↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『武田信玄の嫡男に転生した歴史教師、謀反を成功させて父を家臣にする ~武田義信、最強の父子で天下を取る~』  作者: あちゅ和尚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/35

第32話 龍興を、城へ追い込め

 龍興の先手が町へ戻ってきたとき、義信は、自分の旗を囲いの中から西の道へ移させた。


 柵の陰に当主がいると分かれば、敵はそこへ力を集める。山から来る兵と、西から戻る兵を、九百足らずで同時に受けるよりはよかった。


 ただし、旗だけを置くつもりはなかった。


 義信は槍を持ち、道に据えた盾の後ろへ立った。両脇には武田の兵が並び、その先には、家並みの間を進んでくる斎藤の槍が見えた。


 半兵衛が最後の報告を持ってきた。


「先に戻った敵は、千を超えております。後ろにも続いていますが、稲葉殿が迫っているため、一度に町へ入ることはできぬようです」


「良通殿が、よく働いてくれておる。こちらも、得た刻を使わせてもらおう」


 義信は盾の間から、道の先を見た。


 龍興は武田の陣を確かめるまで、兵を走らせなかった。先頭を止め、脇道へ人を入れ、山へも使いを出している。


 自分の城へ帰る道である。知らぬ土地へ踏み込む軍より、よほど手際がよかった。


「三郎兵衛には、山の兵を受け持たせたままにする。こちらが苦しそうに見えても、呼び戻してはならぬぞ」


「承知しております。東へ通じる道も、残した組で押さえています。ただ、どちらかが破られれば、囲いまで下がらねばなりません」


「その合図は、お前に任せる。俺が前で声を張っておっても、軍を戻すべきと見たら旗を引け」


 半兵衛は一礼し、兵の間を戻っていった。


 義信は肩を回して槍を構え直した。稲葉山を取るために来た以上、ここで当主一人の意地を張って、軍を失うわけにはいかなかった。


     ◇


 龍興は、武田の旗を見つけると、そちらへ向ける人数を増やした。


 町の奥に置かれた荷の囲いよりも、前へ出ている。


 義信を押し戻せば、山へ通じる道も開く。だが、主がわざわざ旗を寄せた場所へ、何も考えずに全兵を入れる気にはならなかった。


「道を進む者は、前の組を追い越すな。脇の空きへ回る兵を付ける。敵が下がっても、そこで広がるまで待て」


 龍興は命じ、別の組頭を呼んだ。


「山の者には、武田の赤備えを押さえさせる。無理に町まで下ろさず、向こうを離れられぬようにせよ。こちらは義信のいる道を破る」


 槍が動き始めた。


 先頭の兵が矢を避けて盾を寄せ、後ろから別の者が前へ出る。途中の家へ逃げ込む者もなく、組ごとに固まって進んでいた。


 龍興はその後ろを歩いた。


 戻ってきた城下で、兵を飢えさせることはできない。奪われた米を取り返し、町へ出た敵を追い払わねば、明日には別の城からも離反の報せが来るだろう。


 山へ帰れば済む戦ではなかった。


     ◇


 盾に矢が突き立ち、その向こうで槍の穂が上がった。


 義信は最初の突きを柄で払った。踏み込みすぎず、隣の兵が前へ出るのに合わせて足を運ぶ。


 斎藤勢の槍は長かった。


 一人の穂先を流しても、その脇から別の槍が来る。義信は続けて突こうとした腕を止め、柄を立てて受けた。すぐ左の兵が相手の手元を狙い、敵の穂先が下がる。


「盾を置いて逃げるな。替わる者へ渡して下がれ!」


 組頭の声が後ろへ飛んだ。


 前の兵が疲れれば、後ろと替わる。だが、狭い道で急に振り向けば、味方同士がぶつかる。義信は自分の脇を空けさせ、傷ついた兵をそこから通した。


 敵が寄せると、武田の列が少し下がった。


 義信も下がる。


 道に置いた二つ目の目印まで退くと、後ろから新しい槍が入った。斎藤勢はそのまま押し込もうとしたが、先頭が止められ、後ろの者が詰まった。


 義信は、空いた穂先の間へ槍を突き込んだ。


 敵が倒れると、その向こうから太刀を持った侍が出てきた。槍の柄を斬り上げ、短くなった間へ入り込もうとする。


 義信は右手を滑らせ、槍を短く持った。


 刃を受けると同時に柄を返し、相手の顎へ石突を入れる。よろめいた肩を押して道の脇へ転がすと、味方の兵がその太刀を踏みつけた。


 息をつく間もなく、別の槍が迫る。


 義信は受け止め、歯を食いしばって押し返した。


 腕の力だけで勝てる押し合いではない。隣の兵の足が退けば、自分も崩れる。声をかけ、歩幅を揃え、相手が持ち直す前に、もう一度押した。


 そのとき、右の脇道から味方の声が上がった。


 龍興の回した兵が来たのである。


     ◇


 半兵衛は、脇道を見張る兵を増やしていた。


 敵がそこを使うことは分かっていた。だが、通れる場所を一つ残らず塞げば、武田の兵も動けなくなる。


 そこで、義信のいる道へ出る手前に、二つの組を置いた。


 斎藤勢が曲がってきたところを、一方が槍で止め、もう一方がその横へ向きを変える。家の中へ兵を伏せたのではない。敵からも見える場所で、互いの列を支えられるように並べていた。


 敵の組頭は立ち止まった。


 道へ出れば、脇から突かれる。その場に留まれば、義信を横から押す役目を果たせない。


 半兵衛は、その迷いを見て伝令を出した。


「御館様へ、右の敵は止めたと。ですが、まだ追い返してはおりません。こちらへ兵を割かず、正面を受けていただきます」


 そう告げた直後、山側で法螺貝が鳴った。


 半兵衛は振り向かなかった。三郎兵衛からの使いが来るまでは、自分の見ている敵を離せなかった。


     ◇


 山の兵は、昨日よりも下まで出てきていた。


 三郎兵衛は槍を寄せ、道の狭まる所で受けた。敵は正面から押すだけでなく、斜面を下り、赤備えの横へ回ろうとしている。


 足元が悪く、すぐには来られない。


 だからといって、見逃してよい相手でもなかった。


 三郎兵衛は弓の者へ斜面を示し、自分は道へ残った。ここで人数を散らせば、山道を下りてくる本隊に押し切られる。


 義信の旗がある方から、大きな鬨の声が届いた。


 若い侍が一瞬そちらを見たので、三郎兵衛はその肩をつかんだ。


「御館様の後ろを守るのが、我らの働きだ。向こうへ駆けつけるために、ここを敵へ渡してはならぬ」


 侍が頷き、槍を戻した。


 三郎兵衛は山へ目を据えた。斜面の兵は弓を受けて伏せ、道の兵は前へ出る間合いを失っている。


 赤備えは、一歩も西へ動かなかった。


     ◇


 龍興は、右へ回した兵からの報告を聞くと、残していた一組を前へ出した。


 武田は下がりながら列を替えている。崩れてはいない。ならば、替わる間も与えぬほど押さねばならなかった。


 斎藤の槍が厚くなると、義信の前の盾が倒れた。


 支えていた兵が膝をつき、後ろの者が引きずり出す。その隙間へ敵が入りかけたので、義信は槍を横へ渡して止めた。


 横から叩かれ、指に痺れが走った。


 義信は歯を見せて笑った。


「よく押してくる。だが、ここで飯を食ったばかりでな。まだ立ち退く気にはなれぬぞ!」


 声を聞いた兵が寄り、盾の空いた場所へ槍を揃えた。


 義信はその間に一歩退き、半兵衛の旗を見た。


 引く合図は出ていない。


 右の敵は止まった。山の兵も三郎兵衛が受けている。龍興が前へ入れた兵の厚みだけが、道の狭さに縛られていた。


 義信は後ろの組頭へ手を振った。


「残していた者を出せ。前の組を追い越さず、俺たちと替われ。ここからは、こちらが押す!」


 新しい兵が肩を並べると、義信はその先頭へ入った。


 疲れ切った者を後ろへ通し、構えを取り戻す。敵にも、まだ後続がいる。だが、その兵が先頭へ出るには、押してきた味方を退かせなければならない。


 義信は槍を上げた。


 武田の列が、そこで初めて前へ進んだ。


     ◇


 龍興は、前の兵が押し戻されるのを見た。


 すぐに後ろを下げ、替わる場所を作らせる。義信を討とうと前へ寄せた兵が、今は自分の軍の動きを妨げていた。


 その背後へ、西から使いが駆けてきた。


「稲葉の兵が近づいております。後ろの組は受けておりますが、このままでは町へ入る道を脅かされます!」


 龍興は、山へ通じる道を見た。


 そこはまだ、斎藤方が押さえている。町の全てを奪われたわけではなく、山の守りも崩れてはいなかった。


 ここで義信へ兵を使い切れば、城へ帰る道まで失う。


「前の組を下げる。武田を受ける兵と、山へ戻す兵を分けよ。米の囲いは捨てる。槍と傷者を持って帰れ!」


 命じると、龍興は馬へ乗った。


 その旗が動くのを見て、義信の前にいた侍たちが踏ん張った。主を帰すために、そこから退かなかった。


 義信は彼らへ槍を向けたまま、味方の足を止めた。


「道の広い所まで押し出す。山へ曲がる者は追うな。龍興殿を追って、こちらまで細い道へ入るなよ!」


 敵の旗を奪いたい者はいた。義信自身、目の前に見える斎藤の主へ、もう一歩踏み込めば届くような気もした。


 だが、届くのは自分一人である。


 そのあとへ続く兵が、どこから槍を受けるかは分かっていた。


 義信は道の分かれる所へ立ち、山へ退く斎藤勢と、町へ残る敵を見分けさせた。槍を捨てた者は集め、抵抗する組へは味方を揃えて向ける。


 龍興の旗は、山裾の向こうへ消えた。


     ◇


 稲葉良通の兵が町へ入ったのは、日が傾き始めてからだった。


 西の道に置いた武田の使いが迎え、義信のいる場所まで案内した。追ってきた勢いのまま山へ向かわず、良通はまず兵を止め、水を飲ませてから歩いてきた。


 義信も槍を預け、迎えに出た。


「よく来てくれた。後ろを脅かしてもらえたから、龍興殿も前へ兵を使い続けられなかった」


「こちらこそ、義信殿が本拠を突かねば、北方の前で苦しい戦になっておりました。守就の兵も、後ろから参ります」


 良通は山を見上げた。


「城は残りましたが、龍興殿は西へ出した軍を、ここへ戻さねばならなくなりましたな」


「ああ。そして、今度はこちらが合わさった」


 義信は、西から続いてくる槍を見た。


 甲斐から来た兵と、美濃の兵が、初めて井ノ口で一つになった。安藤と稲葉の城を守るために東の軍を引き戻す必要は、もうない。


 半兵衛が両軍の組頭を呼び、今夜の持ち場を決め始めた。


 三郎兵衛の組は山を受け、良通の兵は西の道を押さえる。義信は、初めからいた兵を順に休ませた。


 兵が増えたからと、明日すぐ総攻めにするつもりはなかった。山へ残った敵が、どれだけの米と矢を持つのか。それを知らずに急げば、今日得た勝ちを食い潰す。


     ◇


 夜、稲葉山の内では、龍興が戻った兵を迎えていた。


 具足を脱がずに座り込む者もいる。山道で遅れた傷者のために、灯りを持って下りる者も出した。


 龍興は、ようやく届いた最後の報告を聞くと、城下へ目を向けた。


 武田の火が見える。


 その西にも、新しい火が増えていた。


 長井道利が傍らへ来ると、龍興は低い声で命じた。


「残る米を改めよ。町から取ってくる分を当てにせず、何日食わせられるかを知りたい。ほかの登り口の番も、今夜のうちに確かめる」


「織田が南から寄せる恐れもございます。武田だけを見て兵を置けば、そちらを突かれましょう」


「分かっておる。守る所を増やすために、一つの門へ兵を集めすぎるな」


 龍興は立ち上がり、疲れた兵のいる方へ歩いた。


 失った町を取り戻すには、まず、この者たちを立たせねばならなかった。


     ◇


 義信は、捕らえた斎藤の兵を囲いへ移すところに立ち会った。


 味方の傷者を先に手当てさせ、敵も血を流している者から診させる。戦の最中に槍を捨てなかった者が、縛られて初めて肩を落としていた。


 義信はその前に腰を下ろし、水を差し出した。


「主を帰すために踏みとどまった働きは見ておる。だが、ここで黙って血を失う必要はない。傷のある者は申せ」


 侍は義信の顔を見たあと、隣にいた兵の腕を示した。


 義信は手当てする者を呼び、立ち上がった。


 外では、良通の兵と武田の兵が、同じ釜から飯を受け取っている。言葉も具足も少しずつ違う者たちが、今日の道筋を身振りで伝え合っていた。


 そこへ、南を見に出していた甚六の配下が戻った。


「織田の兵が進んでおります。こちらへ槍を向けてはおりませぬが、南の道へ番を置き始めました」


 義信は椀を置いた。


 信長は、龍興が西へ出た隙を使い、すでに取った渡しから兵を進めていたのだ。武田が城下で勝つのを待って、動き出したのではなかった。


 半兵衛が義信の隣へ来た。


「稲葉山が苦しくなるほど、信長殿にも取れるものが増えます。こちらの勝ちを、向こうも使うでしょう」


 義信は、火の見える山へ顔を上げた。


「使わせてもらった分は、こちらも使う。だが、この山を最後に明け渡してもらう相手は、俺が決めるぞ」


 そう言って立ち上がると、義信は良通と半兵衛を呼んだ。


 山を攻める道だけでなく、城から使いが下りてきたときに迎える場所も、今夜のうちに決めておくつもりだった。




──────────────────

YouTubeでショート動画作ってみました


https://youtube.com/shorts/LjVQgpFxZ2E?si=X6VKhxz29nXoLekJ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。