16 ちょっとお尋ねします
「そちらの殿方お2人は明らかに異質な魂を持っておられる。
おそらくは勇者召喚によってこの世界に呼び出された異世界人と言ったところでしょうか。」
あっさりと正体を暴かれてしまい、俺達は思わず身構えた。セルア族が勇者を異端視している可能性もあるからだ。
用心はしていたものの、まさかこうも簡単に見抜かれてしまうとは。しかし、魂を見てその違いが分かるなんていくらなんでも反則すぎる。
「そう警戒なさらずともよろしい。
我等が勇者の召喚を快く思っておらぬのは確かだが、それにより呼び出された方々に対しては何のわだかまりも持ってはおりません。
むしろ、こちらの世界の都合で無理に連れて来てしまったことを申し訳なく思っております。」
そう言って里長のテヒリオは深く頭を下げた。
それを見た俺達は警戒を解く。と言っても完全に気を許すわけにはいかなかったが。
「あなた方が私達を呼び出したわけではないのですから、そのような謝罪は不要です。どうか顔をお上げ下さい。」
穏やかな口調で海斗がそう応えた。
俺達の召喚はセリオニア皇国がやらかしたことだ。いくら同じ世界に住んでいるからと言って、それをセルア族に謝罪させるつもりなどない。俺達にもそれくらいの分別はある。
「そういって頂ければ気も楽になるというものです。」
テヒリオはほっと安堵の表情を浮かべる。それなりに罪悪感を感じていたのだろう。
だが、何故無関係なセルア族がそこまで気に病むのか?
俺達はその点を不思議に思うべきだったのだが、生憎とその時はセルア族が友好的であることで気が緩んだせいかそこまで頭が回らなかった。
そこでその話はいったん終了となった。晩餐の用意が出来たと告げられたからだ。
案内されて別の部屋へ行くと、そこには給仕とは別の2人の男女が俺達を待ち受けていた。何でも里長の補佐役らしい。
どうやらテヒリオは補佐役の2人にも俺達が異世界人であることを話したようだ。で、例によって謝罪の言葉を述べようとする2人を俺達は慌てて止めるはめになった。
どんだけ気にしいなんだと俺はちょっと苦笑いする。
俺達が席に着くと同時に大量の料理が運ばれてくる。食器など外見は質素だが、料理自体はかなり手の込んだ豪華なものだった。
おそらく食事についても人間の世界よりその文化は進んでいるのだろう。食べてみるとその違いが良く分かる。格段に上手い。
当然のように酒も出る。ワインのような果実酒だった。
日本ではまだギリギリ飲酒は不可の年齢だが、ここは異世界である。十分大人とみなされる年なので遠慮なくいただくことにした。
「それにしても、いつから私たちが異世界人だと気がついていらしたのですか?」
一通り料理についての話題が終わった頃、海斗はテヒリオにそう問い掛けた。そして、それに対する答えは「森に入る前から」だった。
まあ、これはある程度分かっていたことではある。だからこの施設がある場所へ招き入れたのだろう。
「正直なところ、セルア族がこのように進んだ文明を持っているとは知りませんでした。何しろ今まで読んだ本の中では一切触れられていませんでしたので。」
「それはそうでしょうな。人族には悟られぬよう気を配っております故。
おおよそ気が付かれているかと思いますが、出入りの商人達を含め通常人族がここへ入ることはありません。
人族を迎える際には別の場所へと向かうよう森の道を変えるのです。そこは人族の集落を模した場所で、この里の秘密は漏れぬようになっておるのです。」
人族はまだ未熟な種族だとテヒリオは言う。人間同士で争い、殺し合うことが当たり前のように行われる精神的に未発達な種族だと。
「そのような者達がより進んだ技術を手にしたらどうなりますかな?
そうなれば争いはより激化し凄惨な結果しか持たらしません。
ですから、今はまだ我等の秘密を明かすわけいにはいかないのです。せめてもう少し成熟するまでは。」
「なるほど、そう言うことなのですか。
しかし、もしそうであるならば何故私達には秘密を明かして下さったのですか?
私達から秘密が漏れる可能性だってありますよ?」
「秘密を守っていただけるかどうかはあなた方を信用するしかありません。
ですが、そもそも勇者はここより遥かに進んだ文明を持つ世界から召喚されると伝えられております。
なれば種族としても成熟されておりますでしょうし、第一この程度の技術では驚くに値するものでもありますまい。
今さら隠し立てする必要も無い、それが理由です。」
何とも耳の痛い話だった。確かに俺達が元いた世界にはここより進んだ技術が山ほどある。だが、種族といて成熟しているかと言われると胸を張ってそうだとも言いづらい。
ん?ちょっと待てよ。
なるほど、俺や海斗を基準とすれば元いた世界はここよりも進んだ文明を持っていることになるだろう。
だが、勇者召喚は数千年前から続けられているはずだ。もし2000年、いや1000年前でもいい、そのころの地球がこのセルア族の文明より”遥かに”進んでいたと言えるだろうか?
歴史書を見るにこの世界の発展速度は元の世界よりもかなり遅い。魔物の被害とか魔法があるせいで科学が重要視されていないとか理由はいろいろあるのだろうが、とにかく1000年前と比べても決して大きくは変わっていないような感じだ。
セルア族の文明にしても、おそらくそうだろう。そう考えると、元の世界の方がむしろ未開だった時期もあるのではないか?里長テヒリオよ、誰からそんな話を聞いたんだ?
そんな疑問が沸き上がってきたのだが……結局、俺がそれを口にすることはなかった。
「わかりました。この里のことは決して口外しないとお約束します。」
「その言葉を信用させていただくとしましょう。」
と、俺を置き去りにしてその話題は終わり、別の話題に移ってしまったからだ。
まあ、いいさ。俺の考え過ぎかもしれないし、単なる言い伝えについて細かく突っ込まれてでも困るだろう。それに、それよりもっと聞きたいことがある。
……別に負け惜しみで言ってるわけじゃないので、そこは誤解のないように。他に聞きたいことがあるのは本当なのだ。
そこはどうやら海斗も同じのようだ。ふと目が合い、どちらからともなく静かに頷き合う。
「ところで、ひとつお伺いしたいことがあるのですが。」
そう切り出したのは海斗だった。
「旅の途中、オルダニオという国に”勇者の森”と呼ばれる場所がありました。」
勇者の亡霊が出た森だ。出来るものなら彼を成仏させてやりたいと思ってはいるが、今はその方法が聞きたいわけではない。
「ここファンデール王国にも同じような勇者にまつわる場所というのはありませんか?
もしあるのであれば、是非訪れてみたいと思っているのですが。」
ソフィアには内緒にしているが、俺と海斗は古の勇者の足跡を追ってここファンデール王国へとやって来たのだ。元の世界に戻る手掛かりを求めて。
長命のセルア族であれば過去の出来事も何か知っているかもしれない、そう考えたのだがどうやらそれは正しかったようである。
「そう言ことであれば、王都の北に”守護者の谷”と呼ばれる場所がございますな。」




