6.何とかしないと…(ポール)
(こんな筈じゃなかった)
アネットと婚約破棄してから、しばらく経った。
当初の予定では、少しの間反省する様子を見せて、それにほだされたアネットや周りに許しを得て、真実の愛を貫いたと周りに祝われながらジャネットと結婚し、次期当主として順風満帆な人生を送る予定だった。
思ったより周囲の怒りが大きく、家族から冷遇されてしまった。
そのうえアネットに会わせてもらえず、許しを得らないまま、学園でも孤立してしまった。
(何とかしないと…)
アネットの許しさえ得られれば、周りに「アネットに許してもらえた」と知らしめれば、皆も怒りを収めてくれるだろう。
そのためには、何とかアネットに会わなければならないが、接触は禁止されている。
ジャネットに相談しようと席を立つと、父がつけた見張り役の使用人に見とがめられた。
「坊ちゃん、どこへ行くんですか?」
咎めるような目で聞いてくる使用人に、ムキになって言い返す。
「うるさいな、ジャネットの所だよ!どこへ行こうと僕の勝手だろう!」
「アネット様の所に行かないなら、勝手ですけどね。見張れと旦那様にきつく言われてますからね」
そう言って席を立つと、距離を保ちつつ使用人もついてくる。
(ウンザリだ)
一刻も早くアネットの許しを得て、今の状況から抜け出さないと。
早く解放されたくて、足早にジャネットの所に向かった。
「ジャネット、僕達がこの状況から解放されるには、やはりアネットの許しが必要だ」
ジャネットを呼び出すなり、この状況を訴える。
ちなみに使用人は相手がアネットじゃないことを確認すると、会話の邪魔にならないよう、聞こえない距離に下がっている。
ジャネットも頷いたが、顔を曇らせる。
「でも私達、お姉様に接触を禁止されているのよ?手紙すらダメだと言われてるし、どうすれば…」
「うん、そこだよ。要は意図的に合わなければいいんだ」
「どういう事?」
僕の言葉に、ジャネットが首を傾げる。
「会いに行くんじゃなく、アネットの行きそうな所に待ち伏せればいい。そこで会ったとしても『偶然出くわしただけ』になる。出来れば大勢の人がいるところがいい。そうすればアネットも許してくれるだろうし、周りにもアネットの許しを得たと周知できる」
僕の提案に、ジャネットも顔を輝かせる。
「そうね、大勢の前ならお姉様も許さざるを得ないだろうし、周りも当事者のお姉様が許したのなら、私達に冷たくできないでしょうし、良い案だわ。さすがポールね」
「だろう?」
ジャネットの賛辞に、鼻を高くする。
「それなら、放課後に入り口の門が良いと思うわ。下校時刻でみんな出てくるし、お姉様も必ず出てくるだろうから」
「よし、そうしよう。善は急げだ。今日の放課後、実行しよう」
「ええ」
僕達は放課後合流して、アネットが出てくるのを待つ事にした。
「まだか?」
「うーん…遅いわね」
僕達は物陰に隠れて、アネットが出てくるのを待った。
使用人は、馬車に待機させている。
ジャネットから使用人に「アネットは、もう帰ったから」と言ってもらうと、あっさり引き下がった。
すれ違う生徒達が僕達を見て、訝し気に見てくる。
「あ、出てきたわ」
「よし行くぞ」
アネットが友人達と一緒に出てくるのを確認すると、物陰から飛び出してアネットの前に立った。
「アネット!」
「お姉様!」
アネットは僕達を見て、嫌そうに顔を顰める。
そこにアネットの友人達が、アネットを隠すようにアネットの前に立つ。
「不貞カップルが何の用よ!まだアネットを傷つけ足りないの!?」
「君たちに用はない、アネットに話があるんだ!」
「アネットを傷つけてる人間に、会わせるはずないでしょう!」
「そうよそうよ!」
「用がないのはこっちの方よ、サッサと消えなさいよ!」
(これじゃ、埒があかない)
硬直状態に苛立っていると、彼女達の後ろから声がした。
「皆ありがとう、でもいいわ。私が話をする」
「でもアネット…」
彼女達が後ろを振り返りながら、心配そうにアネットと話をする。
「いいの。いい加減、決着をつけないといけないし…今回だけ。お願い」
「わかったわ…」
「アネットがそう言うなら…」
「でも心配だから、傍にいるわ。それは譲らないわよ」
「ええ、ありがとう」
彼女達は僕達を睨みながらも、アネットの意思を尊重して、脇に避けた。
アネットが前に出てくる。
僕達は打ち合わせ通り、頭を下げた。
「アネット、済まなかった!」
「お姉様、ごめんなさい」
「…………」
アネットは無言だった。
「真実の愛の為とは言え、君を裏切って、傷つけてしまって、本当に済まなかった!」
「ごめんなさいお姉様、私達どうしても気持ちが止められなかったの。お願い許して!」
「………………」
アネットは、ずっと無言だった。
何も言わず、周りも無言で状況を見守っている。
これで状況も改善される、卒業後に平民落ちしなくて済むと内心ホッとした時、アネットが口を開いた。
「……………嫌よ」
「「え?」」
何を言われたかわからず、ジャネットと2人聞き返す。
「だから嫌だと言ったのよ、絶対に許さない」
頭を上げると、冷たい目で僕達を睨みつけるアネットがいた。
「私ずっと子供の頃から、貴方が好きだった…だから貴方に好かれようと頑張ったわ。貴方の為に初めて厨房に立って、慣れない包丁や竈で、切り傷や小さな火傷だらけになりながら、差し入れを作って会いに行った。貴方が体調を崩した時は、泊りがけで一生懸命看病した。婚約が決まってからも、貴方にふさわしい令嬢になるよう、勉強も、礼儀作法も、毎日夜遅くまで頑張ったわ。交流の為のお茶会も、お茶も菓子も会話も貴方の好みに合わせて、いつも気を使ってた。貴方が課題や執務を抱えて助けを求めてきた時は、徹夜で代わりにこなした。その数年を、私の想いを「真実の愛だから」なんて一言で裏切られて踏みにじられて、許せるわけないでしょう」
僕達を睨みつけるアネットに、周りも賛同する。
「そうよね」
「ずっと尽くしてたのに、踏みにじられて可哀想…」
「課題や執務まで押し付けた挙句、捨てるのかよ」
「婚約者を、何だと思ってるんだか」
「最低ね、この屑カップル」
許しを得て周りを何とかしてもらうどころか、余計悪化してしまった。
思惑が外れて、思わず拳を握る。
ジャネットが不安そうに、僕の腕に縋ってくるが、どうしようもない。
「話は終わりね。二度と顔を見せないで」
言い捨てて背を向けるアネットを、咄嗟に引き留める。
「待ってくれ、まだ話は…」
この時焦っていた僕は、引き留める事しか考えられず、背を向けたアネットの一番掴みやすい所――髪を掴んで引っ張っていた。
慌てて離すが、遅かった。
「きゃああ!」
いきなり髪を掴まれ後ろに引っ張られ、バランスを崩したアネットは、そのまま後ろ向きに倒れて意識を失った。
「酷い!何て事するの!?」
「許しを得られなかった腹いせに、暴力をふるうなんて!」
「誰か、先生呼んで来い!」
「この野郎!」
慌てる僕達を、周囲にいた男子達が取り押さえる。
どれだけ弁明しても聞いてもらえず、僕とジャネットは処分を受ける事になった。




