第2話 学園最強の男、三秒で敗北する。
「アウラ・ソーロン!」
翌日の朝。
教室に一人の男子生徒が乗り込んできた。
金髪に鋭い目つき。
腰には二丁の自動拳銃。
その名は神崎レオ。
二年生の実技試験で常に首位を維持している、学園でも有名なエリートだ。
「お前が噂の転校生だな」
「そうだけど」
「俺と勝負しろ」
「嫌だ」
「……何?」
「面倒だから」
教室が凍りついた。
「お、おい……あいつ、レオの挑戦を断ったぞ」
「相手にならないってことか……?」
「いや、絶対そういう意味じゃないでしょ!」
リツがツッコミを入れる。
しかしレオは怒るどころか、不敵に笑った。
「なるほど。実力差を理解しているというわけか」
「いや、そうじゃなくて」
「いいだろう。だが俺にもプライドがある。模擬戦だけは受けてもらう!」
こうして、なぜか勝負が決まってしまった。
◇
午後。
学園地下の模擬戦闘施設。
観客席には大勢の生徒が集まっていた。
「神崎レオ対アウラ・ソーロン!」
「どっちが勝つと思う?」
「レオは間違いなく強い。でも転校生は実力が未知数だ」
「楽しみすぎる!」
リツは観客席で頭を抱えていた。
「なんでこんなことになってるの……」
模擬戦は、非殺傷の訓練用銃を使用して行われる。
相手の装備に一定以上の命中判定を与えれば勝利。
単純なルールだ。
レオは訓練用の拳銃を構える。
一方、アウラは何も持っていなかった。
「お前……武器はどうした?」
「借りるの忘れた」
「俺相手に武器すら必要ないというのか!」
「だから違うって……」
だが、開始のブザーが鳴ってしまった。
『模擬戦、開始!』
レオが動く。
素早く右へ回り込み、アウラの側面を取る。
学年首位の名は伊達ではなかった。
射撃姿勢は完璧。
アウラはまったく動かない。
「もらった!」
レオが引き金を引こうとした瞬間。
「……上」
アウラが呟いた。
「何っ!?」
レオが反射的に頭上を見る。
バチン!
次の瞬間、天井の照明が破裂した。
模擬戦施設の制御盤から火花が散り、レオの真上にあった整備用パネルが脱落する。
「うおっ!?」
レオはとっさに後方へ飛び退いた。
しかし着地した場所は、コース外。
『警告。競技エリアから離脱』
『神崎レオ、失格』
『勝者、アウラ・ソーロン』
静寂。
そして。
「うおおおおおおおお!!」
観客席が爆発した。
「三秒!?」
「レオが三秒で負けた!?」
「しかも一発も撃ってない!」
「相手が攻撃する前から、事故を予測していたのか!」
レオは膝をついた。
「……完敗だ」
「いや、待って。今の、設備の故障だからね!?」
リツが叫ぶ。
施設の係員も慌てて駆け寄ってきた。
「す、すみません! 照明の固定部品に不具合があったようで……!」
しかしレオは首を振った。
「言い訳はしない。アウラは気づいていた。だから先に『上』と告げたんだ」
「いやまあ、それは確かにそうだけど……」
「そのうえで俺に回避させ、場外へ誘導した。恐ろしい男だ」
「そこまでは考えてないと思うよ!?」
アウラは天井を眺めていた。
「……あれ、危なかったな」
実際、彼が上を見た理由は単純だった。
照明から変な音がしたからである。
それ以上でも、それ以下でもない。
◇
その日の夕方。
レオはアウラの前に立った。
「今日の戦いで理解した」
「何を?」
「俺はまだ弱い」
「……そうか」
「だが、いつか必ずお前を超えてみせる!」
「頑張って」
レオは満足そうに去っていった。
リツはアウラに詰め寄った。
「ねえ、正直に答えて」
「何?」
「本当に強いの?」
アウラは少し考えた。
「……どうだろうな」
「自分のことなのに!?」
「少なくとも、神崎は強かったよ」
「いや、そうじゃなくて!」
アウラは答えなかった。
ただ、廊下の窓から空を見上げた。
その遥か上空。
人類のレーダーが届かない場所で、巨大な何かが地球を見つめていた。
『観測情報、照合中』
『対象名称――アウラ・ソーロン』
『過去記録との一致率、算出不能』
『再観測を申請』
その日、地球の衛星軌道上で、七年間動かなかった一隻のヴェイル艦が進路を変えた。




