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『武田信玄の嫡男に転生した歴史教師、謀反を成功させて父を家臣にする ~武田義信、最強の父子で天下を取る~』  作者: あちゅ和尚


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第11話 真田の三男をいただく

「父上、真田の三男を俺にください」


 武田家の新当主となった義信が、最初の評定を終えて口にしたのは、そんな要求だった。


 目の前に座る信玄は、飲みかけの茶碗を止めた。


「……義信。そなた、今度は何を企んでおる」


「人材登用にございます。天下を取るには、優れた家臣が何人おっても困りませぬからな」


「それは分かる。だが、なぜ真田の三男なのじゃ」


「俺の目に留まった、と申し上げればよろしいでしょうか」


 義信が笑うと、信玄は疑わしそうに眉を寄せた。


 秋の朝日が差し込む評定の間には、まだ新しい当主の座に慣れぬ家臣たちの緊張が残っていた。庭先では小姓が足早に行き交い、廊下の向こうから書状を運ぶ者の声が聞こえる。


 家督を譲り受けた翌朝である。


 信玄が正式に隠居を表明したとはいえ、甲府の中でさえ命令の出し方を改める必要があった。各地の城将へ知らせを届け、知行の安堵や軍務の引き継ぎを進めなければならない。


 そんな中で、義信は父の近習を一人欲しいと言い出したのだ。


「真田源五郎のことか」


「はい。真田幸綱の三男、源五郎にございます」


「あれは幼い頃からわしの近くで育てた男じゃ。まだ若いが、物覚えがよく、気も利く。手元に置いておくには便利な男よ」


「ほう。父上がそこまで仰るとは、ますます欲しくなりましたな」


「……お前という奴は」


 信玄は呆れたように息を吐いた。


 義信は声を上げて笑ったが、その胸中には確かな狙いがあった。


 真田源五郎。


 のちの真田昌幸である。


 武田家の滅亡後も生き残り、徳川家康を相手に上田で二度も勝利を収める知将。豊臣と徳川の間を渡り歩いたその手腕は、戦国史を研究してきた義信にとって、特に興味深いものだった。


 ただし、未来の名将だからといって、今の源五郎がすべてを知っているわけではない。


 まだ十代の若者である。


 だからこそ、育てる価値がある。


「父上。源五郎を呼んでいただけますか。少々、話をしてみたいのです」


「構わぬが、気に入ったからといって簡単に連れていくなよ」


「父上、それは本人に聞いてから決めましょう」


 信玄は小姓に目配せした。


 義信は上機嫌で茶碗を手に取った。


     ◇


 やがて現れた若武者は、思っていたよりも落ち着いた顔つきをしていた。


 真田源五郎。


 年は十八ほど。体つきはまだ若いが、背筋の伸ばし方や視線の配り方には、信玄の近習として育てられた者らしい隙のなさがある。


「真田源五郎にございます。お召しと伺い、参上いたしました」


「おお、源五郎。よく来たな」


 義信は気さくに声をかけた。


「父上から聞いたぞ。なかなか使える男だそうではないか」


「恐れ入ります。まだ未熟な身にございます」


「未熟なのは当然だ。若いうちから何でもできれば、年寄りの立つ瀬がなくなる」


 源五郎は少し戸惑った様子を見せた。


 義信の外見は二十代半ばである。その口から年寄りの苦労を語られるとは思わなかったのだろう。


 信玄が苦笑する。


「義信。世間話をするために呼んだのではあるまい」


「無論です。源五郎、少し知恵を貸してくれ」


 義信は机上に二通の書状を並べた。


 一通は各地の城将へ出す家督継承の通知。もう一通は駿河の今川氏真へ送る書状だった。


「俺が新たに武田の当主となったことを知らせたい。だが、先日まで甲府では父上と俺が争っていた。これを受け取る者は、どう考えると思う」


 源五郎は書状を眺め、すぐには答えなかった。


「恐れながら、御館様がお亡くなりになったのではないかと疑う者もおりましょう」


「ほう」


「家督を譲られたと書いてあっても、それが真実かどうかは受け取った側には分かりませぬ。甲府の騒ぎを知る者なら、なおさらかと」


「では、どうする」


「御隠居様ご自身の書状を添えるべきかと存じます。それも御館様からの書状とは別に、御隠居様のお考えとしてお出しになる方がよろしいでしょう」


 義信は頷いた。


 信玄も口を挟まず、源五郎の言葉を聞いている。


「それだけで足りるか」


「書状だけでは、疑う者も残りましょう。家督を譲られたことを知る重臣が使者として赴けば、話の確かさも増すかと存じます」


「では、駿河の今川には誰を送る」


「今川家は御館様の奥方の御実家にございます。武田家中の重臣に加え、奥方様からのお文もあれば、先方も軽く扱えますまい」


 義信は思わず笑った。


「なるほど。源五郎、お前は相手の立場で物を考えられる男らしいな」


「いえ、御隠居様から常々、相手の思惑を考えよと教わっております」


「父上の教えか。そいつは間違いない」


 信玄が得意そうに口元を緩めた。


 義信はさらに尋ねた。


「では、今川氏真殿が武田の当主交代を聞いて、最も気にすることは何だと思う」


 源五郎は少し考え込んだ。


「……今後も三国の盟約が守られるか、でございましょうか」


「その理由は」


「御館様は今川家との縁を重んじておられます。しかし御隠居様は、駿河への進出もお考えと聞き及んでおります。御館様が家督を継がれたことで、武田が今川をどう扱うか、氏真殿も気になさるはずです」


「よく見ておるな」


 義信は膝を叩いた。


「父上。この若者、いただいてもよろしいでしょうか」


「まだ話の途中であろうが!」


 信玄が呆れると、義信は腹を抱えて笑った。


 源五郎は二人の顔を交互に見ていたが、やがて小さく頭を下げた。


     ◇


「源五郎。今度は少し難しいことを聞こう」


 義信は駿河から甲斐へ通じる道を示した。


「甲斐には金がある。しかし、海がない。ここから先は何が言いたいか分かるか」


「塩にございますか」


「そのとおり」


 義信は満足そうに頷いた。


 甲斐には大規模な製塩に適した海岸がなく、塩の多くを他国からの交易に頼っている。


 駿河から富士川沿いに運ばれる塩は、領民の生活だけでなく、軍勢を動かすうえでも欠かせない物資だった。


 義信は前世で、日本の製塩史や甲斐の地方史も調べていた。


 岩塩を掘り当てればよいというほど簡単な話ではない。甲斐に塩気を含む水が湧く場所はあっても、それだけで国中の需要を満たせるとは考えにくかった。


「父上。もし今川が塩の取引を止めたら、甲斐はどうなります」


「苦しくなる。信濃やほかの国から入る塩もあるが、運ぶ道によっては敵に妨げられる。値も上がろうな」


「そのとおりです。金をいくら持っていても、買える塩がなければ意味がありません」


 義信は源五郎へ視線を戻した。


「お前ならどうする」


「まず、今川との交易を守ります」


「それから」


「駿河だけに頼らぬよう、ほかの道も確保すべきかと。信濃から入る塩もございますが、北は上杉との争いがあります。道が使えるかどうかを、確かめねばなりませぬ」


「うむ。もっともだ」


「それと、塩を買い入れるだけでなく、必要な分を蓄える場所も決めるべきでしょう。戦が始まってから集めようとしても、間に合わぬことがございます」


 義信は茶碗を置いた。


「父上。ますます欲しくなりましたぞ、この男」


「お前はそればかりじゃな」


 信玄はそう言いながらも、嬉しそうだった。


 自分の手元で育ててきた若者が、新たな当主の前で堂々と意見を述べている。


 それは師としても主君としても、悪い気分ではないらしい。


「源五郎。そなたはどう考える」


 信玄が尋ねた。


「義信に仕える気はあるか」


 源五郎は居住まいを正した。


「御隠居様には、幼き頃よりお世話になりました。その御恩を忘れることはできませぬ」


「それでよい。だが、今の武田の当主は義信じゃ。わしへの恩義と、新しい当主への忠義を混同するでないぞ」


「はっ」


「義信は少々、いや、随分と無茶を申す男じゃ。そなたも苦労するであろう」


「父上、人聞きの悪いことを申されますな」


「事実であろうが」


 義信が笑い、信玄も笑った。


 その様子を見て、源五郎の表情もようやく和らいだ。


「御館様にお仕えすることを、お許しいただけるのであれば、精一杯務めさせていただきます」


「よし、決まりだ!」


 義信は上機嫌で頷いた。


「源五郎、俺の近くで働いてもらう。ただし、いきなり大軍を任せるつもりはない。まずは俺の仕事を見て、思ったことを遠慮なく言ってくれ」


「承知いたしました」


「間違っていると思えば、俺にも言え。若いからといって黙っている必要はないぞ」


 源五郎は顔を上げた。


「……御館様に対しても、でございますか」


「無論だ。父上にさえ遠慮せず意見を申してきた俺が、家臣の諫言を嫌ってどうする」


 義信は豪快に笑った。


「もっとも、つまらんことを申せば、俺も遠慮なく叱るがな!」


 源五郎も、今度ははっきりと笑った。


     ◇


 真田源五郎が退出すると、信玄は義信を見た。


「義信。そなた、あの若者のどこを買った」


「先ほど申し上げたとおりです。よく考え、よく見ておる。何より、俺が答えを急かしても、無理に知ったかぶりをせなんだ」


「それだけか」


「それだけで十分な才ですぞ。知らぬことを知らぬと言える者は、案外少ないものですからな」


 義信は笑った。


 前世で生徒を教えていた頃、分からないことを恥じて黙り込む者を何人も見てきた。


 教えれば伸びる者は多い。


 しかし、分からないことを隠し、適当な答えで取り繕う癖は、なかなか直らない。


 戦場でそれをやれば、人が死ぬ。


「父上。源五郎は真田家の三男ですな」


「そうじゃ。兄の信綱と昌輝も、武田に仕えておる」


「幸綱殿は上野方面で働いておられる。真田の家は、実に人材が豊富ですな」


 信玄は頷いた。


「一徳斎は調略にも長けておる。岩櫃をはじめ、上野での働きは見事なものじゃ。あの家を軽く見るでないぞ」


「無論です。むしろ真田一族には、これまで以上に働いていただきたい」


「……またそれか」


「父上もお人が悪い。優秀な家臣を見せびらかしておきながら、働かせるなとは申されますまい」


 信玄は苦笑した。


「義信。真田は信濃の国衆じゃ。甲斐からの命令一つで好きに動かせる駒と思うなよ」


「心得ております。幸綱殿には幸綱殿の考えがあり、守るべき土地もあります。だからこそ、俺の方から信頼を得る必要があるのでしょう」


 義信は地図の上野方面を指した。


「一徳斎には引き続き現地の働きを頼みましょう。甲府へ呼び戻して喜ぶのは、上杉方だけですからな」


 信玄が頷いた。


「その判断は悪くない」


「ですが、源五郎は俺の手元に置きますぞ」


「分かったわ。何度も言わずともよい!」


 二人の笑い声が、座敷に響いた。


     ◇


 その日の午後、義信は曽根周防守と馬場信房を呼び、今川へ送る使者について相談した。


 評定の間には、用意された書状が並べられている。


 今川氏真へ宛てた正式な通知には、武田家の当主が義信へ代わったこと、三国の盟約を引き続き重んじる考えであることが記されていた。


 信玄も別の書状をしたため、家督を自ら譲ったことを明らかにしている。


「周防守。駿府へ行ってもらいたい」


 義信が告げると、周防守は深く頭を下げた。


「承知いたしました。ただし、今川家も突然の当主交代には驚きましょう。容易に信用していただけるかどうか」


「だからこそ、お前に頼むのだ。俺の考えだけではなく、父上が自ら家督を譲られたことも、きちんと伝えてくれ」


「はっ」


「それから、塩の取引について話をしてほしい」


 信房が顔を上げた。


「塩、でございますか」


「そうだ。甲斐の弱みの一つだからな」


 義信は机上へ銭と小さな金粒を置いた。


「武田には金山がある。だが金を抱えていても、塩が買えなければ兵も民も困る。俺は今川との取引を、もっと安定させたい」


「今川は盟約の相手にございます。従来の取引もございますが」


「従来どおりだから安心とは限らん。今川が弱れば、その交易を支える商人も不安になる。道の安全を守り、通行の条件を明確にしておく必要がある」


 信房は地図へ目を落とした。


「富士川筋の道を整えるおつもりですか」


「まずは、どこで荷が滞り、どれほどの負担がかかっているか調べる。商人が損をするばかりでは、いずれ別の道へ流れてしまうからな」


 周防守が尋ねた。


「氏真殿へは、どこまで申し上げましょう」


「塩の取引を増やしたいと伝えてくれ。こちらも相応の対価を出す。ただし、独占を認めて他の道を塞ぐような約束はするな」


「承知いたしました」


「そして氏真殿には、俺から一つ伝言を頼みたい」


 義信は口元を緩めた。


「義兄殿には、駿河の国をしっかり治めていただきたいとな」


 信房が眉を上げた。


「御館様。それは少々、強いお言葉ではございませぬか」


「義兄だからこそ申せるのだ。今川が弱れば、武田も困る。俺は氏真殿に、義元公の残されたものを守り抜いていただきたい」


 義信は声を落とした。


「三河では松平家康が力を伸ばしておる。織田信長も、美濃へ手を伸ばしている。今川がいつまでも桶狭間の敗戦を引きずっていては、周りの者が喜ぶばかりだ」


 信房は頷いた。


「確かに、今川の立て直しは武田にとっても利がございますな」


「ただし、ただ助けるだけではない。今川にも相応の働きを求める。三国の盟約とは、互いの国を強くするためのものだろう」


 周防守は書状を受け取り、深く頭を下げた。


「必ずや、御館様のお考えをお伝えいたします」


     ◇


 夕刻、義信は真田源五郎を伴って、館の倉へ向かった。


 木戸を開けると、干した穀物と藁の匂いが鼻をつく。米俵や味噌樽が並び、その奥には交易によって運ばれてきた塩も保管されていた。


 義信は塩を詰めた俵の一つへ手を置いた。


「源五郎。これがなくなれば、甲斐は困る」


「はい」


「では、金がなくなればどうなる」


「兵や職人へ払うものがなくなり、商人から品を買うことも難しくなりましょう」


「そうだ。金と塩は、どちらが欠けても困る。だが、両方をうまく使えば武田の力になる」


 義信は倉の外へ出た。


 夕日を浴びた甲府の町には、商人が荷を運ぶ姿が見える。甲斐で採れた品を売る者、他国から品物を持ち込む者、道具を作る職人たち。


 武田家の軍勢を支えているのは、こうした人々でもある。


「源五郎。真田の家は信濃の国衆だな。甲府の商いをどう見る」


「……まだ詳しくは存じませぬ。ただ、甲府へ物を運ぶには、山道を越えねばならぬものが多うございます。道が悪ければ、商人も運ぶのを嫌がりましょう」


「うむ。そのとおりだ」


「それに、関で取られる銭が多ければ、品の値も上がります」


 義信は笑った。


「よく気づいたな。ならば、商人が集まる場所を作り、余計な負担を減らせばどうなる」


「商いが増えましょう。ただし、これまで関銭を得ていた者は困るかと」


「そうだ。何かを変えれば、必ず困る者も出る。その者たちを無視して改革を進めれば、後で足を引っ張られることになる」


 源五郎は真剣な顔で頷いた。


 義信は庭先の石に腰を下ろした。


「源五郎。俺は甲府を、もっと賑やかな町にしたい。金山の金を眠らせず、商人を呼び、職人を増やす。その銭で鉄砲も買うし、兵も育てる」


「鉄砲を、でございますか」


「ああ。今の武田にも鉄砲はあるが、まだまだ使い道を広げられる。いずれは馬の機動力と鉄砲を組み合わせた、新しい軍勢を作りたいものだ」


 源五郎は少し考えた。


「馬上から鉄砲を放つのでしょうか」


「それも試してみたいが、まずは馬で素早く移動し、下馬して撃つところからだな。馬を走らせながら火薬を込め直すなど、簡単なことではないからな」


「なるほど。敵の思わぬところへ鉄砲衆を運べるなら、戦の仕方も変わりましょう」


「そういうことだ」


 義信は立ち上がり、源五郎の肩を叩いた。


「ただし、何もかも急にはできん。まずは銭を稼ぎ、鉄砲を作れる職人を招く。それから兵を育てる。順番を間違えると、立派な武器だけ揃えて腹を空かせた軍勢になってしまう」


 源五郎は笑みを浮かべた。


「御館様は、ずいぶん先までお考えなのですな」


「天下を取るのだ。目先のことだけ考えていては、織田や上杉に先を越されるぞ」


 義信は声を上げて笑った。


     ◇


 その夜、義信は信玄のもとを訪ねた。


 隠居の立場となった信玄は、以前より気楽になったかと思いきや、相変わらず地図を広げて軍の動きを調べていた。


「父上。隠居したのに、まだ仕事をしておられますな」


「そなたが休ませてくれぬからじゃ」


「はっはっは! それもそうでしたな!」


 義信は父の向かいへ腰を下ろした。


「源五郎をいただいた礼を申し上げに参りました」


「礼ならよい。あの男をどう使うかは、そなた次第じゃ」


「いずれ大きな働きをしてもらいます。ただ、今は近くで学ばせるつもりです」


 信玄は頷いた。


「若いうちは、よい師とよい仕事に恵まれることが大切じゃ。あれには一徳斎の血が流れておる。使い方を誤るなよ」


「心得ております」


 義信は少し間を置いた。


「それから父上。もう一つ、お尋ねしたいことがございます」


「何じゃ」


「甲斐の金山についてです」


 信玄の眼が動いた。


「金山がどうした」


「俺は一度、採れる金の量と、実際に武田の手元へ入ってくる金の流れを確かめたいのです」


「金山衆を疑っておるのか」


「いいえ。むしろ、あの者たちの力を借りたいのです。金を掘る技も、山の扱いも、俺よりよく知っておりましょう」


 義信は笑った。


「ただし、金がどこから出て、誰の手を通り、何に使われているかは知っておきたい。金山が働いているのに、戦や商いのための銭が足りぬようでは困りますからな」


 信玄はしばらく息子を見つめていた。


「義信。そなた、本当に武田の何もかも変えるつもりらしいな」


「何もかもではありませぬ。よいものは残します。父上が築かれた家臣団など、その筆頭ですぞ」


「調子のよい奴め」


 信玄は苦笑しながらも、机の端から書付を取り出した。


「ならば、金山のことも調べてみよ。ただし、金山衆は一筋縄ではいかぬぞ。あやつらにはあやつらの取り決めがあり、技がある。力で押さえれば金が増えると思うな」


「承知しております」


 義信は書付を受け取り、立ち上がった。


「さて、明日も忙しくなりそうですな」


「義信」


 信玄に呼び止められ、振り向く。


「そなたは、わしが築いた武田をどこまで大きくするつもりじゃ」


 義信は少し考えた。


 甲斐を出て、信濃、駿河、美濃、尾張、そして京へ。


 その先にも、広大な国々がある。


 前世で日本史を教えていた男には、この時代の誰よりも鮮明に、その広がりを思い描くことができた。


「父上」


 義信は口元を緩めた。


「せっかく家督をいただいたのです。日の本すべてを武田の旗で覆ってみたいではありませぬか」


 信玄は息子を見つめ、やがて声を立てて笑った。


「はっはっは! まったく、わしより欲深い男になりおった!」


「父上の息子ですからな!」


 義信も豪快に笑った。


 翌朝、甲府へ真田幸綱の三男が新当主の近習として出仕することになる。


 同時に、今川へは家督継承と交易についての使者が向かい、甲斐の金山についても調査の命令が出される。


 武田義信の天下取りは、父を倒したところで終わらない。


 むしろ、ここからが本番だった。


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YouTubeでショート動画作ってみました


https://youtube.com/shorts/LjVQgpFxZ2E?si=X6VKhxz29nXoLekJ

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