1話 のろい僕の手
【君の隣を歩くために、僕は僕の「仮面」を壊す。】臆病で繊細な少年・修太が、憧れの少女・つむぎにエスコートされる側から「自らドアを開ける側」へと成長していく、全5話の王道・胸キュン青春ストーリー。
夏休み明けの空気は、少しだけ肌寒くて、それなのにどこか眩しかった。
教室の前に立つと、修太は思わず足を止めた。夏の間、家の中という狭い世界で仮面をかぶり続けていたせいか、この教室のドアが、途端にやけに重たく感じられた。
(大丈夫、普通にするんだ。笑って、挨拶して……)
心の中の自分に言い聞かせるけれど、ドアノブを握る指先がわずかに震える。たった数センチのこの鉄の塊を回すのが、今の修太には世界で一番難しいことに思えた。
「……何してるの?」
背後から掛けられた、少し低い、でも聞き慣れた声。修太が振り返る間もなく、その人は横からスッと手を伸ばした。
つむぎだった。
彼女は「重いんだから」とでも言うように、当たり前のような手つきでドアを押し開ける。
「あ……ありがとう、つむぎちゃん」
修太が慌てて声をかけると、つむぎは「別に」とだけ短く言って、先に教室へと歩き出した。その背中を追う時、修太は自分の手がまだ少し震えていることに気づく。
(また、開けてもらったな……)
教室に入ると、休み明けの喧騒が修太を包み込んだ。
みんな楽しそうに笑い合っている。つむぎも、さっそくクラスの中心で誰かと談笑していた。
修太は、その光景を少し離れた席から眺める。
いつか自分も、彼女の隣に立って、あんな風に自然に笑い合える日が来るのだろうか。
ドアの重さは消えたはずなのに、修太の心には、さっきまでよりもずっと大きな「重り」がずしりと残っていた。
ノシ




