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33 どうする、俺?

「召喚に際しカイト殿は”力”を授かりましたが、術式の改変により”器”との結びつきを解かれてしまいました。そのため、”力”のみを得てこの世界へと顕現することになります。

 一方、取り残される形になった”器”はそのまま”界”に残り、やがて消え去ってゆくはずでした。普通ならば。

 ですが、今回の召喚にはいつもと大きく異なる点があったのです。それは召喚されて来る者が2人いたということ。それにより、残されていた”器”はもうひとりの召喚者へと授けられる事になりました。

 それが貴方なのです、クウヤ殿。

 術式が改変されていたにもかかわらず何故”器”がクウヤ殿と結びついたのか?正直なところその理由は分かりません。

 ただ、そもそも召喚者が2人いること自体通常では有り得ないことなので、これは単なる偶然ではなく何か大きな意味を持つことなのだと私は思います。」

 最長老の話を聞きながら、俺は”器”という言葉に聞き覚えがあるその理由を思い出していた。

 ”勇者の森”だ。そこに表れた勇者の亡霊が言ったのだ。俺のことを「”力”ヲ収ムル”器”」だと。彼は勇者召喚の秘密を知っていたのだろうか?

 今となってはそれを確かめるすべもないが、とにかく彼は俺の中に”器”が存在することを見抜いたのだ。

 ヴィーが俺を見て勇者の資質があると言ったのも、この”器”のせいだったわけだ。

 なるほど、その”器”とやらがこの世界に、しかも俺の中にあることは分かった。だが、どうやってそれを海斗に渡せばいいんだ?

「という事は、その”器”があれば海斗は助かるんですね?どうやってアイツに引き渡せば良いんですか?」

「特に何もする必要はありません。

 勇者と”力”と”器”。この3つは元々ひとつになるべきものなのです。例え今は分かれていても、同じ世界に存在する限り自然に元へと戻るはずです。」

 それなら楽勝じゃないか。何もしなくたって海斗は勝手に治るはずだ。

 ……なのに、そうはなっていない。すぐ側に”器”があるにもかかわらず、それでも海斗は”力”によって命を焼かれ続けている。

 最長老が嘘を言っているとは思えない。今さらそんな嘘をついても仕方ないのだから。

 なら、何故だ?何んで”器”はまだ俺の中にある?

 そう自分自身に問い掛けながらも、実のところその理由には薄々思い当たってもいた。ただ、それを認めたくはなかったのだ。

「……但しそれには現在の持ち主が亡くなった場合、という条件が付きます。」

 やっぱりか。どうりで、ここへ来たことを海斗が黙っていたわけだ。

 自分が助かるためには俺の命を犠牲にしなければならないなんて、そんなこと話せるわけないよな。

 海斗だって死にたくはないはずだ。そんなの当たり前のことだ。しかし、俺を犠牲にしてまで生き延びたいと思うようなヤツじゃない。だから黙っていたのだろう。

 振り返って俺はどうだ?海斗のに代わって代償を払う覚悟をしていたんじゃないのか?

 ……だが、いざ命まで差し出せるかと言えば、正直「ハイ」とも言えない。俺だって死ぬのは怖いんだ。

 俺の思考は完全に麻痺してしまい、普通に物を考えられるような状態ではなくなってしまっていた。

 なにせ海斗の命と俺の命、そのどちらを選ぶかと言う究極の選択を迫られているのだから。

「もしこのことを知ればクウヤ殿は苦しむことになる。だからこそ、カイト殿は黙っておられたのでしょうな。

 帰り際の表情から、儂にもそれは分かりました。ひとり、真実を抱えたまま逝く覚悟なのだと。

 だが、いずれはクウヤ殿も自ら勇者召喚の秘密へと辿り着くに違いない。そう考え、お待ちしていた次第なのですよ。」

 そう言ってテヒリオは俺の来訪を予期していた理由を語ってくれた。

 だが今の俺にとってそんな謎解きなど、もうどうでも良いことだった。

 とにかく一刻も早く海斗の元へ戻りたい。アイツの顔が見たい。その思いだけが俺を動かしていた。

 最長老達への挨拶もそこそこに、俺はテヒリオと共に転移扉で森へと戻った。

 俺の様子を心配したテヒリオは人を付けようと申し出たが、それを断りひとり森の中の道を出口へと向かう。

 まだ日暮れには少し早かったが、そこには既にソフィアが俺を待っていてくれていた。

「お帰り、クウヤ。」

 ソフィアは俺の名を呼んだだけで、他に何も聞こうとはしなかった。俺の顔色を見て大体のことを察したのだろう。

「海斗の具合は?」

「まだ眠ったままよ。」

「……そうか。」

 そんな短い会話を交わした後、俺達は小屋へと転移した。

 小屋の側にはまだヴィーがいて、心配そうに窓から中をを覗き込んでいる。

『戻ったか、クウヤ。』

 ソフィア同様にヴィーもそう言っただけで、後は何も尋ねてはこなかった。俺は軽く手を上げて見せ、無言のまま小屋へと入る。

「海斗……。」

 ベッドの上で眠る海斗の表情は穏やかだった。凄まじい力に命を焼かれているとは思えない程に。

 だが、そんな穏やかな顔の下では今も刻々と命が削られ続けているのだ。その苦しみを思い、俺は不覚にも涙する。

 いかんな、今は泣いてる場合じゃない。

 ソフィアもヴィーも俺を気遣って何も言わないが、本当は気が気ではないはずだ。海斗を救うことが出来るのかどうか、今すぐにでもその答えを聞きたいだろう。

「ソフィア、ヴィー、話があるんだ。聞いてくれないか。」

 涙を拭い、俺はもう一度小屋を出て2人に声を掛ける。

 そして俺は天空の神殿で聞いてきたことを2人に話して聞かせた。

 海斗がセルア族の元を訪れていたこと、改変された召喚術式のこと、そしてそれが勇者を病で苦しめる原因であること。ソフィアにとっては辛い話だろうが、皇国が意図的に勇者を排除しようとしていることも話した。

 話が進むにつれ、ヴィーの様子が変わってゆく。その魔力の波動がどんどん強く激しくなる。言葉にこそ出さないものの、かなり憤っているようだった。

 ソフィアも終始無言のままだったが、その表情には怒りこそあれ悲壮感はもう無い。どうやら心の整理がついたようだ。

 とは言え、さすがに”器”の話には思わず泣きそうな顔になる。まあ、無理も無いか。何せさっきまで怒り狂っていたヴィーですら、すっかり沈み込んでしまったほどなのだから。

『……成程な、何ともやり切れぬ話よ。』

 俺が話し終わると、ヴィーがぽつりと呟いた。その後、少しためらうような素振りを見せはしたが、やがて意を決したように口を開く。

『それで、お前はどうするつもりなのだ?己の身を犠牲にするつもりか?』

 ド直球の質問だった。

「情けない話だけど、正直まだ決められないんだ。俺と海斗の命、どっちを取るか?って話だしな。

 アイツのためならどんなことでもしてやりたいとは思ってるんだが……いざとなるとビビッてしまうんだ。

 でも、やっぱりアイツを救うためには……。」

「ダメよ!」

 突然、叫ぶような声でソフィアが俺の言葉を遮った。

「クウヤが身代わりになるなんて、そんなの絶対ダメよ!

 カイトさんを助けたい気持ちは分かるわ。それは私も同じよ。でも、そのためにクウヤが死んでしまうなんて、そんなのイヤよ!

 お願いだから……そんなこと言わないで。」

 そう言ってソフィアは泣き崩れる。

 その姿を見て、正直俺は当惑した。

 俺のことを心配してくれるのは素直に嬉しい。だが、ここまで彼女が感情的になるとは思っていなかったのだ。

『我もそう思うぞ。お前を犠牲にして助かったところで、カイトがそれを喜ぶとは思えんがな。』

 ヴィーにまでそう言われてしまう。

 それは分かってる。俺にそんなマネをさせないためにアイツは”器”のことを黙っていたんだからな。そう、分かってはいるんだ……。

「ヘンなこと言って悪かった、謝るよ。だからもう泣かないでくれ。」

 その後、どうにか泣き止んだソフィアを宿へ帰すことにした。彼女はここに残ると言い張ったが、かなり精神的に参っている様子だったので無理やりにでもゆっくり休んでもらうことにしたのだ。

『大丈夫だ。クウヤがおかしな真似をせぬよう、我が目を光らせておくので安心するがいい。』

 まあ、最終的にはヴィーのその言葉が彼女を納得させる決め手になったわけだが……どんだけ信用ないんだよ、俺。

 そんなわけで、ヴィーの監視対象となってしまった俺は疲労困憊の状態で小屋に戻る。

 外は月明りでそこそこ明るかったのだが、さすがに部屋の中までは照らしてくれず足元もおぼつかないほどに暗かった。

 そこで俺が明かりを点そうとごそごそし始めた時、いきなり背後から声がする。

「どうやら、セルア族から話を聞いちゃったみたいだね。」

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