第百十五話 執務室での一幕
プレミアム商品券を購入しました。プレミアム率が結構良いので慌てて必要じゃない大物買おうかな~とか思ってます、どうも疎陀です。こう、政府の思惑に見事乗ってやんよ! みたいな感じです。まあ、恐らく日用品を買うのでしょうが。
さて、百十五話です。今回はどちらかと言えば幕間に近い感じでしょうか? 楽しんで頂ければ幸いです。
「お姉様が動きました」
リズの執務室へと足を運び、目線を机の上の書類に固定したままのリズからかかった言葉に、ロッテは自身の持ってきた書類を持ったまましばし立ち止まって見せた。少しだけ悩むように視線を中空に飛ばした後、諦めた様に首を左右に振って口を開く。
「エリカ様が動いた、とは?」
「便宜上、お姉様が兼ねておられたファンデルフェンド子爵家への養子縁組です。ニーザにファンデルフェンド家を継がせ、子爵位を譲渡したいと」
そこまで喋り、リズは固定していた視線をロッテに向け――そして、過去のリズの記憶に無いほどに驚いた表情を見せるロッテに、こちらも少しだけ驚いた様な表情を浮かべた。
「――ロッテ?」
「……失礼。まさかエリカ様がその様な事を為されるとは……少しばかり、驚いてしまいました」
「……貴方でも驚くことがある、という事に私は驚いていますよ。貴方の事だから『予想通りですな』とでも言うかと思いましたが」
そんなリズの言葉に、嫌そうにロッテは顔を歪めて見せる。無論、これは余りにも低いリズの物真似のクオリティに対するモノではなく。
「私とて人間ですからな。予想外の事だってありますぞ、それは」
「そうでしょうか?」
「それこそ、松代殿の召喚の時だって驚いておりましたぞ?」
「その割には対処が冷静だったと思いますが?」
「松代殿召喚自体には驚きましたが……王国に与える影響自体は軽微なモノでしたからな。それに比べればエリカ様の爵位の譲渡の方が余程王国に与える影響は大きいです」
そう言ってロッテはしばし考え込むように腕を組み瞑目。その姿を見るとはなしに見つめながら、リズは言葉を継ぐ。
「お姉様から正式な申し出は頂いておりません」
「時間の問題でしょうな。エリカ様は頑固な所もおありですから」
「貴方の言う通りです、ロッテ。お姉様、一度決めたら梃子でも動かない所がありますから」
「そっくりですよ、リズ様。よく似たご姉妹だ」
「……えへへ」
「……褒めてませんが?」
「お姉様に似ていると言われるのは嬉しいモノなのですよ」
「そんなモノですか?」
「胸以外、ですが。話が逸れましたね。それで? ロッテ、想定され得る最悪のケースはなんでしょう?」
「各貴族の抵抗は必至でしょうな。パルセナを例に取るまでもなく、貴族筋は名誉を貴びますから」
「ニーザを迎え入れる事に対しては良い顔を致しませんか、やはり」
「ええ。『ニーザを貴族として認めるか、我々の独立を認めるか』という話になり兼ねません」
「……それが想定され得る『最悪』ですか?」
リズの言葉にロッテは黙って首を左右に振って見せる。
「違うのですか?」
「独立をするのは構いません。各貴族が自領を『国家』として成立させるというのであれば、勝手にさせておきましょう」
「……それは困るのではないですか?」
「困るでしょうな」
「困る様な事では――」
「独立した貴族がですが」
「――いけないでしょ……はい?」
「『他国』である以上、フレイム王国からの援助は今後一切行いません。フレイム硬貨についても同様、流通をストップさせます。今まで返済を猶予してきたフレイム王国からの貸付金も回収させて頂きます。返済できない場合、貴族の領地の有形・無形の資産を差し押さえもさせて頂きましょう。むしろ僥倖ですな。不良資産の回収がスムーズにいきますので」
「……」
「本来は貸している方が圧倒的に強いのですよ、『金』というのは」
「……踏み倒されたらどうするのですか? 無い袖は振れないでしょう?」
「会話が出来ないのであれば武力行使しかありますまい。先日の予算の絡みもありますし……恐らく、ラルキア方面軍やライム方面軍は鬼神の如き働きをして『役に立つ』事を見せてくれるでしょう。良い軍事演習にもなりますな」
何でもない様にそう言うと、ロッテは部屋の隅に備え付けのポットを手に取り、二つのティーカップに注ぐ。その内の一つをリズの目の前に置くと、もう一つのカップに口を付けた。
「フレイム貴族もそれ程のバカではありません。もう一度、パルセナの様な『奇跡』が生まれる等という妄想を抱いている訳もないでしょう。そもそもアレはグレース辺境伯の莫大な財力の裏打ちがあって初めて出来た偉業ですからな。今のフレイム貴族ではとても真似は出来ますまい」
「では……貴方の想定され得る最悪の場合はなんでしょうか?」
「フレイム王国に所属しながら、それでも反乱を起こされる場合です。武力なら独立と同様に鎮圧してしまえば宜しいですが……問題は正面切って叩ける程にボロを出さないサボタージュをされた場合ですな」
勘当した息子より、家で引き籠っている子供の方が厄介、という話である。
「その辺りの腹芸は得意ですしな、フレイム貴族は」
「……可能性は?」
「十分にあります。ですがまあ……その辺りは巧く説得して回れば宜しいでしょう」
「そうですね。お姉様も『よろしく頼む』と仰っておられましたし……カール辺りが適任でしょうか?」
「アレは近衛の騎士団長ですし、王家の連枝に当たる貴族ですからな。適任だと思いますぞ。そもそも、アレはファーバー殿の上司ですし、部下の不始末の責任を取って貰いましょうか」
「……貴方、カールに冷たいですよね?」
「仲が良い、と受け取っておいて下され」
何でもない様にそういうロッテに、リズが肩を竦めて溜息を一つ。その後、ゆるゆるとカップに唇を付けた。
「……リーゼロッテ様が何と仰るでしょうか」
「死者が何を想うか、私には分かりかねます。分かりかねますが……恐らく、リーゼロッテ殿の事ですからな。鼻で笑い飛ばすのではないでしょうか」
「……そうでしょうか?」
「憚りながら、私は陛下がお生まれになる前から見知っておりますので」
そう言うロッテに、少しだけリズの眉がピクリと上がる。言うか言わずか、少しだけ悩んだ後、リズはおずおずと口を開いた。
「……ロッテから見て、どんなお方でしたか?」
「リーゼロッテ殿の事ですか?」
「ええ。その……お母様も含めてなのですが……」
「……珍しいですな。陛下がその様な事を聞かれるとは」
先程よりも控えめに驚いて見せるロッテに、リズは言葉を継ぐ。
「……なんとなく、思ったのですよ。お姉様とお酒をご一緒して、リーゼロッテ様のお話をしていたら、なんとなく、本当になんとなくですが……お母様やお父様を思い出して、それで」
父王であるゲオルグの隣に座るアンジェリカ、その前に座るリーゼロッテ。アンジェリカの隣では髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でまわされ、セットが乱れてちょっとだけ泣きそうな顔をしたエリカが座っている。その間を、最高の笑顔を浮かべて紅茶を配膳して回るリズ。
「……本当に、幸せだったのでしょうか?」
リズの記憶にあるのはそんな『幸せな家族』の風景。だが、果たしてそれはリズだけが思い描いた風景なのではないか、と。
「……少しだけ不安になってしまいました」
揺れる、リズの瞳。そんな瞳を見つめて、ロッテは小さく溜息を吐いた。
「リーゼロッテ殿は賢い方でした。自身の気持ちを表現する方法は……失礼ながら、巧い方では無かったですので誤解されがちですが……だからと言って我慢だけをしておられた方ではありません。頑固、というと言い方が悪いでしょうが、少なくとも意思の強い方ではありましたから。ああ見えてリーゼロッテ殿もゲオルグ陛下に結構言いたい放題言っておられましたぞ?」
「……想像できないのですが。リーゼロッテ様が、ですか?」
「ええ。よく論破されておられましたよ、ゲオルグ陛下を。リーゼロッテ様がゲオルグ陛下を責めるときはアンジェリカ様も一緒になって責め立てられますので、ゲオルグ陛下は涙目でしたな」
「……え、えっと……」
「そもそも、ゲオルグ陛下はそれ程論が立つ方でもありませんでしたしな。加えて女性二人にあそこまで言われては……まあ、陛下では太刀打ちできますまい」
「……」
「ちなみにアンジェリカ様ですがまあ、あのお方は昔から何一つ変わっておられませんな。リズ様も御承知でしょう?」
「ロッテから見てどうでした? お母様は」
「どちらが良いですか?」
「どちら?」
「良い風に言うのと、悪い風に言うのです」
「……良い風で」
「アレックス帝の血を引く、オルケナ大陸の副王と呼んでも過言ではないラルキア王家の姫と言う高貴な血筋でありながら、それを鼻にかける事もなく庶民と触れ合い、語り合う尊い人間性を持たれた方です。『国』とは民があってこそです。民を大事にするアンジェリカ様は、王族として最も大事な資質を生まれながらに持っておられた方でしょう」
「ちなみに悪い風ですと……どうなります?」
「娘を産んだイイ年の王妃様が『どう、ロッテ? 私もまだまだイケるっしょ!』と足を露出した服装で王都内を『探検よ! た・ん・け・ん!』などと称してフラフラ遊びまわる放蕩王族です。言ってはなんですが、決して安くは無い衣装を毎回毎回ボロボロにして帰ってくるのは如何なモノかと思っておりました。あの方が遊び歩いたせいで、一度は街の酔客と殴り合いの喧嘩をして帰って来たことがありましたな。私も長く王府に仕えて来ましたが、初めてですぞ? 目の周りに青痣作りながら、それでも笑顔を浮かべて『イイの何発か貰ったけど……ちゃんと勝ったよ!』と親指をグッと上げた王族を見たのは」
「……あまり聞きたくなかったかも知れません、それは」
「リズ様が聞いたのですぞ?」
しかめっ面をして見せるリズを面白そうに見やってロッテは紅茶をもう一口、口に含む。
「ですが……憚りながらエリカ様やリズ様がこれ程真っ直ぐにご成長あそばされたのは、そんなお二人の御薫陶の賜物でしょう。リーゼロッテ様からは気品と意思の強さ、アンジェリカ様からは自由と民を慈しむ心を学ばれたと愚考しております」
「……」
「逆説的ではありますが、『仲の悪い家族』ではその様な事を学ぶ事は出来なかったでしょうな。ですのでリズ様? 貴方は確かに『愛されて』おられましたよ。無論、エリカ様もです」
「……そうですか」
「そうです」
「……」
「……」
「……ありがとうございます、ロッテ」
「お役に立てたなら何よりですな」
潤んだ瞳を見せない様、リズが少しだけ下を向く。その姿を見ない様、ロッテは視線を逸らして手元の書類に目を落とした。
「……大丈夫です」
そんな時間がしばし。やがて、リズの口から漏れた言葉にロッテが視線をあげる。そこには威厳を保った微笑を浮かべる女王陛下の姿があった。
「そうですか」
「ええ。重ねてお礼を。それで? 今日はどういった用向きですか? 貴方が事前に許可なく私の執務室に訪ねてくるのは珍しい気がするのですが」
「失礼いたしました。現状の報告と、情報の共有をと思いましてな。後は相談ですかな」
「現状の報告と情報の共有? 後、相談ってなんですか?」
「エリカ様からお話を伺っておりました、海上保険の話です。バウムガルデン商会とリッツ商業組合、九人委員会に席を持つこの二つの商会に海上保険の『ネーム』の引受を受諾させました。この二つについては、通貨発行権の王府への移譲についても同様に受諾しております」
「……仕事が早いですね、ロッテ。私だって昨日お姉様に聞いたばかりなのに」
「シオンの方から逐一報告をさせておりましたからな。個人的に良いアイデアだと思いましたので、ざっくりと説明だけしておきました。今日はその確認に行ったまでですよ」
「まあ、宜しいでしょう。良い話ですし」
「ありがとうございます。バウムガルデン商会につきましては……まあ、何も問題ありますまい。あそこの会長は私の甥です。あまり好きな方法ではありませんが……身内の強権を発動させて頂きました」
「……ロッテ。ほどほどになさい」
「そもそも、コインでの流通には限界を感じておりましたので。『きっかけ』だけですよ」
そこまで喋ってロッテは言葉を切り、リズに視線を向ける。向けられたリズはきょとんとした顔を浮かべた後、小さく首を傾げて見せた。
「なにか?」
「バウムガルデンはそれで良いのですが……問題はリッツ商業組合です」
「問題があるのですか?」
「バウムガルデンにしてもそうですが、リッツもコインでの商いに限界を感じております。ただ……リッツに関しては、ある程度『華』を持たせてやる必要があります」
「『華』、ですか?」
「通貨の発行に代わる彼のプライドを満たすモノ、ですな。そこでリズ様にご相談に伺った次第なのです」
一息。
「リッツ商業組合をこの『海上保険』を行う事業の……そうですな、名誉責任者にでも据えようかと思うのですが。加えて、王府が行う新たな貨幣制度の責任者への任命もです。如何でしょうか?」
「……理由は? 順を追って説明してください」
「通貨の発行権は強大な権力です。それを取り上げる以上、ある程度の見返りは必要と愚考します。リッツをその責任者にする事により、ある程度バランスを取ろうと考えております。ただ、これは言ってみれば通貨発行権に対する対価でしかありません」
「それが?」
「失うのと同等の利権では中々人は納得しないモノですので。王府による通貨発行の責任者に加え、フレイム王国がフレイム王国の威信に掛けて行う海上保険事業の名誉職への就任程度の『華』は必要かと」
「……なるほど」
そう言って、しばし悩むように顎に指を置くリズ。その後、顎に当てた指を外してリズは口を開いた。
「……理解は出来ました。ですが、なぜ? なぜリッツなのです?」
ロッテの話は理解は出来る。だが、『九人委員会だから』という理由であれば、リッツ商業組合でなくともよい。そう思い、問いかけるリズにロッテは紅茶のカップを傾けて。
「能無しだからです」
その手を止める。
「…………は?」
「リッツは名誉欲の強い人間です。通貨発行の責任者、海上保険の責任者の職を打診すれば二つ返事で飛びつくでしょう」
ですが、と。
「よく考えて下さい、リズ様。確かに通貨の発行や海上保険の責任者になれば、それは名誉な事でしょう。ですが……まあ、普通に考えて他の商会から見れば面白くない」
「言い方は悪いですが……裏切者、と?」
「そうです。例えばロート商会。確かにアントニオは技術者としては優秀ですが、経営者としての才能は今一つ。ですが、彼には独特の嗅覚がありますし、そもそもエンリケという実弟の大番頭もいます。アソコであればこの話を持って行っても受けないでしょうな。あまりにもリスクが高すぎて」
まあ、尤もそもそもアソコには今この話を受ける余裕はありませんがと付けくわえ、ロッテは言葉を継ぐ。
「同様にベッカー貿易商会も引き受ける事はしないでしょう。ビアンカはバランス感覚に優れた当主。きっと、この提案を否決します」
「……」
「バウムガルデンはそもそも名誉など持たせる必要もありませんので除外。ホテル・ラルキアに関してはホテル業一本でやって来た自負もありますので、こちらも受ける事をしないでしょう」
「だから、リッツなのですか?」
「今あげた以外の九人委員会に名を連ねる商会であれば受ける可能性はあります。が、他の商会は華だけではなく『実』まで持って行く可能性がありますからな。ですがリッツにソコまでの才覚はありませんので」
一刀両断、バッサリ切って捨てるロッテに少しだけあんぐりと口を開け、その自身の間抜けの姿に誤魔化すようにリズはコホンと咳払いを一つ。
「……有体に言えば御しやすいから、と?」
「名誉職など幾らでも与えてやれば宜しい。王府には優秀なスタッフが大勢いますので、通貨発行の実務にリッツが関わる事はない。判子でも押させる仕事をさせておけば宜しいでしょう」
「そんなに巧く行くのですか? 例えば……リッツが『決定権を出せ』と言ってきた場合はどうします?」
「バックに九人委員会が居れば処罰は難しいでしょうな。が、少なくとも私の知る限り九人委員会は裏切者に寛容ではありませんので。リッツ単独であればどうとでもなります」
自身達の通貨発行権という権益を『売り渡した』人間に寛容である組織ではないのだ、九人委員会は。
「最悪の場合はリッツを更迭してしまえば良い。誰も彼を助けてはくれんでしょうからな」
「……」
「幾らニーザにさせると言った所で、所詮はニーザもまだまだ小童です。我々の名前だけでは難しい所もあるでしょうし、そもそも一人で出来る仕事ではない。通貨の部署と同様にこちらも新設で部署を作る必要があるでしょう。海上保険に関してはニーザを次官、リッツを局長辺りに据えるのが妥当なラインでしょうな」
例えば何々協会であったり、何々組合などの組織で、会長職は外部の有識者を招く事はそれほど珍しい事ではない。実際の実務は専務理事以下の理事で回し、『箔付け』として会長を招くことは意外に多いのである。
「如何でしょうか?」
「悪い方法ではないでしょう。ただ、リッツの『手綱』だけはしっかりと握って下さい」
「承知しました。では、次回の会議で王府の方に諮ります。松代殿には私と陛下の連名で文書として正式に提出をさせて頂いて構いませんか?」
「ええ。お姉様やマツシロ様も否とは言わないでしょう。シオンについてはどうしますか? 今もニーザを手伝っていると聞いていますが?」
「……身内の自慢の様で感じが悪いのですが……学術院長より抗議が来ましてな」
「抗議?」
「『早くシオンを学術院に戻せ』と。ああ見えて、そこそこ優秀な様ですので」
苦虫を噛み潰した様なロッテの顔に、リズの表情が思わず綻んだ。
「まあ、私の先生ですからね、シオンは。優秀ですよ。貴方の評価が低いだけです」
「アリアで十分だと思いますがな。まあ、そういう訳でシオンを新設部署のスタッフに採用するのは難しいです。王府の中で人選を繰り回しましょう。条件面で難しいですが」
「難しいのですか?」
「新しい事業ですので優秀なだけでは駄目です。ある程度、柔軟な発想が出来る人間であり、加えてニーザと年が近いとなると中々難しいですな」
「年が関係あるのですか? 優秀な人材であれば問題ないでしょう?」
「年下の上司には中々頭を下げ難いのですよ、『王府』という組織に属する人間は。私もそれで苦労しましたからな」
「……仕事ですよ? その様な私情を挟んで欲しくはありませんが」
「人がするものですから、仕事とは。私情の排除など出来ませんし、やり易い方法が分かって、巧く行く方法が見えているのであれば敢えて奇をてらう人事を行う必要も、意義もありますまい。まあ、人選に関しては今度の会議で見繕う様に各部署に厳命しましょう」
そう言って、それではと頭を下げるロッテ。その背中を見送りなら、リズは思い出したかの様にロッテに声を掛けた。
「ああ、そう言えばロッテ?」
「はい?」
「その『海上保険』ですが……進捗はどの様な感じです? 貴方の下にシオンから報告が入っているのでしょう?」
そんなリズの言葉に、少しだけロッテは眉根を寄せ、歯切れ悪く口を開いた。
「……頑張っているらしいですよ」
「……『頑張っている』と褒める顔では無いようですが。悪い事ですか?」
「悪い、訳では無いのでしょうが……まあ、若さですかな?」
「奥歯に物が挟まった様な言い方ですね? 何ですか?」
「いえ……そうですな。ニーザは頑張っています。頑張って、頑張って、頑張って」
夜も寝ない程に、と。
「……は?」
「こう言ってはなんですが……幽鬼の様な表情ですな。頑張って貰うのは良いのですが……アイリスとの『仲直り』もして貰わなければいけません。あのカオでは、百年の恋も覚めますぞ?」
困ったようにロッテはリズにそう告げた。




