襲来
【第五幕一節】襲来
その夜がやってきた。徳川幕府は前にもまして手勢を増やし、江戸城内の警備を万全にし迎え撃つ。その相手は化け物、僧侶を江戸城を取り囲むように置き念仏を唱えさせる。その日は、月も無く松明がなければ、あたり一面闇に包まれているだろう。
すると、遠くの方から念仏の声をすり抜け、心に恐怖をもたらすかのような、太鼓と地響きが鳴り始めた。次の瞬間堂々とそびえ立つ江戸城は、大阪城炎上のように赤くひかりはじめたのに、松明の火は消え、あたり一面暗闇となった。突然炎に包まれた江戸城を見て、幕府側のどよめきが走る。そして、江戸城正門が、誰もいないのに大きな大木を打ち付けるかのような激しい音と実際に門が、歪みはじめたのを見て、何が入ってくるのかと恐れた。前回と同じで、冷気が漂いはじめ、みな寒さを感じはじめた。それだけではない、江戸城まわりにいたはずの、僧侶たちがいつの間にかいなくなっている。まだ、正門が完全に開かぬうちから、おびただしい数の落ち武者が、次々と現れ出て急に徳川兵側に入り込み襲いかかった。恐れと暗闇のせいで、敵味方もわからず同士討ちにもなる始末。また、何人もの徳川兵が斬ろうとしても斬れない落ち武者の腕で、胸を貫かれると、心の臓が飛び出した。
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安全の為、大奥の女子たちは、江戸より遠く離れた場所へと兵士に守られ待機していたが、江戸襲来の時刻と同じ時刻、冷気がみなを襲ったので、叫ぶ者もいた。
「わしじゃ!お藤はわしを殺しにきよったのだ」
側室の伝は、あの時の怨みで、自分をお藤が襲いに来ると恐れ、ぶるぶる震えていた。すると、火の明かりも消え、急にみな金縛りにあったかのように動けなくなり伝を囲んでいた人たちが一直線へ道ができるかのように何かに押され開いた。瞬く間に、その道を風の様に通りぬけた白いものは、腕を掴んだ。
「ぁーーーぁーーー」
と、連れ去られたのは伝のそばにいた正室 信子であった。その姿は必死に暴れながら暗闇の奥へと消えていった。
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江戸城内の暗闇に隠れて、化け猫が黙ってその場に潜んでいるとも知らず、そこを通った兵士は驚く間もなく、闇の中へと連れて行かれた。ここでも兵士のほとんどは金縛りで動けなかったが、霊気にも負けず動ける者も、今の様に次々と消えていった。
「ええい。残った者はわしの前まで集まりお互いの存在を確かめ合いながら待機し、上様を守るのじゃ!」
この期に及んで、殿よりも自分が安全な隊形へと命令する柳沢であった。
この残った十数名はいずれも名だたる剣士であったが、相手は斬れる存在ではなかったので、どうすることも出来ず前のほうより闇へと消えていった。
とうとう兵士がいなくなり、残るは将軍綱吉と柳沢吉保だけとなった。化け猫は闇へと腕を伸ばし何かを掴んで引っ張り出した。魂でもとられたかのような、白い顔をした信子が現れ出て、二人の前へと投げ飛ばされた。ふたりはギョっとした。
と、その時やっとのおもいで駆けつけた平八郎が、片手に十字架を持って登場した。
「おぉー平八郎。もうそなたしかおらぬ。たすけておくれ!」
と、綱吉がさけぶが、
いつの間にか平八郎の隣へと移動した化け猫がその平八郎の十字架を持った片腕を持ち壁へと投げ飛ばした。その時、平八郎の腕は引きちぎれ、化け猫が平八郎の取り残された腕を持っている。一緒にかけつけた、佐々木がすぐさま平八郎へ駆け寄り、止血する。頼みの平八郎がそのように簡単に倒されてしまい落胆する綱吉だった。
化け猫は、半分闇へと隠れながら、うっすらと笑っているように見える。その化け猫のまわりは、やはり暗闇の空間に覆われてぼやけて見える。また、映像がとぎれとぎれのように、柳沢のほうへと不気味に近づいていくのだった。
しかし、柳沢も江戸剣士の一人、その上段から振りおろす剣の太刀筋には、定評がある。その刀を振り上げ、化け猫へと鋭い剣先が振りおろされようとした!
「シャーーッ!!」
【第五幕一節】完




