030 キョーシローと呟きつつリュックからは淡い紫の光
【完全回復蘇生魔法! ……機械だから駄目か、なら――万能蘇生回復魔法! ……よし、本体がなんかちょっと波打ってるけど、なんとか形にはなったカ】
なんとかしてスマホの蘇生を試みたが、完全なる蘇生とまではいかなかった。
で、でででで、でも、ま、まま、まあ、まあまあまあまあ、まあいいとしよう。
壊れちゃったのは仕方ない。
う、うん、これはさ? まあ、まあね? まあまあまあまあまあまあまあまあ、まあね?
我も、ホーコもね? ゴミはグシャポイまでしか教えてなかったのがね? 悪いっちゃ悪いからね?
【ソーリー! まさかそこまで大事なモノだったとは! 許可さえあれば今すぐ腹を切って詫びる所存!】
【……いいよモウ。悪気はなかったんだろうシ】
そもそも、切腹されて動けなくなっても困るしな。
だからといって腹切してすぐ回復させても、あんまりオトシマエがついた事にはならないだろうし。
色々込みで面倒だし、意地悪でやったって訳でもないだろうし、もう、いい、どうでもいいよ。
【な、なんという寛大な処置。流石はレジェンド・ブッコロ】
どうしよう、褒められても全然嬉しくないし、むしろ全力でぶん殴りたい気分だ。
【へ、へへ……】
駄目だ。
笑ってごまかしたいのに、どうしようもなく涙がこぼれてくる。
このスマホは、……キョーシローとの、六年。
我の、キョーシローとの、全部で…………。
【レ、レジェンド?】
ニーチャのえらく心配そうな顔で、ふと、思い出してしまった。
そうだ、キョーシローが死ぬほど疲れてるのは、ニーチャが日本に居るからだ。
コイツが交渉で欲望のままに色々無茶な要求をしたからだ。
……でも、そうなったのは、我が、アーカイブにマシマシラーメンを食いたくなる呪いを、残した、から。
我が呪いなんてかけなければ、ニーチャが日本に来る事は無かった。
そう、言ってしまえば、……スマホが壊れたのだって、我が、原因。
ただの、自己、責任。
キョーシローが最近ずっと辛いのも、なにもかも、我が…………。
【……い、いやマダダ! まだ終わらんヨ!】
なんにせよ、ここで落ち込んでても仕方ない。
今日だけでも、キョーシローの辛さを肩代わりできなきゃ、なんの為に京都に来たっていうんだ。
我の尻を少しでも自分で拭けないで、どうするってんだ。
【たかがスマホが使えなくなったダケ! 大した問題ではナイ!】
ばっつんばっつんと、己の頬を叩いて我を鼓舞してみた!
うおおおおおおおおおおおおっ!
こうなったらやりきってやんよおおおおおおおおおおおおっ!
気合いだ気合いだド根性だああああああああああああ――あああああああ↓
【なんという立ち直りの速さ。このニーチャ、感服した】
無理矢理心に鞭打ってもすぐテンションが下がりそうになるが、もうそんなん気にしてられない。
我の気持ちなんてとりあえずどうでもいい。
とにかく今は、多少遅れてもいいから、北野天満宮にちょっとだけ寄って、すぐ京都駅に向かう。
これだけを目的に行動する事だけを考えろ! いいか我!? それ以外の思考は無駄だ!
とにもかくにも行動だ! ……フウウウウウウウウウワオウッ!
「アノ、スミマセーン! 道をおたずねしたいんですケドー!」
適当にそこらで歩いている人に、最寄りの駅までの道を聞いてみた。
幸いな事に、二人目の人が駅まで案内してくれた。
でも問題なのは、その駅からどうやって北野天満宮に行くかって事。
それに気が付いたのが、案内してくれた人と別れた後だった。
……フーワッホイホイ♪ 我ってば♪ マジマジ愚か♪ マジ愚か♪
はいはい、それじゃ気を取り直して――とりあえず駅の職員っぽい人に、行き方を尋ねてみた。
そしたら普通に教えてくれそうな口ぶりだったので、ちょっとタンマっつって待ってもらって、近くのコンビニでメモ帳とペンを購入。
職員の人の言葉を、一言一句漏らさずに記入していく。
そんでもって、ちょっとだけ道に迷いつつも、なんとか北野天満宮に辿り着き――午後四時ちょい。
本当なら少しだけ中を見るつもりだったけど、2500円の桐箱のお守りだけ買ってニーチャを強引に引きずり即退散。
このお守りだけは傷つけたくないので、空のグシャポイボトルだらけの我のリュックサックに入れる。
もちろん、厳重かつ安心安全大事大事に保管しておきたいので、ボトルの上に我の服を敷いて、そこにお守りを置いてはい超絶完璧我天才!
そこから市バスで円町駅まで行き、電車で京都駅へガッタンゴットンプシューガコン。
現在時刻は午後五時ギリ手前。
【ヨシ、あとは帰るだけダ! 時間をかなりオーバーしてル! とりま急ぐゾ!】
【オウケイレジェンド!】
我は駅員さんに指定席券売機の位置を教えてもらい、人間レベルで十分再現可能な早歩きで向かった――んだけど。
【……………………エ゛?】
ちょっ、ま、……………………いや、いやいやいやいやいやいやいやいや。
…………ウソデショ!?
ここ、交通系ICカード使えないじゃん!?
な、なんで!? 東京で、カードで新幹線のチケット買えたのに、なんで京都は無理なの!?
……あーっと、ちょっとまて、他の場所の券売機ならいけるのでは?
とりあえず後ろに並んだ人に聞いてみる。
「え? 東日本じゃあるまいし、クレカ以外のカードじゃ新幹線の乗車券は買えないよ?」
…………なるほど。はいはいはいはい、なるほどなるほど?
落ち着け落ち着け? 我は超絶ハイパー天才、天才はあわてなーい。
だいじょぶだいじょぶー。
「げ、現金なら普通に買えますよネ? 大丈夫デスヨネ?」
「そりゃ大丈夫だよ?」
よおおおおおおおっし!
だったらみどりの窓口でカードを解約して、チャージ分を現金化すればいけるいけるいけるいける!
我ってばマジで圧倒的ミラクルてんさ――
「申し訳ございませんが、東日本で購入された交通系ICカードは、西日本のみどりの窓口で解約できません」
……………………………………………………は?
…………え? じゃ、じゃあ、どうしろっての?
我、もしかしてこれ、…………詰んでない?
と、とりあえず、受付の人も苦笑いしてるし、このままぼけーっとしても、人の迷惑になるし、……窓口から、一旦、出る。
【レ、レジェンド? 何があった? 一体どうした?】
みどりの窓口を出て少し歩いた所で、我は……思わず、リュックを胸に抱き、壁に背を預け、しゃがみこんでしまった。
「ドボ、ジヨ…………」
もう、……どうすればいいのか、…………分からない。
交通系ICカードじゃ、……新幹線のチケットが買えない。
現金が残り五千円ちょいで、カードの解約すら出来ないから、現金でのチケット購入も現状無理。
……魔法で空を飛んで帰ろうにも、家の方向が分からない。おまけに燃費の問題もある。
スマホが壊れてるから、どこにも連絡が取れない。
電話番号をひとつも覚えてないから、誰かに電話を借りて連絡をする事もできない。
現金を借りようにも、三万円も、見ず知らずの人に借りられる訳が無い。
駅員に無賃乗車を頼むのだって無理がある。
警察に頼るにしろ、今問題なのは現金が無いってだけだし、漫画知識だけど、確か警察は千円までしか貸してくれない筈。
だったら、新幹線の運賃の話をされてもどうしようもない。
相談したところで、警察に迷惑がかかるだけ。何の解決にもならない。
人を襲って警察のお世話になれば窮地は逃れられるかもしれないけど、そしたらもう多分、キョーシローとは二度と、会えなくなる。
そうなったら、地上に、……日本に居る意味なんて、無い。
……駄目だ。
…………手詰まりだ。
「もう、帰れナイ……」
……………嫌だ。
このまま京都に居続けるのは、嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
…………帰りたい。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。
キョーシローのおうちに、帰りたい……。
「……キョーシロー…………」
ぎゅっと、リュックサックごしにお守りを抱きしめ、そのまま、顔をうずめた。
帰れないのなら、このお守りを届けられないのなら、我は、我は一体なんの為に……。
【――ジェンド! おいレジェンド! だからさっきから聞いている! なにがあった!?】
【ニーチャ……】
面をあげると、ニーチャが必死の形相で我に話しかけていた。
ああ、なんか、さっきからお前の声が、聞こえてた様な、気がしないでもない。ごめんごめん。
お前も不安だよな、我ばっかり落ち込んでちゃ、駄目だよな。
ちゃんとな、最低限、説明くらい、しないとな……。
【……現金が、無イ。だから、帰りの新幹線のチケット、買えナイ。もう、おうち、帰れナイ……】
【なるほど……】
ふむふむと頷いてから、ニーチャは虚空を睨みつけた。
【……シローとの約束を破る事になるが、このままリアと会えないのは勘弁だ。…………仕方ない】
気が付かないうちに大量に零れていた涙のせいで、ニーチャの姿がめちゃくちゃに歪んでぼやけた。
なんど目をこすっても止まらない涙と格闘していると、そのうち「きゃっ!? な、なに!?」という悲鳴じみた誰かの声が聞こえて来た。
【ニンゲンよ、ミーに金を寄越せ!】
そしたらなんかしらんけどニーチャが人を脅してなにやってんだあのあほんだらああああああああああああああああああああああああああああっ!?
【ヤメロ! 言っただろう、郷に入っては郷に従えト! 日本には日本の金の貰い方がアル!】
我は意を決して、周囲の事なんて一切気にせず、ニーチャに脅されていた人間の前に滑り込み――必殺、土下座をぶちかましーの!?
「……お恵みヲ~」
乞食のマネをするダンジョンボス。
こんな姿、キョーシローには見られたくないな――なんて思った矢先。
「…………お前、時代劇でも見たのか?」
声がした方を振り向くとそこには――
「……キョーシロー!? エ!? ナシテ!? ナシテココニインノ!?」
「なしてじゃねえよボケナス! 心配させやがってこの野郎が!」
――汗で前髪を張り付かせ、気持ち肩で息をしているキョーシローの姿があった。
そんで、出会ってノータイムで脳天に拳骨おみまいされた。
時間を巻き戻せるのなら、せめてこの時だけでも――防御力ゼロにしておけばよかった。
それだけが京都観光の、唯一の心残りかもしれない。




