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『人類最強と呼ばれる転校生、今日も銃を撃たない。』 〜宇宙人に侵略された地球で、アウラ・ソーロンの実力だけが誰にもわからない〜  作者: 夜凪ログ


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第7話 宇宙人が、俺の名前を知っている。

 東京第七防衛都市。


 人口、およそ四十万人。


 その上空に、二百隻を超えるヴェイル艦が現れた。


 黒い雲のような艦隊。


 昼間だというのに、空は薄暗くなっていた。


『市民の皆様へお知らせします』


『現在、都市全域に最高レベルの警戒態勢が発令されています』


『指定された地下避難施設へ移動してください』


 街中に放送が流れる。


 人々は銃を手に、慌ただしく移動を始めた。


 そんな中。


 二年B組の教室では、さらに異常な事態が起きていた。


「……アウラ」


 青砥先生が重々しく口を開く。


「お前に聞きたいことがある」


「はい」


「ヴェイルがお前の名前を知っている理由に、心当たりはあるか?」


 アウラは窓の外を見た。


 空には巨大な艦影が浮かんでいる。


 しばらくの沈黙。


「……さあ」


「本当か?」


「どうして、俺の名前なんでしょうね」


 先生は顔をしかめた。


 その時、教室の扉が開いた。


 現れたのは、防衛軍の制服を着た男たちだった。


「アウラ・ソーロン君だね?」


「はい」


「我々と来てもらう」


 リツが立ち上がった。


「ちょっと待ってください!」


「君は?」


「綾瀬リツです。同じクラスの生徒です」


「一般生徒は下がりなさい」


「説明してください。どうしてアウラを連れていくんですか?」


 軍人は短く答えた。


「敵が彼の引き渡しを要求している」


「……まさか」


「都市の住民を守るためだ」


 教室に沈黙が落ちた。


 アウラ一人を引き渡せば、四十万人が助かるかもしれない。


 それが軍の判断だった。


 レオが立ち上がる。


「そんな話を信じるのか?」


「何?」


「相手はヴェイルだぞ! 今まで何度も約束を破ってきた連中じゃないか!」


「我々にも考えがある」


「そもそも!」


 リツが叫ぶ。


「なんでアウラなんですか!?」


 軍人は答えられなかった。


 わからないのだ。


 アウラが何者なのか。


 なぜ敵が彼を要求しているのか。


 そして、彼を引き渡したところで本当に都市が助かるのか。


 何一つ、確証がない。


「……俺が行けばいいんですか?」


 不意に、アウラが口を開いた。


「アウラ!?」


 リツが振り返る。


「俺が行けば、みんな助かるって話なら……」


「馬鹿言わないで!」


 リツは思わず彼の制服を掴んだ。


「そんなのわかんないじゃない!」


「……そうだな」


「そもそも、あんた本当に強いの!?」


「今、それ聞く?」


「だって!」


 リツの目に涙が浮かぶ。


「もし本当に強いなら、あいつらを倒してよ! もし弱いなら、素直に逃げてよ!」


「……」


「どっちでもいいから! わけのわかんない理由で連れていかれないでよ!」


 アウラは、少し驚いたようにリツを見つめた。


 それから。


「……ありがとう」


 小さく、そう言った。


 ◇


 結局、アウラの引き渡しは保留となった。


 軍の上層部でも意見が割れたからだ。


 さらに、防衛軍の解析班は敵の通信に異常があることを発見した。


 アウラを引き渡せば都市を攻撃しない。


 確かに、そう伝えてきた。


 しかし、ヴェイル艦隊はその間も攻撃準備を進めていた。


 約束を守る気など、最初からなかったのである。


 ◇


 夕方。


 学園の屋上。


 アウラは一人で空を見上げていた。


「……いた」


 背後から声がする。


 リツだった。


「探したんだから」


「ごめん」


「……ねえ」


「何?」


「アウラって、何者なの?」


 風が吹いた。


 遠くで警報が鳴っている。


 アウラは、しばらく答えなかった。


「……ただの学生だよ」


「嘘」


「そう?」


「普通の学生を、宇宙艦隊が二百隻も追いかけてくるわけないでしょ」


「……まあ、それはそうか」


「ちゃんと答えてよ」


 アウラはリツを見た。


「……リツ」


「何?」


「一つだけ、約束してくれる?」


「何を?」


「もし明日、俺がいなくなっても……」


「嫌」


 即答だった。


「まだ何も言ってないんだけど」


「わかるもん。そういう、いかにも最後みたいなこと言おうとしてるでしょ」


「……」


「やめてよね。そういうの」


 アウラは困ったように笑った。


「……わかった」


 その瞬間。


 空が、赤く光った。


 都市上空のヴェイル艦隊。


 その中心に位置する巨大な母艦から、光の柱が放たれた。


 轟音。


 第一防壁の外側が吹き飛んだ。


『警告!』


『第一防壁、破損!』


『敵艦隊、攻撃開始!』


 リツは空を見上げた。


「……うそ」


 アウラも同じ方向を見ていた。


 しかし、その表情は少し違った。


 恐怖でも、驚きでもない。


 ただ静かに。


 彼は呟いた。


「……まだ待ってくれないか」


 その言葉を聞いた者は、誰もいなかった。

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