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24 鬱展開になりかけた

『そもそも勇者とは神より力を授かりてこの世界に顕現せし者、いわば神の使い。

 その力は世界の滅亡を防ぐことにこそ使われるものであって、あんな小物と戦うためのものではない。

 にも拘らず人族はことあるごとに勇者を召喚せしめようとする。全くもって愚かなことだ。』

 これは……かなり衝撃的な話だ。

 ドラゴンが魔王を小物呼ばわりするのは、まあ分からないでもない。彼にはそれだけの力があるのだろう。

 だが、「魔王など人族だけで倒せる相手」という言葉は聞き捨てならない。

 それが本当なら、何故邪神が滅んだ後も勇者召喚は行われているのか?

 人族には魔王の実力が分かっていない、ということはたぶん無いだろう。最初はそうだったかもしれないが、以来何度も戦っているのだ。それに気が付かないほど人は愚かではないはずだ。

 だとすれば、万一の保険のためだろうか?

 もし人族では太刀打ちできないほどの力を持った魔王が現れた場合の、その保険として勇者を呼び出してる可能性だ。

 まあ、これは考えられないことでもない。邪神の脅威により滅亡しかけたトラウマがあるだろうからだ。

 そしてもうひとつ別の理由を頭に思い浮かべた時、おそらく俺の表情は深く嫌悪で染まっていたに違いない。

 その内容はこうだ。

 世界を救えるのは勇者だけ、そして勇者を召喚出来るのはセリオス教だけ、なので世界はセリオス教に従わねばならない、とまあそんな感じ。

 つまり、セリオス教と皇国が自分達の権力欲のため無意味に勇者を召喚している可能性だ。

 もしそれが真実だとしたら胸糞どころの話ではない。歴代の勇者はそんなことのためにこの世界に呼び出され、中には死んでいった者までいるのだ。

 これはもう怒っていいだろう。勇者の力でセリオス教と皇国を滅ぼしてしまっても文句を言われる筋合いは無いほどに酷い話だ。

 ……おっと、危うく暴走しかけたようだ。まだそれが真実だと決まったわけではない。少し冷静になって考えよう。

「魔王が人族だけで倒せる相手というのは本当のことなのでしょうか?

 もしそうだとすれば、何故皇国はいまだに勇者様を召喚し続けているのですか?」

 同じ疑問を抱いたのだろう。ソフィアがドラゴンにそう尋ねた。その顔色はまるで死人のように蒼白だった。

 元々、俺や海斗は皇国に対して不信感を持っている。なので連中が良からぬ企みを持って勇者を召喚していたとしても、怒りこそ感じるもののそれほど驚きはしない。

 だが、ソフィアは違う。彼女は皇国の忠実な臣民であり、セリオス教の熱心な信徒でもある。

 もしかすると彼等に騙されているのかもしれないという疑問は、今までの彼女の生き方そのものすら否定しまうことになるのだ。

『人の子よ、ひとつめの答えは”是”である。魔王を人族の力だけで倒すことは可能だ。そのために”神の加護”が与えられているのだからな。

 だが、二つめの問いに対する答えを我は持たない。我に人の考えなど分かるはずもないからだ。

 それはむしろ、お前自身が同胞に対し問うてみるべき問題ではないのか?』

 一刀両断といった感じだ。ソフィアは無言のまま固まってしまう。

 まあ、言ってることは確かにその通りなんだが……容赦無いな、ドラゴンさん。

 とは言え、彼女をそのままにしておくわけにもいかない。精神的にかなりダメージを受けているはずだ。ここは何とかフォローしてやらないと。

「ソフィア、皇国だって悪意でやってるとは限らないだろ?

 一度は邪神とやらに世界を滅ぼされかけたんだ。未だにその恐怖が残っていて、その必要はないと分かっていてもそれでも勇者に頼ってしまうのかもしれない。

 いろいろ思うところはあるだろうけど、今はまだ何ひとつはっきりしたことは分かってないんだ。この件について君がどう判断するかは、理由を確認してからでも遅くはないんじゃないか。」

 勿論、俺の中では既に皇国は”黒”である。疑い様も無く真っ黒だ。

 だが、それをソフィアに言うことは出来なかった。そんなことをしたら彼女の心は壊れてしまうかもしれない。なので今は心にもない台詞であろうと、彼女を慰めるための言葉を掛ける必要があった。

「クウヤ……。」

 ソフィアはぎゅっと俺の腕をつかみながら見つめ返して来る。その目にはまだうっすらと涙が浮かんではいたが、顔色は少しマシになったようだ。

 その表情を見て俺はドキリとする。そんな状況じゃないことくらい良く分かってはいるが、だって可愛いいんだから仕方ないだろう。

「そうだね、空也の言う通り先ずはいろいろ確認する必要があるだろうね。」

 ソフィアが落ち着くのを見計らって海斗は口を開いた。

「ところで……ドラゴン、さん?」

『ヴィーと呼んでくれて構わない。』

「ヴィー?」

『名前が無くては不便だからとジルベールが付けてくれた。何でも生まれ故郷での我等の呼び方らしい。』

 そう言えば、ドラゴンの別の呼び方に”ヴイーヴル”というのがあった気がする。あれはフランス語だったのか。で、それを略したのが”ヴィー”ってわけだな。

「わかったよ。それでヴィー、ジルベールは何しにここへ来たのか知らないかな?もしかすると君に会いにきたのかい?」

『ジルベールも我がここを棲みかとしていることには気づいていたようだ。時折、この上の穴から飛び立つのを見たと言っておったからな。

 だが、あやつの目的は私ではない。少なくとも最初は違ったはずだ。何せ我が人と話せるなど知らなかったようだしな。』

 ヴィーとは会話が出来るのだと知った時、ジルベールも俺達同様に度肝を抜かれただろう。しかも6000年以上も生き続ける知識の宝庫のような存在だ。ジルベールが足しげくここに通ったことは容易に想像がつく。

 しかし、それもヴィーと出会った後に知ったことのはずだ。最初は別の目的を持ってここに来た、そう考えるのが妥当だろう。

『あやつはここに”答え”を遺したいと言っておった。後の世の勇者に遺す”答え”をな。』

「それはどこに?」

『あそこだ。』

 ヴィーが後方へと首を巡らせて差し指したその先には、俺達が入って来たような細い洞窟がもうひとつあった。

「あの中に、ですか?」

『お前達が入って来た道とは異なり、あれはジルベールが自ら掘ったものだ。その先はすぐ広い部屋になっているのだと、そう言っておった。』

 おそらくその部屋にジルベールの遺した”答え”が眠っているのだろう。

 俺はすぐにでもその部屋を訪れてみたかった。……しかし、そういうわけにもいかない。

「ヴィー、あんたはそのジルベールの遺産を護り続けてきたんだよな。勇者にそれを引き渡すために。」

『ジルベールとの約束だからな。』

「それで……ジルベールはその後どうしたんだ?」

 俺の問い掛けにヴィーが応えるまで少しの間が空いた。その時、彼は何を想っていたのだろう。ジルベールとの思い出か?それとも、約束を果たせることへの達成感だろうか?

『ある日、ジルベールは我に別れを告げるとあの部屋に閉じこもってしまった。そしてそれ以降、二度と部屋から出てくることはなかった。』

 やっぱりか。薄々そんな気はしてた。

「海斗、その部屋にはお前ひとりで行ってこい。俺達はここで待ってるから。」

 ジルベールは勇者に宛てて”答え”を遺した。そして、ヴィーがそれを500年もの間護り続けてきたのだ。

 となれば、勇者である海斗だけがそれを見る資格を持つということになる。俺やソフィアまで首を突っ込んでしまったら彼等の意思を踏みにじることになってしまうだろう。

「分かった。とりあえず部屋の状況を確認したらすぐ戻って来るから、ちょっと待っててよ。」

 海斗も同じ想いだったのだろう。特に理由を聞こうともせず、それだけ言ってもうひとつの洞窟へと向かい駆けて行った。

『お前は行かずともよいのか?』

 その場に残った俺とソフィアに向けて……いや、俺に向けてか?ヴィーがそんな事を聞いてきた。

「ああ、俺は勇者じゃないからな。そんな人間が部屋に入ればジルベールとの約束を破ることになるだろ?」

 行けるはずはない。俺はジルベールと、そしてヴィーの想いを尊重してここに残ったのだから。

 だが、そんな俺に対しヴィーは不思議そうな声でこう言ったのだった。

『何を言っている?お前も十分勇者としての資質を持っているではないか。』

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