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調和の守護者 リリィ&コピ第四部  作者: マスター


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第105話 水を動かした者

第104話では、旧雪室群の地下に分水室が残っていることが分かりました。


草地、貯水池、旧湿原へ水を分ける三つの門。


しかし、貯水池へ向かう雫の門はほぼ閉じ、水は主に旧湿原方面へ流れていました。


しかも門には、新しい操作痕があります。


夜明け前、観測機の映像に映ったのは、誰かが分水室へ金属棒を差し込み、雫の門を動かす姿でした。


第105話では、その「水を動かした者」を追います。

「誰かいる!」


カナタの声で、観測塔の空気が一気に張り詰めた。


画面の中では、暗い分水室が揺れている。


中央の雫の門。


そこへ、細い金属棒が差し込まれていた。


ぎぎ、と鈍い音がする。


門が、ほんの少しだけ動いた。


「開けてる……?」


リリィが呟く。


カナタは机を叩いた。


「やっぱり誰かが触ってたんだ!」


オルガがすぐに外套を羽織る。


「追うよ。でも走り込まない」


「分かってる!」


カナタは即答した。


即答が早すぎて、オルガは少し疑った顔をした。


「本当に?」


「……なるべく」


「そこはちゃんと分かって」


コピが映像を拡大する。


分水室の端に、人影が映った。


灰色の外套。

細い腕。

顔は見えない。


その人物は、観測機の光に気づいたのか、金属棒を引き抜いた。


次の瞬間、画面が大きく揺れる。


「観測機、接触を受けました」


映像が乱れた。


暗闇。

水音。

そして、分水鐘の音。


ちりん。


その直後、通信が途切れた。


カナタの顔から血の気が引く。


「壊された?」


コピが確認する。


「信号は微弱ですが残っています。転倒、または水路脇へ落下した可能性があります」


リリィはすぐに決めた。


「旧雪室群へ行こう。目的は三つ。人影の確認、観測機の回収、雫の門の状態確認」


カナタが頷く。


「私も行く」


オルガが彼女を見る。


「勝手に先へ行かない」


「行かない!」


「穴を覗き込まない」


「……努力する」


「そこも約束して」


カナタは悔しそうに頷いた。


夜明けの高原は冷たかった。


草の先には白い霜がつき、遠くの山脈は青く沈んでいる。


旧雪室群へ向かう道には、薄い足跡が残っていた。


新しい。


霜を踏み割った跡だ。


ファルコンが上空から言う。


「足跡は北側の斜面へ向かっている。昨日見つけた空洞反応の方向だ」


コピが地図を表示する。


「旧雪室群の正面入口ではなく、北側の作業口を使った可能性があります」


カナタが眉をひそめた。


「そんな入口、聞いたことない」


高原道の老人が杖をつきながら言った。


「昔の雪室番が使った抜け道かもしれん。荷を運ぶには正面より北側の方が近い」


「なんで観測塔の記録にないの」


老人は苦い顔をした。


「観測塔ができる前の道だからだろう」


カナタは黙った。


また、記録にないものが出てきた。


彼女にとって、それは悔しいことだった。


記録係なのに、記録が足りない。


でもリリィは思う。


足りないことに気づけたなら、そこから記録は始められる。


北側の斜面には、低い岩の裂け目があった。


人ひとりがかがんで通れるほどの隙間。


入口の前には、古い木板が外されている。


その木板の釘は、最近抜かれたばかりだった。


オルガがしゃがみ込む。


「ここ、誰か通ってるね」


コピが釘の状態を分析する。


「腐食した釘を工具で抜いた痕跡。数日以内の可能性があります」


カナタが奥を覗こうとする。


オルガが外套の襟を掴んだ。


「覗かない」


「ちょっとだけ!」


「ちょっと落ちる人、いるから」


リリィは思わず苦笑した。


緊張しているのに、少しだけ空気が緩む。


だが、裂け目の奥から冷たい風が吹いた瞬間、全員の表情が戻った。


風に混じって、水音がする。


そして、微かに人の足音。


「いる」


ファルコンが小声で言った。


リリィたちは入口を囲んだ。


オルガが前。

リリィがその後ろ。

コピは安全値を測り、カナタは少し離れて記録を取る。


「出てきてください」


リリィが裂け目へ向かって呼びかけた。


返事はない。


「こちらは争うつもりはありません。分水室のことで話を聞きたいだけです」


沈黙。


次の瞬間、裂け目の奥で石が鳴った。


人影が飛び出してくる。


灰色の外套。


リリィより少し年上に見える若い男だった。


手には細い金属棒。


彼はリリィたちを見るなり、斜面を駆け下りようとした。


「待って!」


カナタが叫ぶ。


男は止まらない。


だが、ぬれた霜で足を滑らせた。


オルガが瞬時に動く。


転びかけた男の腕を掴み、地面へ叩きつけるのではなく、そのまま引き起こした。


「逃げると危ないって!」


男は息を荒げていた。


「離せ!」


「落ち着いて。怪我する」


「そっちが触るからだ!」


カナタが前へ出る。


「分水室を触ったの、あなたでしょ!」


男は彼女を睨んだ。


「だったら何だ」


「なんで雫の門を閉じたの!」


「閉じてない!」


カナタが言葉を詰まらせる。


男は荒い息のまま続けた。


「少し開けたんだ。今朝はな」


コピが反応する。


「今朝は、ということは、以前にも操作していたのですね」


男は黙った。


オルガが腕を離す。


男は逃げようとはしなかった。


ただ、全員を警戒するように見ている。


リリィが静かに尋ねた。


「名前を教えて」


「……シオン」


「リューネの人?」


「違う。葦鳴き谷の下に住んでる」


高原道の老人が目を見開いた。


「谷下の集落は、もう無人になったはずだ」


シオンは老人を睨んだ。


「勝手に無人にするな。まだ三家族残ってる」


カナタが驚いた顔をする。


「そんな記録、ない」


「そっちが記録してないだけだろ」


その一言は、カナタに深く刺さった。


彼女はすぐに言い返せなかった。


シオンは灰色の外套を握りしめる。


「上の観測塔は、貯水池と牧草地の水しか見てない。谷下の湿地が割れてることも、井戸が落ちたことも、誰も見に来なかった」


リリィはカナタを見た。


カナタは唇を噛んでいる。


怒りではない。


知らなかったことへの悔しさだった。


コピが確認する。


「あなたは、旧湿原方面へ水を流すために葦の門を開けたのですか」


シオンは少し迷い、それから頷いた。


「谷下の湿地が死ぬと思った。水が来なければ、地面が割れて、家が傾く。だから葦の門を開けた」


カナタが叫ぶ。


「そのせいで貯水池が空になった!」


「そっちには貯水池があるだろ!」


「でも水は一晩で消えた!」


「谷下には、最初から来てない!」


二人の声がぶつかった。


どちらも嘘ではない。


上では、水が来ない。


下でも、水が来ない。


だから、誰かが門を動かした。


でも、水はどちらにも十分届いていない。


リリィが二人の間に入る。


「待って。シオン、葦の門を開けたのに、谷下の湿地へ水は届いていないの?」


シオンは苦々しく頷く。


「ああ。流れてる音はする。でも湿地には出てこない」


コピが地図を表示する。


「つまり、葦の門の先でも水が消えています」


オルガが肩を落とした。


「また水が迷子……」


シオンが金属棒を握る。


「だから今朝、雫の門を少し開けた。上の貯水池にも少し戻せば、文句を言われないと思った」


カナタが顔を赤くする。


「文句って……!」


「実際、怒ってるだろ」


「当たり前でしょ!」


リリィは深く息を吸った。


これは悪者を捕まえて終わる話ではない。


水が足りない場所同士が、見えない地下で奪い合っている。


しかも、その水は途中でどこかへ消えている。


「シオン。葦鳴き谷へ案内して」


シオンは警戒した。


「何をする気だ」


「水がどこで消えているか見る」


「門を戻すのか」


「今は戻さない。急に動かすと危ない」


シオンは少し意外そうな顔をした。


カナタが小さく言う。


「私も行く」


シオンは露骨に嫌そうな顔をした。


「観測塔の人間なんか連れて行きたくない」


カナタは一瞬ひるんだ。


でも、すぐに顔を上げる。


「記録してない場所なら、今から記録する」


「遅い」


「遅いかもしれない。でも、見ないよりはまし」


シオンは黙った。


オルガが小声でリリィに言う。


「この二人、放っておくと喧嘩しながら歩くよ」


「うん。でも、たぶん必要な喧嘩だと思う」


葦鳴き谷へ向かう道は、旧雪室群のさらに南西にあった。


草は短く、地面には細いひびが走っている。


ところどころ、足元から空洞のような音がした。


オルガがすぐに全員を止める。


「一列。間隔を空けて。走らない」


カナタとシオンが同時に反論しかけた。


そして、同時に黙った。


少しだけ学習している。


谷へ近づくにつれ、地面の割れ目は深くなった。


葦は枯れ、湿地だった場所は灰色に乾いている。


だが、完全に乾いているわけではない。


ところどころ、地面の下から水音がする。


コピが測定する。


「地下浅層に流れがあります。しかし、地表へ出ていません」


シオンが指を差す。


「あそこが昔の湧き口だ」


そこには、石で囲まれた小さな穴があった。


今は泥で塞がり、白い鉱物の膜が張っている。


カナタがしゃがみ込む。


「水が来てない……」


シオンが言う。


「だから言った」


その時、谷の奥で乾いた音がした。


ぱきん。


全員が振り向く。


地面のひびが、少し広がった。


続いて、もう一度。


ぱきん。


オルガが叫ぶ。


「下がって!」


シオンが慌てて前へ出る。


「あの下に、うちの水道がある!」


「行くな!」


リリィが止める前に、地面が沈んだ。


大きな崩落ではない。


だが、湿地の一部が丸くへこみ、黒い穴が開いた。


中から冷たい風が吹き上がる。


そして、水音。


かなり強い。


コピが即座に測定する。


「地下水路の空洞化。地表の支持力が低下しています」


シオンが青ざめた。


「水は……下を流れてるのか」


カナタも穴を見つめる。


「湿地に出ないで、地下だけを走ってる……」


リリィは理解した。


葦の門を開けても、水は湿地へ戻らない。


地下の壊れた水道を通り、地表へ出る前にさらに深い空洞へ落ちている。


だから上も乾き、下も乾く。


水はある。


でも、届かない。


コピが厳しい声で言った。


「危険です。雫の門をこれ以上開けて貯水池側へ水を戻すと、葦の門側の流量が減り、谷下の地下水位がさらに不安定になる可能性があります」


カナタが顔を上げる。


「でも、貯水池に水を戻さないと、上の家畜がもたない」


シオンも叫ぶ。


「谷下だって、地面が落ちる!」


二つの水不足。


二つの危機。


どちらかへ流せば、もう片方が危ない。


リリィは、乾いた湿地と、空いた穴と、遠くの貯水池の方角を見た。


これは、門を開けるだけでは解決しない。


分ける前に、失われた出口を戻さなければならない。


その時、穴の奥から音がした。


ちりん。


分水鐘とは違う。


もっと低く、重い音。


コピの端末が警告を出す。


「地下深部で水位変動。葦鳴き谷下流側に急激な流れが発生しています」


シオンの顔色が変わった。


「下流側……そこ、俺たちの集落がある」


地面の下で、見えない水が走り始めていた。

第105話では、分水室を操作していた人物が見つかりました。


名前はシオン。


彼は葦鳴き谷の下に残る小さな集落の住人で、谷下の湿地を守るために、旧湿原方面へ向かう葦の門を開けていました。


しかし、葦の門を開けても水は湿地へ戻っていません。


水は地下の壊れた水道を通り、地表へ出る前にさらに深い空洞へ落ちている可能性が出てきました。


つまり、上の貯水池も、下の湿地も、水を必要としているのに、肝心の水は途中で消えています。


最後には、葦鳴き谷の地下深部で急な水位変動が起き、シオンの集落が危険にさらされる可能性が出てきました。


次回は、地下で走り始めた水と、谷下の集落を守るための緊急対応へ進みます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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