25 引っ越しました
『勇者であるかどうかはその者の魂の色を見れば分かる。お前の魂の色は紛れも無く勇者のものだ。』
ええと、いきなり何を言い出すのかな?このドラゴンさんは?
俺が勇者だって?どこをどう見ればそんな発想が出てくるのやら。
しかし待てよ。魂か……どっかで似たようなことを言われたな。
「ああ、セルア族の里でも同じことを言われたけど、それはちょっと違うんだ。単に俺も異世界人だってだけだよ。魂の色とやらが違うのはそのせいさ。
勇者として召喚されたのは海斗……いま向こうに走っていったヤツで、俺はそれに巻き込まれてこの世界に来ただけなんだ。」
俺はオマケなんだよ。そう説明したのだが、それを聞いたヴィーは呆れたような声を上げる。
『何を莫迦なことを。どの世界に産まれようが魂の色などそうそう変わるものではない。その違いは神からの恩寵をどれだけ受けているかによってのみ現れるのだ。
”神の加護”を持つ者、”精霊の加護”を持つ者、そして加護を持たざる者。それによって差は出るが、しかしそんなものは僅かな違いでしかない。
だが、勇者だけは違う。神より多大な恩寵を授かった勇者の魂は他とは比べ物にならないほど輝くのだ。神の光によってな。』
そう言ってヴィーは俺に顔を近づけてくる。アップで見るドラゴンは中々の迫力だったが、今の俺はそれどころではない。
「つまり何か?俺の魂もその”神の光”とかを持ってるってこと?勇者と同じように?」
『そうだ。』
「いやいやいや、それは無いって。俺は勇者みたいに凄い力なんか持って無いぞ。それどころか魔力すら無いんだ。」
俺と海斗は召喚の直後、神官により魔力の測定を受けている。
それによって判明したのが、超越した魔力を持つ勇者・海斗と全く魔力を持たない凡人・俺という悲しい現実だったのだ。
『そんなことはさしたる問題ではない。お前が勇者と同じ魂を持つ、そのことこそが重要なのだ。』
いや、十分問題だと思うぞ。魂の色がどうかは知らんが、俺には勇者のような強い力は無い。その事実の方が重要だろうに。
『まあ今はそうでなくとも、いずれお前も己の資質に気付く日が来るであろう。』
またテキトーなことを……。
ふと見ると、ソフィアが驚いたような顔で俺を見つめていた。これはあれだな、ヴィーの戯言を真に受けている顔だ。
俺は慌てて首を振り完全否定してみせる。本気にしちゃいけませんよ、ソフィアさん。こんな史上最弱の勇者なんているわけないでしょうが。
そうこうしている内に海斗が戻って来た。随分と早いお帰りだ。
「どうだった?」
そう俺が聞くと海斗は笑いながら肩をすくめて見せた。
「思ったより量が多くてね、今日のところは部屋の確認だけにしておくよ。資料の方は日にちを掛けてゆっくり調べていくさ。」
それから真面目な顔に戻ると今度はヴィーに向かって話し掛ける。
「部屋の中には一体の骸があった。おそらくジルベールのものだと思う。」
『……そうか。』
当然覚悟はしていたのだろうが、それでもジルベールの死を受け止めるヴィーの声は何処か沈んで聞こえた。
「それから彼の遺骸なんだけど、ここに墓を作り弔ってやりたいと思うんだ。いいかな?」
『我に異存は無い。そうしてやってくれ。』
その後、皆でジルベールの弔いを行う。
かつて住んでいた小屋の近くにとも考えたのだが、それより友であるヴィーの側で眠る方がいいだろうという事でホールの片隅に墓を作りそこに彼を埋葬した。
『ジルベールの件は礼を言う。またいつでも来るがよい。』
ヴィーに見送られ、とりあえずその日はハウテルンへと戻ることにした。
宿に帰ると海斗は何やらそわそわし始める。また何かとんでもないことを考えているに違いない。
「洞窟に通うため、しばらくはあの小屋に住もうかと思うんだ。」
ほら来た。3人で晩飯を食っている時、海斗が突然そんなことを言い出したのだ。ある程度覚悟はしていたが、相変わらず予想の斜め上を行きやがる。
「一応確認するけど、小屋ってのはあのジルベールの小屋のことだよな?」
「そうだよ。」
「何であんなところに住む必要があるんだ?
お前は”転移”が使えるんだから、あの洞窟にはここから通えばいいじゃないか。」
「洞窟には様々な魔法を阻害する結界が張られてるんだ。”転移”魔法もそのひとつだよ。だから、どのみち手前でワンクッション置く必要があるんだ。
だったら、あの小屋に住んでしまったほうが近くて楽だろ?
それに、やっぱり自然の中で暮らすのは気持ち良いしね。心が落ち着くよ。」
まあ言ってることは分からなくもないが、何もすき好んであんな辺ぴな場所に住むこともあるまいに。
「でも、食事などはどうするのですか?」
そうだぞ、ソフィアの言う通りだ。自然が豊かだってことは、逆に言うと何もなくて不便だってことでもあるんだからな。
「必要な物は町で買い込んで、あとは空也に料理してもらえばいいよ。」
おい、ちょっと待て!しれっと俺を賄い担当にするな。そんな勝手な言い分、納得すると思うのか?
「なるほど、それはいいですね。クウヤは料理も上手ですし。」
くそっ、ソフィアまで海斗の側に付きやがった。
確かに勇者パーティーで旅をしている頃、野営の際には俺が食事担当だった。
元々共働き家庭だったのでよく自分で晩飯を作っていたこともあり、こっちに来てからも特に抵抗なく皆に食事を作って提供していたのだ。
勿論、食材や調味料の違いに最初はかなり苦労したものの、昔取った杵柄……と言う言葉で合ってるかどうかは知らないが今ではそこそこの腕前だと自分では思っている。
しかし、それは俺が役に立てるのはそのくらいしかなかったからだ。”神の加護”持ちだらけのパーティーにおいて、加護無しの俺に出来ることなどその程度なのだ。
だから、別に好きでやってたわけじゃないんだぞ。
だが勇者と『魔導王』のタッグに凡人の俺が敵うはずもなく、最終的に押し切られる形になる。
とは言え”守護者の谷”移住(?)計画のおかげなのか、ソフィアにも少し明るさが戻って来たようなのでまあ良しとするか。
翌日、俺達は再びジルベールの小屋へと向かう。お掃除大作戦のためだ。
何しろ500年も放っておかれたのだ。汚れやホコリが半端ない。先ずはキレイに掃除しないことには住めたものではなかった。
そのため全員でホウキを手に取り丹念に汚れを落とす……なんてことはしない。勇者と『魔導王』の”掃除”は一般人とは一味違った。
先ず最初に風の魔法で家の中のホコリを全部吹き飛ばす。次いで水の魔法を高圧シャワー状にして汚れを落とし、最後に光の魔法で高温を発生させて乾燥。はい、オシマイ。
いくら小屋には”保存”の魔法が掛けられているとは言え、あまりにも豪快過ぎるやり方である。崩壊でもしたらどうするつもりだ?
「今さらだけど、ここに住んだりしてハウテルンの住人に怒られやしないか?」
「大丈夫、黙っていればわからないさ。」
「……そう言うと思った。」
とは言うものの、やはり無用のトラブルは避けるに限る。なので、暮らしに必要なものはハウテルンではなく旅の途中で立ち寄った別の町で買うことにした。旅の者が家具や大量の食器を買い込めばどうしたって目立ってしまうからな。
勿論それは”転移”と”収蔵”の魔法があればこその話である。
小屋には俺と海斗が寝泊まりすることにした。ベッドルームはひとつしかないので、申し訳ないがソフィアには引き続き宿を使ってもらう。
まあ彼女も”転移”の魔法を使えるので瞬時に往来できるし、戻るのも寝る時だけだ。それほど寂しい思いはさせずに済むだろう。
だが実のところ、彼女を小屋に住まわせないのにはもうひとつ理由があったのだ。
「ソフィアには悪いけど、ジルベールの資料についていきなり内容を聞かせるわけにもいかないからね。」




