3.アネットの気持ちと婚約解消(アネット+家族)
目を覚ますと、自室だった。
(夢だったのかしら…いえ多分違う)
思い返せば、おかしいところがあった。
ポールとの交流は、ジャネットと3人で過ごすことが多かった。
2人きりもないわけではなかったし、婚約者らしく扱ってくれてたから、特に意識していなかった。
それにたまに友人から、ポールと会っていないにも関わらず『昨日ポールとデートしているところを見た、相変わらずお熱いわねぇ~』と、冷やかされる事があった。
ポールに尋ねると『町で偶然ジャネットに会って、少し話をした』と言われた。
特におかしな様子もなかったので『そうだったの』で、こちらも済ませてそのまま忘れていた。
ボンヤリとそんなことを考えてると、ドアがノックされて母が入って来た。
「気が付いたのね、アネット…気分はどう?」
痛ましいものを見るような母の目を見て、涙があふれ出て止まらなかった。
「アネット…可哀想に」
「わああああああああ!」
母は私が泣き止むまで、ずっと私を抱きしめてくれた。
私は幼子のように、母に縋って泣き続けた。
「…もう落ち着いた?」
ようやく泣き止んだ頃、母が少し体を離して様子を伺う。
「はい…ごめんなさい」
子供じみた醜態が恥ずかしくて、顔が赤くなる。
「いいのよ。親にとって我が子はいつまでも、子供なんだから。それより今後の事なんだけど…」
母の言葉に緊張する。
「お父様は『貴方の気持ちが一番だ』と、仰っているわ。だから貴方が嫌なら、事業ごと破棄してもいいのよ」
驚いて母の顔を見ると、母はにっこりと笑っていた。
「でもそんな事したら、我が家は…」
「もちろんある程度のダメージは受けるわ、でも揺らぐ程じゃない。後でいくらでも挽回できるし、娘を犠牲にしなきゃいけないほど、落ちぶれてはいないわ。だから貴方は何も気にせず、自分がどうしたいかを、考えればいいのよ」
「…甘えてもいいのでしょうか?」
「もちろんよ」
「…………」
母の言葉に少し考える。
(ポールとジャネットが、私を裏切って愛し合っていた…。このまま二人を引き離して婚約継続を望めば、父達は叶えてくれるだろう…。でもそれで、本当にいいの?このままポールと何事もなく、婚約者として、いずれは夫婦として過ごせるの…?)
答えはすぐに出た。
「お母様…私、まだ頭がゴチャゴチャして上手く考えられないけど、このままポールと婚約を続けるなんてとても出来ません、でも私のせいで事業がダメになるのも望みません。だから婚約は破棄します、それであの二人を再婚約させて下さい」
私の言葉に、母が躊躇うような顔をする。
「それで本当にいいの?貴方ポールの事、好きだったでしょう?」
「はい、考えてみたんです。まだポールの事は愛してます…でももう信用はできません。彼と会う度に『ジャネットの事を考えているんじゃないか』、会わない時は『こっそりジャネットと会っているんじゃないか』と、疑い続けるのが苦しくて耐えられないし、私からポールを奪って幸福そうにしている、ジャネットの顔も見たくありません。二人の存在自体耐えられない。どうか私の目の届かないところに行かせるか、私を家から出して下さい」
「わかったわ、貴方は何も心配しないで。今はゆっくり休みなさい」
そう言って母は私をベッドに寝かせると、優しく頭を撫でて部屋を出て行った。
エディと一緒に部屋の前で待っていると、ほどなくしてクレアが出てきた。
「クレア、アネットの様子は…」
「シッ!静かに。アネットが起きてしまうわ、執務室で話しましょう」
「あ、あぁ…」
とりあえずアネットを起こさないよう、そっと部屋を後にした。
「そうか…アネットがそんな事を」
「えぇ…自分が一番傷ついているでしょうに、私達を心配して…」
「アネット…」
アネットの優しさに、三人共涙が出てくる。
同時に、こんなに優しい姉を裏切ったジャネットとポールに対して、煮えくり返るほどの怒りが湧いてくる。
「わかった、明日早速バドゥール伯爵夫妻を呼んで、話し合うとしよう」
「えぇ」
「父上、僕も同席します」
必ず相応の報いをくれてやると、家族揃って固く誓った。
「この度は愚息が申し訳ない事を…」
「アネットちゃん、いえアネット嬢には、なんとお詫びしていいか…」
夫妻は開口一番、頭を下げてきた。
(良い友人だったが…)
長年の友人だった夫妻とも、もうこれまでのような付き合いが、できなくなる事を寂しく思ったが、アネットの事を思うと仕方がないと、割り切った。
「こちらもうちの娘がやらかしたので、そちらばかりを責めるつもりはありません」
「はい…ありがとうございます」
「それで、あの…アネット嬢のご様子は…」
ベドウィル伯爵は項垂れたまま、こちらの言う事に素直に頷いている。
そこに夫人がアネット不在が気になるのか、聞いてくる。
「心労が強く臥せっております。なのでこの場は私ども家族が代理として、今後の事を決めさせていただきます」
「わかりました…」
今後の事と聞いて、二人とも緊張した様子で、顔を引き締める。
「アネットの要望ですが『このままベドウィル子息と、婚約関係を続けることはできない』と言ってますので、婚約は解消という事で」
「「はい…」」
「それと『自分が原因で、家の事業を破綻させられない』とも言ってますので、本人たちの要望通り再婚約させて、事業は引き続き継続したく思います」
「っ!ありがとうございます」
「アネット嬢には、本当に何と言っていいか…」
夫妻が深く頭を下げる。
「それと最後に『あの二人とは二度と関わりたくない』と言ってますので、こちらでもジャネットに対して相応の対処をしますので、そちらでも子息がアネットに近づかないよう、連絡を取らないよう、くれぐれも対処をお願いします」
「もちろんです、今度こそ必ず!」
「これ以上アネット嬢を傷つけることがないよう、厳重に見張ります!」
夫妻がもう一度、深く頭を下げた。
(この様子なら大丈夫だろう)
内心一息ついたところで、それまで黙っていたエディが口を開いた。
「次にご子息が、アネットを傷つけるような事があれば、今度こそ事業は中止させていただきますから、そのおつもりで」
「もちろんです!」
「機会を与えて下さり、感謝します」
話が一段落したところでクレアがすかさず、今回の内容をまとめた契約書を出す。
「ではこちらの契約書にサインを…」
夫妻は躊躇い事なくサインすると、何度も頭を下げながら帰っていった。
夫妻が帰ると、ようやく一息つく。
「お疲れ様」
クレアが、飲み物を差し出してくる。
それを一気に煽って、ため息をつく。
「ふぅ…これで事業と屑男の事は片付いた。後はジャネットか…」
使用人を呼んで、ジャネットを呼びつけた。




