴェイルの小型艦が次々と撃ち落とされる。
「やった……!」
リツは拳を握った。
「やったよ、レオ!」
「当然だ!」
二人は笑った。
アウラも、小さく微笑んだ。
しかし。
その瞬間、上空の巨大母艦が動き始めた。
それまで静止していた母艦の中央に、巨大な赤い光が灯る。
『緊急警告』
『敵母艦、主砲起動』
『攻撃目標――東京第七防衛都市全域』
青砥先生の声が通信に響いた。
『全員、地下へ退避しろ!』
リツは空を見上げた。
巨大な光の輪が、ゆっくりと広がっていく。
「……あれ、何?」
レオが呟く。
「まさか……」
リツは顔を青ざめさせた。
「あれは……都市ごと消し飛ばすつもりだ……!」




