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12 ハンター始めました

「ただの国境の町なのに随分と栄えてるんだな。さすがは東方随一の大国と言ったところか。」

 俺達が到着したのはファンデール王国国境近くの町、ミューレン。かなり大きな町だ。

 確かに国境近くの町は貿易の拠点として栄えることが多い。

 しかし、ここミューレンはそんなありきたりな常識で測れる程度の町ではなかった。

 ここまでの道中いくつかの国を経由してきたが、その中には王都ですらこの町に及ばない国もあるのだ。

 さすがは経済力でならセリオニア皇国すら上回ると言われる東方の雄、ファンデール王国である。

 近隣諸国を通過する際にも感じたがその街並みは西方とは大きく異なっており、ファンデール王国に入ってそれを改めて実感した。

 何というか、セリオニア皇国を含む西方はヨーロッパを感じさせる街並みだったが、こちらはイスラム文化圏にも似た雰囲気を漂わせている。

 まあ、日本から出た事の無い俺にはどちらもテレビや映画で見た程度の知識しか無く、あくまでもイメージとしてなのだが。

「何かこう……不思議な町ですね。大きな町で人も多いのに、広々した感じがします。」

 中途半端ではあっても”異文化”とういうものがあることを知る俺達とは違い、ソフィアはセリオニア皇国しか知らない。

 なのでミューレンの街並みには少なからず驚きを感じているようだった。

「多分、建物が低いせいだろう。それで広く感じるんじゃないかな。」

「なるほど、そう言われればそうですね。」

 海斗の言う通りセリオニアの大都市は割と高層の建物が密集しているのだがこの町はそうではない。高くとも3階建て程度で、それが解放感を感じさせるのだろう。

 人口密度の違いと言うのもあるかもしれないが、それ以前に市街区の設計思想が異なっているのだと思う。

 後は建築物そのもの。

 セリオニアの建物は石造りが多く、全体的に色が暗い。だがこちらはレンガが基本なのか、割と明るい色が多かった。

 そんな街並みを珍しそうに眺めながら俺達は歩いた。傍から見れば単なるお上りさんである。まあ、あながち間違いでもないのだが。

 スリや物取りからすれば絶好のカモに見えたはずだが、幸運にも手を出して来る者はいなかった。勿論、”幸運”というのは俺達ではなくヤツ等にとってであることは言うまでもあるまい。

「まず先に宿を取って、それからハンター登録をしに行くとするか。」

 先々代勇者の足取りを辿るため、この国にはしばらく滞在することになる。

 今のところ衣食住に不自由しないだけの資金は持っているとは言え、この先どうなるか分からない。そう考えれば金を稼ぐための算段もしておく必要があり、そのためのハンター登録だ。

 尤も、そんな心配をしているのは小市民の俺だけである。

 勇者様と『魔導王』様は単純に魔物の討伐そのものを目的としていた。人々のため、そして自分自身の能力向上のために。なので、資金稼ぎは二の次でしかなかった。

 とは言え、別にそれが不満という訳でもない。ある意味、それが2人の存在意義なのだから。俺は俺に出来る役割を果たすだけだ。

 宿を取った後、俺達は早速ハンター組合へと向かった。

 町には俺達が入って来た西門と王都方面へとつながる東門とがあり、組合は東門の近くにあった。3階建ての中々立派な建物である。

 正面の入り口から入ると、そこな小綺麗なホールになっていた。荒っぽそうな人影も全く無い。まあ、来客用玄関なのだから当然か。

 受付でハンター登録の意向を伝えると別の部屋に案内される。そしてこちらは広さこそあるが簡素で少し淀んだ空気の流れる、いかにもと言った感じの部屋だった。

 仕事を終えて来た連中なのか、結構な人数がそこにはいた。老若男女様々な人間がいたが皆ひと癖もふた癖もありそうな連中だ。

 俺達が部屋に入ると彼等の視線が一斉に注がれる。

 だが「お前らみたいな子供が何しに来た?」などと言う、ある種お決まりの展開などは無い。

 この世界、10代後半にもなれば既に立派な成人なのだ。俺達を子供扱いする者などいはしない。

 なので、単純に見慣れぬ顔に対し興味を持っただけのようである。

「すみません、ハンターの登録をしたいんですが。」

 部屋にも受付のカウンターがあり、その中にいた男性職員に俺は声を掛けた。

 別に女性に話しかけるのが恥ずかしかったわけじゃない。受付のほとんどが男性で、しかも彼しか空いていなかっただけだ。

 こういうのは女性が定番だと思っていたのだが、どうもゲームやアニメの世界とは違うらしい。正直、ちょっと残念ではある。

「登録でしたら、まずこちらに必要事項を記入してください。

 文字は書けますか?

 書けなければ代筆も可能ですが。」

 この世界の識字率はそれほど高くない。義務教育というのもがあるわけではないので、文字を習う機会が無いのだ。

 親が教えられる家庭はまだましで、家族全員が読み書き出来ないことも珍しくはなかった。

 代筆はそのための救済措置なのだろう。

「大丈夫です。自分で書けますから。」

 俺はそう答えて3人分の記入用紙を受け取る。必要事項と言っても書き込むのは年齢・性別・ハンター名だけだった。

 ハンター名?名前じゃなくて?

「……あの、ハンター名というのは?」

「ああ、そこは自由に書いてもらって構いません。

 ハンターの中には自分を売り込むために目立つ名前を付けたがる人も多いんですよ。

 特に気にしないのであれば自分の名前で結構です。」

 要するに芸名みたいなものか?

 その辺りは自己申告で大丈夫だと聞いてはいたが……思った以上にフリーダムだな。

 あと最後に、希望者限定ではあるが”死亡時の連絡先”というのがある。そこだけ妙にリアルだった。

 多くの連中は食っていくため、あるいは立身出世のためにその命を懸けているのだ。俺達のような生半可な気持ちでハンターをやっているのとは違う。

 それを思うと何とも言えない気持ちになってしまった。なんか、申し訳ない。

 俺達は別に目立ちたいわけではないので、普通に名前を書いて提出する。

 但し、この世界で”フジサワ”という苗字はかなり珍しく、身元を特定されてしまう可能性があるのでそこは”ヒユガ”と記入した。母親の旧姓”ひゅうが”をもじったものだ。あと、連絡先は当然空白である。

 その後ハンターの認識票が発行されるのだが少し時間が掛かるとのことで、その間を利用していろいろと説明を聞いた。

 まずはランク制度。

 ハンターはそれぞれ1級から3級までのランクに分別される。3級が一番下で2級1級と上がってゆくわけだ。

 どこぞの国家資格か?と言う感じではあるが、ミ〇リル・クラスとか〇ダマン〇イト・クラスとかに分けられるよりずっと判りやすいので、これはこれでアリだろう。

 新規登録の俺達は当然3級で、それは実績次第で上がってゆく。

 と言っても、地道に活動していれば上がると言うわけでもないようだ。雑魚をいくら倒そうが所詮は雑魚しか倒せない実力、という評価になるらしい。

 ランクを上げるにはそれ相応の強さを持った魔物を倒す必要があった。しかも、人数制限付きで。

 まあ、同じ魔物を倒すにしても1人で倒すのと10人掛かりで倒すのでは評価が違うのも当たり前か。

 次に依頼の受注。

 依頼書はおおよその難易度毎に別々の箱に入れられており、ハンターはそこから自分に合った依頼を選ぶようになっていた。字が読めなくても受付に持っていけば内容を教えてくれる。

 基本的にどの依頼でも自由に受けられるのだが、あまりにもハンター・ランクとかけ離れた難易度の場合は拒否される場合もあるらしい。当然と言えば当然である。

 その他いくつかの説明を聞いた後、いよいよハンターの認識票を受け取った。

 映画などでよく見る軍の認識票くらいの大きさで、そこにファンデール王国の紋章と自分の名前、それと星のようなマークがひとつ刻まれている。ランクが上がれば星の数が増えるのだそうだ。

 とりあえずこれでひと段落。後はゆっくりしようかと俺は考えたのだが、そう甘くはないのが海斗という人間である。

「これで僕達も晴れて魔物ハンターの仲間入りってわけだね。じゃあ、さっそく依頼を受けてみようか。」

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