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27 ジルベール物語

「どうやらジルベールも最初から皇国を疑っていたわけじゃなさそうなんだ。多少違和感は感じてたみたいだけど、僕達みたいに疑問を解明しようとまでは考えなかったみたいだね。

 そんな彼が皇国と決別するきっかけになったのが魔王との決戦前夜、皇国軍のとある部隊長からの密告だった。

 その密告の内容がこれまた驚きでね、『魔王との戦いを終えた後に勇者を謀殺せんとする動きあり』とのことだったんだ。」

 やっぱりか、と俺は思った。

 ハウテルンで聞いた話からしてジルベールが命を狙われていたのは確実だ。味方に殺された勇者が過去にいる以上、彼が同じ目に合ったとしてもさして驚くほどのことではない。

「にわかには信じられない話だったけど、ジルベールはその部隊長と顔見知りで彼が誠実な人間であることを良く分かっていたんだ。おそらくその誠実さが皇国の悪だくみを良しと出来なかったんだろうね。

 それでもまだ半信半疑のジルベールはそのまま魔王との戦いに臨んでこれに勝利した。まあ、ヴィーの言う通りなら魔王なんて敵ですらなかっただろうし、当然の話だね。

 そしてその夜、ジルベールが野営の天幕内で休んでいると外に大勢の人間の気配を感じたんだ。その気配は天幕を取り囲んで少しすつ距離を狭めてくる感じだった。しかも、辺りを探知してみると”転移”魔法阻害の結界まで張られていた。

 そこでジルベールは確信したんだ。部隊長の言葉は嘘ではなかったと。」

 いつの間にか俺は身を乗り出しながら海斗の話に聞き入ってしまっていた。コイツ、こんなに話上手だったのか?

「”転移”を封じられ逃げ出すのは難しい状況だったけど、彼には秘策があった。念のため爆炎の魔法を仕込んだ魔力結晶石を天幕の周囲に設置しておいたんだ。

 僅かな時間しかなかったはずなのにそんな手を打てるなんて、さすがに魔法研究者としても名高かっただけのことはあるよね。

 で、彼は頃合いを見計らって全ての魔法を開放した。その魔法には黒煙の効果も付加してあって、辺りはすっかり炎と煙に包まれてしまった。

 突然の事態に戸惑う敵の中、ジルベールは”隠形”の魔法で身を隠しその場を逃れたというわけさ。」

 ”隠形”の魔法とは結界魔法の一種で、他人からの認識を最小限にまで抑える効果がある。炎と煙に巻かれパニックになった集団の中でそれを使えば、それこそ透明人間のように姿を隠すことが出来ただろう。

「その後、僕達の知ってるように彼はファンデール王国へと渡った。追っ手を避けるためだね。

 それから先はハウテルンで聞いた昔話とほぼ同じだ。放浪の魔法研究者と身元を偽って町に住み付いた。

 そのころのジルベールはもちろん皇国に対して怒りを感じてはいたけれど、同時にあまり深く理由を考えていたわけでもなかったんだ。単に一部の権力者が彼の武功を妬んだのだろうと、その程度にしかね。

 ところがそんなある日、彼にとって思ってもいなかった事態が起こる。そう、盗賊の襲撃だ。」

 ここまで聞けばその盗賊の正体など誰にでも分かる話だ。おそらくジルベールもすぐさまそれに気付いたに違いない。

「襲って来た連中は盗賊を装っていたが、まあジルベールにしてみればバレバレもいいところだっただろう。盗賊と兵士なんて基本的に戦い方が違うんだから一目瞭然さ。

 ただ、その時もまだ皇国そのものが彼の敵になっているとは思っていなかったんだ。まだ信じたい気持ちもあったんだろうね。

 でも、襲撃者の中に見知った顔がいるのを見て彼は自分の考えが甘かったと気付いた。その顔見知りとは勇者パーティーのメンバーだった『武帝』と『魔導王』だったんだよ。」

「『武帝』?」

 聞きなれない呼び名だった。『魔導王』は分かるが『武帝』ってのは何だ?

「うん、ジルベールの手記にはそう書かれてあった。武芸全般に秀でてるとか武器の扱いに長けてるとか、まあそんな感じじゃないのかな?」

 おっと、余計なことで話を逸らさせてしまった、スマン。どうぞ先を続けてくれ。

「襲撃者の中に”神の加護”持ちがいるとなると話は変わってくる。一部の権力者が勝手に動かせる相手じゃないからね。これはもう皇国中枢部が動いているとしか考えられない。

 そこでジルベールもようやく疑問を抱くようになったんだ。勇者とはいったい何なのか?この世界においてどんな存在なのか?ってね。

 それまでも漠然とは感じていたようなんだけど、よくやくハッキリとした形で疑いを持つようになったんだよ。

 そして、町で襲撃者を撃退したジルベールはこの小屋に移り住んだ。……ああ、『武帝』と『魔導王』は手強かったけど何とか返り討ちにしたみたいだね。」

 さすがは勇者。加護持ちが2人掛かりでも敵わないとは。まあ、当然と言えば当然か。

「それを機にジルベールは過去の勇者について調べることにした。

 とは言え、調べた資料をこの小屋に置いておくわけにもいかない。またいつ襲撃されるか分からないしね。

 そこで資料を保管するための場所を探して……あの洞窟に辿り着いたわけだ。そこから先はヴィーの話の通りだよ。」

「その後、襲撃はされなかったのか?」

「手記には書かれていなかったけど、何もなかったというのは考えられないだろうね。それで諦めるくらいなら最初から手なんか出してこないだろうし。

 あまりにもしょーもない襲撃すぎて、わざわざ手記に残すほどでもなかったんじゃない?」

 そう言って海斗は笑った。まあ皇国にとっては侮辱的な言葉だろうが、地上最強生物からしてみればそんなもんなんだろうな。むしろ、コイツにとって”しょーもなくない”襲撃ってのがあるのかどうかすら疑問だ。

「そうしてジルベールは勇者について調べ始めたわけなんだけど、彼はどうしたと思う?」

「どうしたんだ?勇者の情報なんてその辺に転がってるわけでもないだろうし。」

「それがね……。」

 海斗は実に面白そうな笑顔を浮かべる。ちょっと黒い部分も出ているような感じだ。

「忍び込んだんだよ。皇国の第3書庫と教会の裏書庫に。」

「マジか!?」

「彼は自分の持てる魔法の全てを駆使して第3書庫の結界をすり抜け、さらには教会の裏書庫を突き止めてそこにも侵入したんだ。

 ”転移”の魔法を使えば皇都グラトリアまでの往復なんて簡単に出来るしね。どうやら何度もバレずに侵入を繰り返してたみたいだよ。

 そうやって集めた資料が、あの洞窟の部屋に残されているってわけさ。」

 ジルベール恐るべし。いざとなると海斗もかなり無茶な行動をするが、さらにその上を行くヤツがいたとは。勇者ってのはこんなヤツばかりなのか?

「という事は、お前の見つけたメッセージもその時に残したものみたいだな。」

「そうだね。皇国に居た時点では特に疑問を持っていたわけではないようだから、あのメッセージは後から仕込まれたと考えるべきだろうね。」

「だからファンデールに”行け”じゃなくて”来い”だったのか……。」

 海斗の話はそれで終わる。驚いたり納得したりと中々興味深い話ばかりで、それ自体は俺を満足させた。

 だがまだひとつ、俺にはどうしても確認しておかなければならないことがあった。

「……お前、今の話の中でわざとはぐらかした部分があるだろう?」

「えっ?何のこと?」

 俺の言葉に対し海斗はおどけた表情を返して来るが、そんなことで胡麻化されはしない。

 これは重要なことなのだ。必ず本当のことを答えてもらうぞ。

「”勇者の森”で殺された勇者は元々原因不明の病に侵されていた。

 もしかすると、ジルベールもそうだったんじゃないのか?

 彼も病に侵され、結局はそのせいで死んでしまった。違うか?」

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