28 急展開というやつです
「いくら兵を集めようが加護持ちを揃えようが、そんなんで勇者を倒せるわけがない。魔王どころか邪神とだって戦える力をもってるんだからな。それくらい皇国の連中だって良く分かってるはずだ。にもかかわらず皇国はジルベールを殺そうと動いた。
何故だ?いくら魔王と戦った後で疲れていると言っても、その程度で勝てると思うほど皇国の連中はバカ揃いなのか?仮にそうだったとしても、じゃあハウテルンでの襲撃は?
その時は魔王戦の後とは違って勇者も疲れていないし、しかも襲撃する側の人数はずっと少ない。
そんな状況で何故皇国はジルベールを襲ったりしたんだ?どんな勝算があったと言うんだ?」
俺が何を言おうとしているのか、海斗も薄々は気が付いている様子だ。いつものヘラヘラした表情は無く、無言のままじっと俺を見つめてくる。
「おそらく、皇国が勝てると判断した理由はジルベールが弱っていたからだ。魔王と戦う前から、既に彼は病に侵され衰弱していたんだ。だから魔王戦で疲れた状態なら倒せる、そう判断したんだろう。
そして、その病状はハウテルンに移ってからさらに悪化した。襲撃する人数を減らしても何とかなると判断されてしまうほどにだ。」
「……どうしてそう思うんだい?」
「逆に聞くが、もしそうでないのならジルベールは何故死んだんだ?あの洞窟で寿命を全うしたって言うのか?
だが、ハウテルンの昔話やヴィーの話からは到底そうとは思えない。彼がこの地にいたのは、どう考えても長くて数年だ。寿命を迎えるには早すぎるだろう。
ヴィーは敢えて言わなかったが、洞窟で出会った頃には既に相当弱ってたんだと思う。だから最後にジルベールから別れを告げられた時、黙ってそれを見送ったんじゃないかな。」
俺が話し終えた後もしばらくの間海斗は無言のままだった。その表情は今まで見たことがないほどに弱々しいもので、それが酷く俺を不安にさせる。
「……まいったな、こうも簡単に見抜かれるとは思ってなかったよ。」
やがて海斗は力無く笑いながら口を開いた。
「その通りだよ。ジルベールは魔王と戦うずっと以前から病に侵されていたんだ。
この谷に来た頃には既に余命も尽きかけた状態でね、それでも何とか勇者の情報を集めようとしたのさ。
それが自分の死を早める結果になるかもしれないのを承知の上でね。凄い執念だよ。」
どうやら俺の嫌な予感は当たってしまったようだ。
「なんでそのことを隠した?」
「空也が心配するんじゃないかと思ってさ。
”勇者の森”で死んだ彼は元々が病に侵されていた。そしてジルベールも。
本来、勇者は普通の病気なんかには罹らないほど強健な身体を持っているにもかかわらず2人もの勇者が原因不明の病に侵され、内ひとりは確実にその病のせいで死んだんだ。
そうなると、僕も同じ病に罹るんじゃないか?そう空也は不安に思ってしまうだろ。何せ空也は心配性だから。」
当たり前だ。兄弟なんだぞ、俺達は。心配しないわけないだろう。しかも、ここ最近は妙に疲れた様子を見せることがあった。頑丈な体を持つ勇者でありながらだ。俺はそれが不安で仕方ない。
「それが分かってるんならヘタに隠したりしないで、むしろ本当のことを言ってくれよ。隠し事されると余計心配になるだろうが。」
「ゴメンゴメン、悪かった。僕なら心配ないって。大丈夫だよ。」
そう言って笑う海斗の表情は、いつもの飄々としたそれに戻っていた。
「むしろ、僕なんかよりソフィアの方を心配してあげたほうがいいんじゃないかな。
彼女もいろいろ不安定な状態だし、そこは空也が支えてあげなきゃ。」
「だから、それはいいつーの。何でそんな話になるんだ?」
とまあその時はそんな感じになり、それ以上追求する雰囲気ではなくなってしまったのだが、後になってそれを悔やむことになる。
それから数日後、海斗をひとり洞窟へと送り出しその日は部屋の掃除をすることにした。なんかすっかり所帯じみてきたな、俺。
やがてソフィアがハウテルンから”転移”でやって来る。
「カイトさんは?」
「ああ、今日は早めに出て行った。ソフィア、朝飯はまだなんだろ?今、用意するよ。」
「ありがとう、いただくわ。」
「あと、今日は食料の買い出しに行きたいのでよろしく頼むよ。」
どのみち俺もソフィアも洞窟の小部屋には入らないと決めているので他にやることがない。なので、そんなのんびりした感じで1日が始まる。
ヴィーに話を聞くにしても、そう毎日俺達のヒマ潰しに付き合わせるわけにはいかないからな。
「うん、美味しい。また腕を上げたんじゃない、クウヤ。」
俺の作った朝食を頬張りながらソフィアは笑顔を浮かべる。
無理やり押し付けられた賄い役ではあるが、なんだかんだ言いってもこうして美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいものだ。だからといって「それなら飯屋でも開いてみようか」などと言い出すつもりはこれっぽっちもないが。
「ねえクウヤ、ひとつ聞いてもいいかしら?」
食事を終え2人でお茶を飲んでいる時、ソフィアは急に真面目な顔を俺に向けてきた。
「何だ?」
「この旅なんだけど……本当は最初からマルロー様のことを調べるのが目的だったんでしょ?」
どうやら気付かれてしまったようだ。まあ、この状況ではそれも当然か。
旅の途中で勇者に縁のある場所を見つけた。その程度なら偶然と言い切る事も出来るだろうが、その勇者が何やら大量の資料を遺しており、しかも俺や海斗が目の色を変えてそれを調べ始めたのだ。はなからそれが目的だったのではないか?そう考えるのが自然だろう。
「そうだな、こうなったら今さら隠しても仕方ないか。
君の言う通り、俺達は最初からジルベールの遺したものを探すつもりで国に来たんだ。」
「やっぱりそうなのね。」
そう答えるソフィアの顔はどこか悲しげに見えた。
「黙ってたのは悪かったと思ってる。本当に……。」
「ううん、そうじゃないの。そんなことじゃないのよ。」
俺が謝ろうとすると、彼女は即座にそれを遮った。その目には悲しみすら越えて悲壮感さえ漂わせている。
「黙ってたのは私のことを考えてくれたからなんでしょ?
それくらい分かってる。
でもそうやってあなた達が気を使ってくれるのは、もしかしたらここで見つけたものが私を苦しめてしまうかもしれない、そう考えたからからなんでしょ?」
ソフィアは聡明な娘だ。だが、その聡明さが彼女自身を苦しめることになっている。
「皇国は勇者召喚を悪用している、あなた達はそう考えているのよね?
多分、マルロー様が残した資料はその証拠になるものなのではなくて?
そして、マルロー様はそのために命を狙われた……皇国に。違う?」
おそらく、ジルベールに関する言い伝えやヴィーから聞かされた話から彼女なりの答えを導き出したのだろう。多少の違いはあれ、ほぼ正解に辿り着いているようだ。
ただ、俺にしたところで全てが分かっているわけでもない。まだジルベールの資料を確認したわけじゃないからな。今のところ最も真実に近い場所にいるのは海斗だけなのだ。
「ソフィア、それなんだが……。」
そう俺が口を開きかけた時、不意に黒く大きな影が辺りを覆った。と同時に凄まじい魔力の波動が俺達を襲う。
これは……ヴィーの魔力のようだ。だが、いつもの抑え気味のそれではなくほぼ全開に近い。何かあったのだろうか?
俺達が上を見上げると、思った通りそこにはヴィーの姿があった。彼は2,3度空中を旋回してから小屋の近くに舞い降りる。
「どうしたんだ、ヴィー?何かあったのか?」
嫌な予感にさいなまれながら俺がそう問い掛けると、珍しく慌てた様子でヴィーは答えた。
『今すぐ洞窟に来てくれ。カイトが倒れてしまったのだ。』




