第2話:落とし物と、あの子の笑顔
教室の空気には少しずつ慣れてきたけれど、修太の中でつむぎへの憧れは日に日に募っていた。
彼女はいつも自然体で、男子とも女子とも分け隔てなく接している。その眩しさに、修太は教室の端からただ視線を送ることしかできない。
新学期も数日が過ぎた、ある昼下がり。
教室はクラスメイトたちの自己紹介で賑わっていた。つむぎが何かを話そうとしたその時、机から消しゴムがポロリと落ちて、修太の足元近くまで転がってきた。
(チャンスだ……!)
修太は反射的に手を伸ばそうとした。今拾えば、少しだけつむぎと目が合って、何か言葉を交わせるかもしれない。
けれど、手が動かない。周りに大勢の人がいて、注目を浴びるのが怖い。修太が躊躇している間に、席に戻ろうとしていた別のクラスメイトが「おっと」と消しゴムを拾い上げた。
「これ、落としたぞ」
「あ、ありがと!」
つむぎがそのクラスメイトに向けたのは、修太が今まで見たこともないような、屈託のない真っ直ぐな笑顔だった。
(……きれいだな)
胸の奥がキュッと締め付けられる。嫉妬のような、でもそれ以上に彼女のその笑顔の眩しさに心底打たれたような、不思議な感覚。
ただ見ているだけの自分は、あまりに無力だ。
(俺も、あんな風に……彼女の隣で、あんな笑顔を引き出せるようになりたい)
修太は拳を握りしめた。
今まで仮面の下で隠していた「臆病さ」を、少しずつ壊していかなきゃいけない。
もう、ドアを開けてもらうだけの自分は終わりにする。
修太の中で、何かが静かに、でも確かに変わり始めていた。
ノシ




