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調和の守護者 リリィ&コピ第四部  作者: マスター


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第106話 地面の下を走る水

第105話では、分水室を操作していた人物シオンが見つかりました。


彼は、葦鳴き谷の下に残る小さな集落を守るため、旧湿原方面へ向かう葦の門を開けていました。


しかし、水は湿地へ戻っていません。


地下の壊れた水道を通り、さらに深い空洞へ落ちている可能性が出てきます。


そして最後に、葦鳴き谷の地下深部で急な水位変動が起きました。


第106話では、谷下の集落を守るため、リリィたちが緊急対応に向かいます。

「下流側……そこ、俺たちの集落がある」


シオンの声が、風にかすれた。


葦鳴き谷の地面の下で、水が走っている。


見えない。


けれど、音は確かに聞こえる。


低く、重く、地面の奥を削るような水音。


コピの端末には、警告が表示されていた。


「地下深部の水位上昇を確認。流向、谷下集落方面」


カナタが地図を広げる。


「谷下集落まで、どれくらい?」


シオンが即答する。


「早ければ三十分」


「三十分!?」


オルガが顔を上げる。


「走るよ。ただし、地面の割れ目には近づかない」


シオンはすでに駆け出そうとしていた。


リリィが声をかける。


「シオン、案内して。でも一人で先に行かない」


「俺の家があるんだ!」


「だから一緒に行くの。あなたが落ちたら、集落の人へ知らせる人も減る」


シオンは悔しそうに歯を食いしばった。


けれど、今度は止まった。


「……分かった。こっちだ」


谷下へ向かう道は、道とは呼べないほど細かった。


乾いた葦の間を抜け、割れた地面を避け、斜面を下る。


足元から時々、空洞のような音が返ってくる。


オルガが何度も手を上げた。


「そこ、踏まない!」


「右へ!」


「一列!」


カナタは息を切らしながら、記録板を抱えてついてくる。


シオンが振り返った。


「記録なんか後でいい!」


カナタは言い返す。


「今どこが危ないか残してるの! 次に誰かが通る時のために!」


シオンは一瞬言葉を失った。


それでも、足は止めない。


谷下集落は、小さな窪地にあった。


家は五つ。


そのうち人が暮らしているのは三つだけ。


乾いた葦の束が積まれ、古い水車の骨組みが傾いている。


井戸のそばにいた女性が、シオンを見て叫んだ。


「シオン! どこへ行ってたの!」


「地下の水が来る! みんな高い場所へ!」


女性の顔色が変わった。


「また井戸が鳴ってるのは、そのせい?」


その言葉と同時に、井戸の中から音がした。


ごぼっ。


水が湧く音ではない。


空気が押し上げられる音だ。


コピが井戸へ近づく。


「危険です。井戸の周囲から離れてください」


オルガが集落の人々を誘導する。


「荷物は後! 子どもと年寄りを先に!」


リリィは周囲を見た。


水はまだ地表には出ていない。


だが、井戸の中で空気が鳴り、地面の下では水が走っている。


地表が耐えられなくなれば、どこかが抜ける。


「安全な場所は?」


シオンが丘の上を指した。


「あの石祠のあたり。地盤が硬い」


カナタがすぐに記録する。


「避難場所、石祠前」


シオンが彼女を見た。


「……それも書くのか」


「書く。次に迷わないように」


シオンは小さく頷いた。


初めて、反論しなかった。


集落の人々を丘へ上げる間にも、井戸の音は大きくなっていった。


ごぼっ。


ごぼぼっ。


古い家の床下からも、湿った風が吹き出す。


コピが地図を更新した。


「地下水路は、集落直下の旧井戸群へつながっています。このまま圧力が上がると、井戸、床下、古い排水穴から水が噴き出す可能性があります」


オルガが顔をしかめる。


「噴き出すだけ?」


「地盤崩落を伴う可能性があります」


「最悪じゃん」


ミラが通信越しに入る。


『水を逃がせる古い出口はない?』


シオンが考える。


「……昔の放水溝がある。湿原が水を持ちすぎた時、谷の外へ逃がす溝」


カナタが地図を見る。


「そんな記録、観測塔には——」


言いかけて、止まった。


ない。


でも、現地にはある。


それをもう何度も見てきた。


「場所は?」


シオンが集落の南を指す。


「枯れ葦の下。たぶん埋まってる」


リリィは決めた。


「そこを開けよう。水を止めるんじゃなくて、集落の下から逃がす」


コピが注意を出す。


「全開放は危険です。急に開けると周辺の地盤を削ります。小さく、段階的に」


「うん。少しずつ」


作業はすぐに始まった。


枯れ葦をどけると、古い石組みが出てきた。


半分は土に埋まり、入口には泥と根が詰まっている。


シオンが手で掘ろうとした。


オルガが止める。


「素手はだめ。崩れる」


高原道の老人が、古い鉄のかぎ棒を持ってきた。


「これを使え。押すな、引け」


リリィ、オルガ、シオン、集落の人々で、詰まった根を少しずつ引き抜く。


カナタは横で記録しながら、何度も周囲を見る。


「井戸の音、大きくなってる!」


コピが告げる。


「圧力上昇、継続。残り時間は不明ですが、急ぐ必要があります」


急ぐ。


でも、雑にできない。


それが一番難しい。


シオンが焦って力を入れすぎた。


石組みが少し崩れる。


「くそっ!」


リリィが声をかける。


「シオン、息を合わせよう」


「そんなこと言ってる場合かよ!」


「合わせないと壊れる!」


シオンは肩で息をしながら、リリィを見た。


そして、頷いた。


「……分かった」


三人で引く。


一、二、三。


根が抜けた。


次に泥の塊。


また、一、二、三。


石組みの奥から、冷たい風が吹いた。


コピが言う。


「空洞接続を確認。まだ水は出ていません」


カナタが井戸を見る。


「でも、井戸はもう限界!」


その直後、井戸の中から水が噴き上がった。


高くはない。


だが、黒っぽい水が井戸の縁を越え、地面へ流れ出す。


集落の人々が息をのむ。


シオンが叫ぶ。


「家の方へ行く!」


水は、確かに低い家の方へ流れ始めていた。


リリィは放水溝を見る。


「あと少し!」


オルガが石を外す。


ミラの指示が通信から飛ぶ。


『入口を全部開けないで! 下半分だけ! 上は支えに残して!』


「了解!」


オルガが短く答える。


最後の泥を引き抜いた瞬間、放水溝の奥で水音が変わった。


ごう、と低い音。


地面の下を走っていた水が、新しい逃げ道を見つけた。


最初は細い流れ。


次に、濁った水が放水溝から吐き出された。


勢いは強い。


だが、集落の外側へ向かっている。


コピがすぐに測定する。


「流出開始。井戸周辺の圧力、低下」


シオンが井戸を見る。


水の噴き上がりが弱まった。


家の方へ向かっていた流れも、途中で止まり始める。


「止まった……?」


カナタが呟く。


コピが答える。


「危険な上昇は止まりました。ただし、地下の空洞化は残っています」


オルガが肩で息をする。


「つまり、今日は助かったけど、住み続けて安全かは別?」


「はい」


その言葉に、集落の人々の表情が曇った。


水は逃がした。


家は守れた。


でも、地面の下には空洞がある。


いつまた沈むか分からない。


シオンは拳を握りしめた。


「じゃあ、ここを捨てろって言うのか」


リリィは首を横に振る。


「まだ決めない。でも、危ない場所を知らないまま暮らすのはだめ」


カナタが静かに言った。


「私が記録する」


シオンは彼女を見る。


「今さら?」


「今から」


カナタの声は震えていなかった。


「谷下集落も、湿地も、井戸も、放水溝も。観測塔の記録に入れる」


シオンはしばらく黙った。


やがて、視線をそらす。


「……勝手にしろ」


それは拒絶ではなかった。


少なくとも、リリィにはそう見えた。


夕方、丘の上で簡易確認会が開かれた。


谷下の人々は、まだ家へ戻らず、石祠の周りに集まっている。


カナタが地図を広げた。


「今日分かったことは三つです」


一つ。

葦の門から流れた水は、湿原へ出る前に地下へ落ちている。


二つ。

その水は谷下集落の旧井戸群へ圧力をかけている。


三つ。

古い放水溝を少し開けることで、集落直下の圧力は下げられる。


シオンが続けた。


「でも、放水溝の先がどうなってるかは分からない」


コピが頷く。


「はい。水を集落から逃がしましたが、その先で別の問題を起こす可能性があります」


牧草地の代表が通信越しに声を荒げた。


『つまり、上の水もまだ足りない。下も危ない。逃がした水の先も分からない。何も解決していないじゃないか』


誰もすぐには答えなかった。


確かに、全部は解決していない。


けれど、今日失われなかったものがある。


谷下集落は沈まなかった。


人は避難できた。


放水溝は見つかった。


地下の流れも、一部だけ見えた。


リリィは静かに言った。


「解決していない。でも、次に見る場所は分かりました」


カナタが頷く。


「放水溝の先」


シオンも低く言う。


「そこに水が行った」


オルガが肩を回す。


「また追いかけるのかあ」


ファルコンが空を見た。


「ただし、今日はもう無理だ。暗くなる」


夜になる前に、谷下集落には見張りが置かれた。


井戸の音。

地面の割れ。

放水溝の流量。

家の傾き。


四つを交代で見る。


カナタは観測塔に戻らず、谷下に残ると言った。


シオンは驚いた顔をする。


「ここに?」


「うん。記録してない場所だから」


「……勝手にしろ」


また同じ言葉。


でも今度は、少しだけ声が柔らかかった。


夜。


リリィは丘の上から谷下集落を見下ろしていた。


家の灯りは少ない。


放水溝からは、今も細く水が流れている。


その水は暗い谷の奥へ消えていく。


コピが端末を確認した。


「放水溝下流から、異常な温度反応があります」


「温度?」


「はい。水温が上昇しています。雪解け水としては不自然です」


リリィは眉を寄せた。


冷たい雪解け水が、流れた先で温かくなっている。


「温泉?」


オルガが言った。


コピは首を横に振る。


「可能性はあります。しかし、鉱物反応も強いです」


その時、放水溝の下流から、かすかな光が見えた。


青白い光。


水面の揺れに合わせて、ちらちらと瞬いている。


カナタが息をのんだ。


「何、あれ……」


シオンも初めて見る顔だった。


「知らない。あんな光、谷の下にはなかった」


青白い光は、暗い谷の奥でゆっくり広がっていく。


まるで、逃がした水が何かを起こしてしまったかのように。


コピが低く告げた。


「放水溝下流で、未知の反応を確認。明朝、調査が必要です」


リリィは、光る谷を見つめた。


水は逃がせた。


でも、その先に眠っていたものを、起こしてしまったのかもしれない。

第106話では、葦鳴き谷の地下を走り始めた水が、谷下集落の旧井戸群へ圧力をかけていることが分かりました。


リリィたちは、住民を高台へ避難させたうえで、埋もれていた古い放水溝を少しだけ開き、集落直下の水圧を下げます。


これにより、谷下集落の急な沈下はひとまず避けられました。


ただし、根本解決ではありません。


水は集落の外へ逃がされただけで、その先で何が起きるかはまだ分かっていません。


そして最後、放水溝の下流で、雪解け水としては不自然な温度上昇と、青白い光が確認されました。


次回は、逃がした水の先で何が起きているのかを調べます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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