8.納得いかない(エディ)
すぐ下の妹が婚約者と末の妹に裏切られた一件から、僕は悩んでいた。
「う~ん」
「どうしたエディ」
昼休み、席で腕を組んで考えていると、友人のキリアンとベンがやって来た。
「いや、妹の事でちょっと…」
内容が内容だけに言葉を濁すと、二人はすぐにわかったようで「あぁ~」という声を上げた。
「妹さんの事か…全く困ったものだな」
「噂じゃあの二人、全然反省してないぞ」
「ん?反省??」
疑問の表情をした僕に、キリアンが教えてくれる。
「何でもあの二人『自分達は真実の愛で結ばれた恋人同士だ、どんな酷い仕打ちを受けても負けないぞ!』とか、言ってるらしい」
「なっ、あの二人そんな事を!ふざけやがって!」
思わず怒鳴りこみに行きそうになったが、何とか怒りを抑えこむ。
「ん?怒鳴りこみに行かないのか?」
ベンが不思議そうに聞くが、首を横に振った。
「頭が花畑すぎて何言っても聞かないし、殴らない自信がないからやめとく。それにそれどころじゃないんだ」
「「何だ?」」
「アネットの事だ。あれ以来すっかり元気をなくしてるんだ…何とか元のように元気になってほしい」
あの一件以来、アネットはいつも暗い表情をして、ため息ばかりついている。食事もろくに取らずに、部屋に引きこもってばかりだ…元の明るいアネットに戻ってほしいが、どうすればいいかわからない。
二人に相談すると、二人も一緒に考えてくれた。
「うーん、女性はデリケートだからな…難しい問題だ」
「うーん、俺の妹は失恋するたびに、やけ食いして立ち直ってるけどなぁ~」
ベンの答えにガクッと力が抜けて、机に突っ伏す。
すかさずキリアンが突っこむ。
「いやそれは、絶対アネット嬢には向かないと思うぞ」
「食が進まないみたいで、メイドや料理人が嘆いてた」
「そうかぁ~」
暫く3人で頭を捻っていたが、突然ベンが閃いた。
「そうだ!新しい男を紹介するっていうのはどうだ?」
「それはいい案だな『失恋の痛手は新しい恋で癒す』と、聞いたしな」
キリアンも賛成してくれる。
「そうだな、早速アネットに合う相手を探してみるよ。2人ともありがとう」
「頑張れよ」
「応援するよ」
僕は早速つてを頼って、アネットに合う相手を探してみた。
数日たったが、成果は全く思わしくなかった。
大抵の貴族は幼少時に婚約してるので、婚約者も恋人もいない令息は少ない。
その中から性格の良い相手を何人か紹介してみたが、アネットが良い顔をしなかった。
それでも何とか押し切って、相手とデートさせてみたが、やはりダメだった。
打つ手なしで頭を抱えていたある日、ジャネット達がまたもやらかした。
言いつけを破ってアネットを待ち伏せしたばかりか、ポールがアネットに怪我をさせたのだ。
家族中が激怒して、ポールに責任を取らせた。
ポールは退学となり、絶縁もされて身一つで伯爵家を追い出され、平民となった。
共同事業も破棄するところだったが、母が止めた。
『破産して親子揃って平民になるよりも、一人だけ平民で孤独に苦労する方が、よほど辛くて罰になるでしょう』という、母の言葉で父も思い止まり、契約内容をこちらに大分有利に変更するのみとした。
僕も母の言う通りだと思ったが、まだ怒りが収まらなかった。
だがそんな怒りを、吹き飛ばすほどの事が起きた。
あろうことかアネットが、遠方の祖父と孫ほど年の離れた老人の後妻として嫁ぐというのだ。
「何を考えてるんですか!アネットが可愛くないんですか!?」
晩餐でいきなりとんでもない発言をした父に、食ってかかる。
「落ち着け。驚くのも無理はないが、これもアネットの事を考えての事だ」
「どこがですか!」
冷静にナプキンで口を拭う父に、更に怒りが注がれる。
「落ち着きなさいエディ、今ちゃんと説明するわ」
母の呆れたような口調に、少し冷静さを取り戻す。
「あのね。今のアネットには療養が必要だと思うの。」
「療養…ですか」
「そう。貴方も色々アネットを立ち直らせようとしているみたいだけど、同じ女として言わせてもらえば、それは逆効果よ。今のあの子に必要なのは、心の傷を癒す時間と静養よ」
「ですがそんなに時間をかけていては、あの子が嫁き遅れになって笑い者に……あ」
気づいた僕に母がにっこり微笑み、父が言葉を繋げる。
「そのための時間稼ぎだ」
「そう言う事でしたか…」
(あの子が自然に立ち直るのを待っていたら、釣り合う相手がいなくなってしまう。だが再婚なら話は別だ。そんなに年が離れているなら、白い結婚となるだろうし、あの子の傷を深くする事は無いだろう。社交界は流行が早い、数か月もすればアネットの婚約破棄など、誰も話題にしなくなる…アネットが未亡人になって再婚しても、誰も騒がないし、アネットを見下さない)
理解はしたものの、まだ少し納得しきれなかった僕は、晩餐後にアネットの部屋を訪ねた。
「アネット、お前は本当にこれでいいのかい?家の為に無理をしてるんじゃないのか?」
アネットは感情に流されやすいが、家と家族の為、時には自分を押し殺す事もある…今回も婚約破棄された自分が家にいると、家族に迷惑がかかると、内心思い詰めているのかもしれない。
僕の問いに、アネットが首を横に振る。
「いいえお兄様、私が自分で決めました。家や誰かの為にではなく、私自身の為にこれが最善だと思いました」
「…本当に?」
「はい」
じっとアネットの顔を見る。
…どうやら本心のようだ。
「…わかった。お前がそう決めたなら仕方ない。だが体には気を付けて、手紙はこまめによこしなさい。それと少しでも嫌な事があったら、いや無くても、いつでも帰ってきていいからな」
「はい、お兄様。ありがとうございます。お兄様もお元気で」
そう言って、お互い別れを惜しんで、抱きしめ合った。
翌日アネットは、家族に見送られながら、遠方の顔も知らない相手の所に嫁いでいった。




