閑話 弟子との出会い
気が向いたので閑話を投稿。これからも思いついたら投稿していく予定です。
俺がテルと出会ったのは、王都から西へ馬車で6日程揺られて着いた小さな村が近くにある深い森の中だった。
あの日、俺は宮廷が懇意にしている薬草の仕入れ先から「質の良い薬草が採れる森がある」と聞き採取しに来ていたのだ。
その森は、村の者から「知識の森」と言われており「古い神が住まう森である」「森には神子が知識と共に眠っている」、「神子の森を荒らした者は死ぬ」などといった噂が実しやかに語り継がれていた。そんな畏怖の念からか、森へ入ることは禁忌とされ、禁を犯した者には世にも恐ろしい災いが降りかかるとされているらしい。
どうせただの迷信だろうと思った俺は、村の者が止めるのも聞かず森を散策していたのだが、太陽が見えないほどに大きく笠を広げた木が生い茂る森を案内人もなしで入ったせいか、少し歩いただけで道に迷ってしまった。
一旦町へ戻ろうにも方向がわからず、「さてどうしようか……」と迷っている時に生き物の気配を感じ、近寄ってみたところで見つけたのが後に自分の弟子となる少年だった。
狩りで仕留めたのだろう綺麗に血抜きをされたうさぎを持って警戒する少年をなんとか説き伏せて道案内をしてもらえるようになった時は本当に助かったと思った。
彼の名前はテル・カイドーというらしく、俺たち魔導師とよく似た服装に烏の濡れ羽のような真っ黒い髪と黒曜石を思わせる瞳をした、少女のような容姿の不思議な少年だった。
テルと名乗ったその少年の案内で無事に目的のモノを見つけることができ、また他の薬草まで見つけることができたのは嬉しい誤算だ。
お礼をしなければと聞いたところテルから「魔法を教えてほしい」と言われたので、彼の私物に印を付けさせて貰った。
この世界に、いや少なくともこの国にピアスというものは存在しない。耳飾りと聞かれれば、10人中10人がイヤリングと答えるだろう中で、あのピアスというものには感銘を受けた。
体内を通っているため、どれだけ激しい運動をしても落ちることがないのだ。俺の思いに気づいたテルが使っていない物をくれた時は本当に嬉しかった。あまりの嬉しさで、魔法を寄与したあとはどんな時でも肌身離さず付けている自分に少々笑ってしまうが、それほどの代物だったのだからしかたないだろう。
その3日後、彼のもとへ行った時は自分の間の悪さを呪いたくなったな。
まさか、テルが獲物の血抜きをする瞬間に行ってしまい、尖った石でうさぎの首が切られた場面を見てしまうことになるとは思わなかった。
俺は別に血が苦手ということはないが、どうしても命が失われる瞬間の生き物の目には慣れない。彼は普通だったが、あれは慣れからくる冷静さなのだろう。
テルが気を使ってあの場から離れるよう行ってくれたのには正直感謝した。
俺が、情けなくも生き物の死に対して気持ちを立て直している間に、テルは後処理などを全て終えて戻ってきた。
魔法について、ハッキリ言ってテルは本当に初心者なのかと疑問に思うほど彼は飲み込みが早く、慣れるのも早かった。
初回から演唱無しで、一度の失敗もない。知識についても、森の奥で暮らしているわりには一般的なモノについては申し分ない。
俺なりの理論で今までの魔法を多少否定したとしても、彼は反発することなくそれどころか理科すらしていた。本来、人とは今まで信じてきた常識が否定された場合、戸惑いを見せるか盛大に反発するものだというのに、彼にはそれが一切見られなかったのだ。
最初は、お礼として頼まれたということで日常生活に便利な魔法をいくつか教えるだけにしようと思っていたのだが、俺の知識や技術を貪欲なまでに吸収していくテルを見ていて気が変わった。
こいつを本気で弟子にしようと思ったのだ。それからは時間があれば(無くても無理やり作って)テルのもとへ行き徹底的に基礎から叩き込んだ。
本来なら数年かけて行う課題を、僅か半年で終えてしまったテルに感動を覚えたのを今でも覚えている。というか、未だに継続して課題をこなし続ける彼に感動している。
昔の自分を見ているような気がして「もしかしたら……」という思いから、魔法宮の記録を漁り彼の適正について調べてみた。あの森に住んでいて、尚且つ今まで魔法を使ったことがなかったことから、ある程度は予想できていたが、やはりテルはまだ光と闇の魔法の検査を受けていないことがわかった。次の修行日に早速実施してみれば、結果はご覧の通り。
俺は「仲間が見つかった」という歓喜と、「弟子に自分と同じ思いを強いてしまうかもしれない」という恐怖が綯い交ぜになった思いにかられたが、すぐさま彼を如何にして守るかという考えに思考を移した。
(結果が出てしまったので王城へ行くのは決定だ。ならば、せめてできるだけ傍に置くようにすれば多少は守ってやることができるだろう)
可能性があるかもしれないと思いながら、検査をしてしまったことが悔やまれないこともないが、結果が出てしまったのなら仕方がない。一度結果が出てしまえば、その記録は自動的に魔法宮へ伝わる仕組みになっているので、隠すことはできないのだ。
テルに王都へ行く日を伝え、それまでにこちらでできることをする。
その日の修行を終え、家に帰ってからは彼が王都へ来ても困らないよう必要なものを買い揃えたりテルを手元へ置くための根回しなどに走り回った。
多少無理はしたものの、魔導師としての権限をフル活用してある程度の案件を思う通りにすることができた。が、住居を俺の家にできなかったのが悔やまれる。
宿舎でテルが嫌な思いをしないか心配になるが、しかし決まってしまったものを覆すのはなかなかに難しいことなので諦めるしかない。
「何かあった時はすぐさま動けるよう準備しておこう」と思いつつテルを迎えに行ったのだ。
その後、結界が張られた書庫に案内されたり、その書庫の中が王宮でも厳重保管される伝承や伝説レベルの古書や禁術書だらけであることに驚かされたりといろいろあったが、無事に彼を王都へ連れてこられたことに安堵のため息が出た。
テルを無事風呂に入れ、自分も寝室の浴室でシャワーを浴びつつ彼とのこれまでを思い返していると、それまでの退屈な日々が懐かしく感じてしまう。
彼が何かを隠しているのは知っているし、彼に関わる話をする時に嘘ではないが本当でもないだろうことを言っているのもわかっている。
今後、彼と関わることで起こるであろう騒動を想像して苦笑が漏れる。が、それを楽しみだとも自分は思っているようで、口元が上がっているのが自分でもわかる。
教えてくれないもとに少々の不満がないでもないが、彼からの信頼が日々大きくなっているのも目に見えてわかっているので今は好きにさせよう。
(しかし、もしもの場合は覚悟しておけ)
「俺の弟子になったんだ。そう易々と逃がしてもらえるなど思うなよ」
小さな呟きがシャワーの音でかき消される。
食堂で彼を迎えるため、俺は湯を止め事前に籠に入れておいたバスタオルへと手を伸ばした。
今更だけど、2章入ってすぐに閑話投稿ってどうなんだろう……、って思ったけど気にしない方向でいきたいと思います!




