7.いたたまれない…(アネット)
ポールとジャネットが私を裏切って密通していた事は、瞬く間に学園中に広まった。
あの二人が隠す気もなく「真実の愛だ」「仕方のない事だ」とのたまって、所構わずいちゃつくからだ。
「アネット、大丈夫?」
「あんな二人の事なんて、気にしないで」
友人達は私を気遣ってくれているのだろうが、そう言われるたびに、かえってあの二人を思い出して辛かった。一度耐えかねて「あの二人の事は思い出したくない」と言うと、その後は言わないでいてくれた。
だが学園のほとんどが、同情の目で私を見ており、常に自分が「婚約者と妹に裏切られた」と思い知らされて、居心地が悪かった。
中には好奇心を隠しもせず「婚約者と妹に裏切られて、お気の毒ねぇ。大丈夫?」と、言ってくる者もいた。
涙の1つも流して「思い出して辛い」というと、慌てて謝罪して、二度と関わってこなくなった。
二人の事を思い出すと自然と涙は出てくるし、相手もさすがに周囲の目が気になるようだ。
家に帰れば、今度は兄が新しい相手を勧めてくる。
毎度断るが「会うだけでもあってみろよ、きっと気に入るぞ」と、ごり押ししてくる。
正直もう恋なんかしたくないし、今は異性と関わるのも嫌だった。
(どこか遠くへ行きたい)
私の事情を知らず、私に恋愛を求めてこない場所に行きたかった。
そんな想いを抱えながら、鬱屈した日々を送っていたが、ある日待ち伏せしていたポールとジャネットに遭遇した。
二人は大勢の前で頭を下げて、謝罪してきた。
けれど私の位置から、二人の口元が綻んでいるのが見えた。
隣にいた友人達も気づいたのだろう。あからさまに顔を顰めてた。
(この二人は悪いなんて少しも思っていない、それどころか私が許さざるを得ないように、わざと大勢の前で頭を下げているんだ)
そう気づいた瞬間、一気に頭に血が上った。
それまでは裏切られたショックと悲しみだけだったが、怒りと憎しみが湧いてきた。
(たとえ周りからどう思われようとも、この二人の思い通りにさせたくない!)
憎しみの赴くまま拒否すると、ポールに暴力を振るわれて気を失った。
目が覚めると、自室のベッドの上だった。
「あぁアネット。気が付いたのね、良かったわ。貴方3日も眠っていたのよ」
隣で、心配そうにしていた母と目が合う。
(そうだ思い出した、私はポールに髪を引っ張られて、地面に引き倒されたんだ)
思い出すと涙が出てきた。
それが、あれほど愛していた相手に暴力を振るわれた事なのか、あの二人に会ったことで裏切られた辛さを思い出した事なのか、憂鬱な生活に限界を迎えたからなのか、わからなかった。
ただこれ以上耐えられない事だけは、わかった。
無言で泣き続ける私を、母も無言で見ていた。
やがて泣き止んだ頃、母が提案してきた。
「ねぇアネット。もう学園に行くのはやめて、遠くに行かない?」
「えっ」
「実はお父様の知り合いで、随分お年を召された方がいらしてね。奥様にも先立たれて、後妻という名の看護の方を探してらっしゃるの。貴方と年の近いお孫さんとその奥方がいらっしゃるの。とても気さくな方達だから、良い友人になれると思うの。どうかしら?」
母の提案に心が動いた。
(孫と年の近い娘に色恋を求めないだろうし、孫息子も既婚者なら大丈夫だろう。何より、もう誰も私を知らない場所に行きたい…)
「わかりました、お受けします。出来るだけ早く行きたいので、話を進めて下さい」
私の返事に、母がちょっとだけ寂しそうな顔をする。
「わかったわ。そのかわり体に気を付けて、手紙はこまめに頂戴ね」
「はい。最後までご迷惑をおかけして、すみませんでした」
ベッドの上で頭を下げると、母が泣きそうな顔で抱きしめてきた。




