15 ビックリ、そしてドッキリ
「残念ながらこの里に宿屋はありませんでの、ゲストハウスをお使い下さい。客人としてお迎えさせていただきます。」
人間と距離を置いて暮らす長命族セルア。なので俺達が彼等から歓迎されることはないだろうと、そう考えていた。
だが、実際には諸手を挙げて迎え入れられた。なんか、随分と話が違うな。
「それは助かります。実は夜通しかけて町に戻るつもりでいたのですが、泊めていただけるのであればその苦労をせずに済みます。」
「それはなによりです。それではこちらへ……。」
海斗の言葉に相変わらずの笑顔で答えた青年だったが、歩き出そうとしかけて突然足を止めた。
「これは失礼しました。名乗りがまだでしたね。私はスーハ・ダ・オルタンフ、スーハとお呼びください。」
セルア族の名称ルールで言うと、スーハが彼の名前でオルタンフが一族の名前だ。そして間の”ダ”は確かオルタンフが母方の一族であることを示すはずだ。
セルア族には婚姻の制度が無い。300年も生きていればパートナーが変わる事も決して珍しいことではないため、結婚という行為自体を無駄と考えているらしいのだ。
で、産まれた子供は両親のどちらかが引き取ることになるわけだが、それが母親であれば”ダ”、父親であれば……”ズ”だったか”ゼ”だったかになるはずだ。
この辺りのことは皇国にいた頃、よく書庫で調べていたので結構詳しい。何せエルフを連想させるような種族なのだ。興味を魅かれるのも当然と言えよう。
尤も、セルア族が勇者召喚に否定的だということは知らなかった。多分、皇国にとってあまり都合の良い話ではないので資料が隠されていたのだと思う。
俺達もスーハに対し、それぞれ自分の名を名乗った。勿論、”カイト・ヒユガ”の方をである。
その後、俺達はスーハに連れられて彼等の居住施設へと入った。
実際に足を踏み入れてみると、その凄さが良く分かる。
回廊を照らす明りはランプの炎ではなかった。光に揺らめきが無いし、何よりずっと明るい。
電気……ということはないだろうから、おそらく魔力を使用した魔道具だ。
それが壁一面に灯っている。
階段かと思っていたものの中には段差の無いスロープ状なっているものもあった。
よく見るとロープが張られていて、地上部分にはそれを巻き上げる道具のようなものまである。リフトとして使用するのだろう。
ここは本当に俺達が召喚されてきたのと同じ世界にある場所なのか?
陽も落ちたせいかあまり人影は無いようだが、それでも何人かセルア族の姿を見かけた。
スーハの時も思ったが見た目は全く人間と変わらない。背丈も肌の色も。当然、耳も尖ってなどいなかった。んー、ちょっと残念かな。
ただ1点、無理に違いを探そうとすればそれは髪の色だろうか。彼等の髪は雪のように白かった。
白髪とかそんな感じではない。それは絹糸のように美しい白さだった。
階層をいくつか降りた後、回廊を周って俺達はひとつの部屋(家?)へと案内される。
「こちらをお使いください。」
そう言ってスーハが扉を開けると自然に明りが灯る。なんかスゴイ。
部屋に入るとそこはかなり広めのリビングになっていた。
スーハの説明によると他にベッドルームが4つ、あとシャワー、トイレ付きとのこと。
もうなんなんだろうな。えっ?俺もう日本に帰って来たの?って感じだ。ソフィアなんか驚きですっかり固まってしまっている。
もう十分驚かされたにもかかわらず、一通り説明を終えたスーハは部屋を出る前に最後の隠し玉を披露してくれた。
「お食事についてですけれど、里の長があなた方を晩餐にご招待したいとのことです。後ほど迎えに参りますので、それまでしばしお待ちください。」
そう言ってスーハは戻って行く。
残された俺達はと言えば、その場で固まったままだった。もう、何から整理していいのか良く分からないというのが本音だ。
「これは……何から何まで驚かされっぱなしだね。」
さすがの海斗も戸惑いを隠せない様子だった。
「驚きの連続だったので、なんだか凄く疲れました……。」
そう言うとソフィアはテーブルに突っ伏してしまう。
俺も2人と同じ気持ちだった。だが驚きとは別に、どうにも腑に落ちない点があるのも確かだ。
「……なあ、里に出入りしているミューレンの商人達も、当然ここのことを知ってるはずだよな。」
俺はリビングの窓から覗く外の景色を見つめながら呟くように言った。
「それはそうだろうね。これだけの施設だ。嫌でも目に入るだろう。」
極めて当たり前の答えを返したはずの海斗だったが、そう言った後で少し首を傾げる。
「でも、だとしたら何故この里のことが話題にならないんだろう?
これほど珍しい物や技術が溢れ返っているんだ。普通ならあっという間に噂が広がるはずだよね。」
俺が気になっているのも正にその点だった。
セルア族がここまで進んだ文明を築いているにもかかわらず、その話が一切表に出てこない。
完全に外界からシャットアウトされているならともかく、実際には交易商人が出入りしている。なのに噂にすらならないのはどう考えてもおかしい。
「商人や護衛のハンターに口止めしてるのでは?」
「その可能性も無いとは言わないが、それだけで完全に隠し通せると思うか?
中には口の軽いヤツだっているだろうし。」
「それもそうね、口約束だけで秘密が守られるくらいなら誰も苦労しないわよね。
でも、だとしたら噂にならない理由は?あなたは何だと思うの、クウヤ?」
少しだけ肩をすくめながらソフィアは俺を見る。
「多分、商人たちは見ていないんじゃないかな。ここを。」
「……幻術か。」
さすがは海斗だ。俺の考えを即座に見抜きやがる。
「ああ、おそらく幻術で隠したか、あるいは商人達を招き入れる場所が他にあるのかもな。普通の集落を装った作りの場所が。」
「なる程、そうすれば里の本当の姿を見られずに済むわけか。それなら噂が立たない理由も説明出来るね。」
俺の言葉に海斗は納得するように頷く。まあ、噂になるのを防ぐにはその方法が一番だろう。
だが、この説には大きな穴があった。そして、ソフィアがそれを指摘する。
「仮にそうだとして、じゃあ何故私達には見せたの?」
「それは……分からん。」
俺はエスパーではないのだ。彼等が何を考えているのかまで分かるはずもない。
「ただ、状況を説明するにはそう考えるのが一番しっくりくるってだけだよ。その理由までは分からないけどさ。」
まあ、その”理由”ってヤツが問題なんだけどな。
彼等に何かの意図があるのは間違いない。でなければ、単なる使い走りでしかない俺達を長自らが晩餐に招待などするなど有り得ないだろう。
これは少し用心しておいたほうがいいのかもしれない。
そう考えて目配せすると、どうやら海斗も同じ考えだったらしく無言で頷き返してきた。
そうこうしている内にスーハが迎えに来る。
俺達は彼に連れられて一番下の階層へと向かった。そこは指導者層の済む階層らしく、長の家もそこにあった。
「ようこそおいで下さった、お客人方。儂がこの里の長で、テヒリオ・ゼ・スルカンウと申す。」
さすがに長ともなると青年ではなく、立派な(?)ご老人の姿をしている。スーハの話では400歳を超えているらしい。
俺達もそれぞれ挨拶を交わし、晩餐が始まるまでの間しばしご歓談ということになった。
まあ、俺なんかは礼儀というものに疎い人間なので、会話のほとんどは海斗に任せっきりだったが。
しばらくは当たり障りの無い内容の会話が続いていたのだが、(失礼ながら)そろそろそれにも飽きてきた頃、テヒリオは唐突にとんでもない質問を投げかけて来たのだった。
「失礼は承知でお尋ねする。あなた方はこの世界の人間ではないとお見受けするが違いますかな?」




