23 ドラゴンさん登場
「おや?滝があるね。これは中々に怪しげな場所だ。」
小屋から川沿いにしばらく流れを遡ると、見上げるほどの断崖絶壁に辿り着いた。そこからは一筋の水が流れ落ち滝と化している。
水量自体はそれほど多いわけではないのだが、高度があるせいか下の辺りでは凄まじい水煙が立ち辺りを覆っていた。
「こんな滝の裏側には秘密の洞窟がある、というのが定番だからね、」
「そうなんですか?」
海斗の言葉にソフィアは小首を傾げる。
まあ”定番”と言っても元の世界の、しかも物語の中での話だ。それを知らない彼女が不思議に思うのも当然だろう。
「おっ、やっぱりあったよ。」
海斗は滝の裏側へと続く細い道を見つけその先に入り口を発見した。いかにもという感じの洞窟だ。
「どうやら魔力探知を妨害する結界が張られているみたいだ。ここに何かあるのは間違いなさそうだね。」
何故か嬉しそうにそう言いながら、海斗はさっさと洞窟に入って行く。
「大丈夫なんだろうな?」
高さはせいぜい大人2人分と言った程度なのでドラゴンが潜んでいる可能性は無いだろうが、それでも何が出てくるか分からない。一般人の俺にとっては結構勇気が要る。
「大丈夫よ。私が最後尾を歩くから、クウヤはカイトさんの後をついて行って。」
少し怖気付いた俺にソフィアがそう声を掛けてくれた。ありがとう、ソフィア。勇者と『魔導王』に前後を護ってもらえるのならこれほど心強いものはないよ。
海斗はと言えば、そんな俺の気も知らずにどんどん前に進んで行った。”暗視”の魔法が使えるので暗闇の中でも平気で歩いて行く。
俺にはそんな魔法は使えないので、ランプのような魔道具で足元を照らしながら必死に付いて行くのがやっとだった。
そのせいで前方への注意がおろそかになってしまい、急に立ち止まった海斗と危うくぶつかりそうになる。
「危ないなぁ、急に立ち止まるなよ。」
だが、そんな俺の抗議も海斗の耳には届いていないようだった。じっと前方を見つめたままだ。
「明かりが見える……。」
そう言われて目を凝らしてみると、なるほどかなり先の方に小さな白い点が見える。あそこが出口なのだろう。
そこから海斗はさらにスピードを上げる。俺への配慮など微塵もするつもりがないらしい。
やっとのことで追いついたのは、既に洞窟を抜け出てからだった。……いや、抜け出てはいないか。
そこはかなりの広さを持つホールのような場所で、四方を岩壁に囲まれているので洞窟の外というわけではないようだ。
天井を見上げると大きな穴がぽっかりと口を開けている。そこから入って来る光がこの場所を照らしているのだった。まるで南米のギアナ高地にある巨大穴みたいだ。
と俺がそんな辺りの風景に目を奪われている間も海斗は前方の一点をじっと見つめたままだった。
それに気付き反対側の壁付近に目をやって……俺は腰を抜かしかけた。そこにはドラゴンが横たわっていたのだ。
「おい、アレって……。」
「うん、ドラゴンだね。見るのは初めてだよ。スゴいなぁ。」
だから何で嬉しそうなんだ?相手はドラゴン、地上最強と呼ばれる生き物なんだぞ?
とツッコミを入れたい所ではあるが、コイツの場合更にその上をゆく最強生物なのだから、まあそういう反応にもなるか。
「こちらに気付いたようです。」
ソフィアにそう警告されるまでもなく、俺にもドラゴンが目を開きこちらを見ているのが分かった。
やがてドラゴンはゆっくりと身を起こし俺達と対峙する形になった。
近くで見るとその巨大さに驚かされる。周りの壁と似た黒に近い灰色をしたその体は15,6メートルくらいありそうだ。尾も入れるともっとあるか。
その威容は圧倒的な存在感を放っていた。
さてどうしたものか、と俺は考える。追い払うか?それとも闘って倒すか?そこが悩みどころだ。
尤も、どちらにしてもそれをするのは俺じゃないんだけど。
とまあそんな感じで俺はすっかりドラゴンを敵として認識していたのだが、そこでまさかの展開となる。
『なるほど、お前達も勇者なのか。どうにも勇者とは縁があるようだな。』
ドラゴンが喋った?嘘だろ?
確かにドラゴンは知能が高く人語も理解するとは言われている。しかし、まさか普通に会話が出来るとは夢にも思っていなかった。
「驚きました。人の言葉が話せるのですね?」
そう言って海斗は目をキラキラさせた。実のところ立ち位置の関係で直接見てはいないのだが、まず間違いあるまい。
『実際に話しているわけではなく、我の放った思念をお前達が”言葉”として認識しているだけなのだがな。
まあ、会話が出来るという意味ならそれで間違い無いのだろうが。』
放った思念?テレパシーみたいなもんか?
”伝心”の魔法とは明らかに違う。あれはあくまでもイメージの交換に過ぎないが、このドラゴンは明確な”言葉”を俺達に伝えてくるのだ。
さすがはドラゴン。存在も能力もまさにファンタジー。
何にせよ、とりあえず敵対する意思は無いようだ。まずはひと安心である。
「ところで先ほど”お前達も”とおっしゃいましたが、貴方は他にも勇者をご存じなのですか?」
『そのような畏まった物言いは不要だ。我に人族を見下すつもりなどない。ましてや、勇者であれば尚のことな。』
ドラゴンというのは気位が高いものと勝手に思い込んでいたが、中々物わかりが良いヤツじゃないか。尤も、勇者である海斗が一緒にいればこそなのだろうけれど。
『お前の問いには「そうだ」と答えよう。我は過去に2人の勇者と出会っておる。』
「2人?ジルベール以外の勇者にも?」
これはまた驚きの新事実というやつだ。
場所からしてジルベールと面識があるのは容易に想像が付く。だが、もうひとりだって?いつ?誰と?
『我が出会った勇者はそのジルベールともうひとり、”最初の勇者”だ。』
”最初の勇者”だと!?
一番最初に勇者召喚が行われたのは今から6000年以上も前と言う話だ。という事は、その頃から生き続けていたわけか?このドラゴンは?
物語におけるドラゴンの寿命はまちまちで中には数万年生きる話もある。だが、あれはあくまでも話の中のこと。それがまさか本当にいるとは……。
それだけでも十分驚きだったが、その”最初の勇者”の話にはもっと驚かされることになる。
『我は、いや我等一族は”最初の勇者”と共に戦ったのだ。』
何とこのドラゴンは元祖勇者パーティーのメンバーだったのだ。事もあろうにドラゴンまでパーティーに入れてしまうとは……凄いな、”最初の勇者”。
それじゃあ魔王なんか瞬殺だったろうに。と、そう思ったのだがよく聞いて見ると少し話が違うようだ。
『かつてこの世界は邪神により滅亡の危機に追い込まれた。
我等を含め、人族・セルア族が力を合わせ戦ったが、彼の邪神はあまりにも強大過ぎた。
もはやこれまでかと諦めかけた時、神の御業により勇者がこの世界に召喚されて来たのだ。
そして我等は勇者の助けを借りて邪神を退け世界を護ったというわけだ。』
ん?ドラゴンと人族とセルア族?勇者パーティーではなく?それに……。
「邪神、ですか?魔王ではなく?」
『魔王?ああ、あの魔物の王とか呼ばれておる者か。』
そう言い放ったドラゴンの声はどこか嘲笑しているかのようにも聞こえた。
『あんな小物風情、人族だけで十分倒せる相手よ。わざわざ勇者の手を煩わせるまでもないわ。』




