第4話 最強の正体を暴いてやる。
「絶対おかしい!」
神崎レオは、机を叩いた。
その隣で、リツがため息をつく。
「今度は何よ」
「アウラ・ソーロンだ!」
「でしょうね」
「俺は昨日から奴の戦闘記録を調べている」
「暇なの?」
「黙って聞け!」
レオは端末を操作し、一枚の資料を表示した。
そこにはアウラの学籍情報が記載されていた。
ただし。
「……何これ?」
リツが首を傾げる。
「戦闘実績、記録なし。射撃試験、未受験。所属部隊、なし。過去の防衛作戦参加歴もなし……?」
「そうだ」
「じゃあ、ただの転校生じゃない」
「そうとも限らん!」
レオは指を突きつけた。
「本物の特殊部隊員は、経歴が抹消されることもある!」
「もうそれ、何でもありじゃない!?」
しかしレオは真剣だった。
「だからこそ、確かめる必要がある」
「どうやって?」
「抜き打ち射撃試験だ!」
◇
翌日の実技訓練。
レオはアウラに一丁の訓練用拳銃を差し出した。
「受け取れ」
「何これ」
「訓練用の銃だ。今日はお前の実力を見せてもらう」
「……嫌なんだけど」
「逃げるのか?」
「そういうわけじゃないけど」
レオは挑発するように笑った。
「まさか、撃てないわけじゃないだろうな?」
アウラは拳銃を見つめた。
数秒。
「……撃たないよ」
そう言って、銃を返した。
「何っ!?」
「必要ないから」
レオの目が大きく見開かれる。
「必要ない……だと?」
その場にいた生徒たちがざわついた。
「やっぱり普通の銃じゃ実力を測れないのか」
「本人にとっては訓練にもならないってこと?」
「格が違う……」
「違うってば!」
リツは頭を抱えた。
そして、その日の放課後。
彼女はとうとうアウラ本人を問い詰めた。
「ねえ、アウラ」
「何?」
「一つ、確認させて」
「うん」
「あなた……今までに銃を撃ったこと、ある?」
アウラは少し考えた。
「……あるよ」
「本当?」
「ああ」
「何発?」
「……覚えてないな」
「怪しすぎる!!」
リツは机に突っ伏した。
「じゃあさ、どうして普段は銃を持ってないの?」
「別に、持ってないわけじゃない」
「え?」
アウラは机の下から黒い鞄を取り出した。
中を開く。
そこには、見慣れない古びた拳銃が一丁収められていた。
「なにこれ……」
「昔の銃」
「それは見ればわかるけど……」
リツは銃器整備を専門に学んでいる。
学園に存在する大抵の銃は、一目見れば型式がわかる。
しかし、それは違った。
黒い金属で作られた、小さな回転式拳銃。
奇妙なことに、製造番号もメーカー名も刻まれていない。
「……これ、どこの銃?」
「もらいもの」
「誰から?」
「昔、世話になった人」
「曖昧すぎない!?」
リツは銃を観察した。
そして、さらに重大な事実に気づいた。
「ちょっと待って」
「ん?」
「弾、入ってないじゃん」
「ああ」
「予備の弾は?」
「持ってない」
「…………」
リツは深呼吸した。
「つまり、今ここでヴェイルが襲ってきても、その銃じゃ戦えないってこと?」
「まあ、そうだな」
「そうだな、じゃなあああい!!」
彼女の叫び声が、教室に響き渡った。
◇
翌朝。
アウラの銃に弾が入っていなかったという話は、学園中に広まっていた。
すると今度は、別の噂が流れ始めた。
『実はアウラ・ソーロン、戦えないんじゃないか?』
『全部ただの偶然だった説』
『最強どころか最弱の可能性もある』
学園内の評価が、真っ二つに分かれた。
「おい、あいつ絶対ハッタリだろ」
「でもレオに勝ったのは事実だぞ」
「事故だろ、あれ」
「それを事前に読んでたんじゃないのか?」
アウラはそんな声を聞きながら、いつも通りに昼食を食べていた。
「アウラ」
リツが隣に座る。
「噂、気にしないの?」
「別に」
「強いって言われたり、弱いって言われたりしてるんだよ?」
「好きに言えばいいんじゃないか」
「……すごい精神力ね」
「そう?」
アウラはパンを一口かじった。
そして、何でもないことのように言った。
「……でもさ」
「何?」
「俺が本当に撃たなきゃいけなくなったら、多分あんまりいい状況じゃないんだろうな」
「どういう意味?」
「そのままの意味」
アウラはそれ以上、何も話さなかった。
その頃。
東京第七防衛都市の地下深く。
封鎖された旧地下鉄のトンネルで、異様な通信反応が観測されていた。
『目標座標、確定』
『個体名――アウラ・ソーロン』
『観測を継続』
黒い外殻を持つ何かが、暗闇の中でゆっくりと目を開いた。




