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調和の守護者 リリィ&コピ第四部  作者: マスター


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第117話 底押さえ石を運ぶ者たち

第116話では、眠り湖の底を見張る「湖底番」の少年トーヤが登場しました。


眠り湖には、さらに下層へ水が落ちる「底穴」があり、そこが開くと季節水は地表へ戻らなくなります。


春戻りの泉を起こす前に、まず眠り湖の底穴を守らなければならない。


そう分かった直後、湖底番の小屋から、底穴を押さえるための石が誰かに運び出されようとしていることが判明します。


第117話では、リリィたちが底押さえ石を運ぶ者たちを追います。

「底押さえ石を持ち出してる!」


トーヤの叫びで、全員が動いた。


眠り湖の底穴は、開きかけている。


そこを押さえるための石が、今、誰かに運び出されようとしている。


シオンが先に駆け出した。


「そいつら、何考えてんだ!」


オルガがすぐに追う。


「走るなら地面を見て!」


カナタも記録板を抱えたまま続く。


「湖底番の小屋はどこ?」


トーヤが北西を指した。


「沈み塚の向こう。石の風除けがあるところ!」


ファルコンが上空から告げる。


「荷車は二台。人影は四つ。南西へ移動中」


「南西?」


コピが地図を重ねる。


「その方向は、下層抜け谷です。古い地割れが多い危険区域です」


リリィは眉を寄せた。


「そこへ石を運ぶ理由があるんだ」


シオンが吐き捨てる。


「理由なんか関係ない。底穴が開いたら高原の水が消える」


カナタが小さく言う。


「でも、理由を聞かないとまた失敗する」


シオンは一瞬黙った。


第4部が始まった頃なら、ここで言い返していただろう。


だが、今は違う。


「……聞いてから止める」


「止めるのは決定なんだ」


「当たり前だろ」


オルガが少し笑った。


「はいはい、まず追いつくよ」


湖底番の小屋は、低い石垣に囲まれた小さな建物だった。


屋根は草と石で覆われ、遠くから見ると地面の一部にしか見えない。


扉は開け放たれている。


中には、石を置いていた跡が残っていた。


丸く平たい石。


表面に穴があり、水の音を吸うような形をしている。


トーヤは中を見て、顔を歪めた。


「三つない……」


コピが確認する。


「底押さえ石、少なくとも三個持ち出し。残存二個」


カナタがすぐ記録する。


「湖底番の小屋、底押さえ石三個消失」


トーヤは拳を握った。


「あれがないと、底穴の音を止められない」


リリィが尋ねる。


「石で穴を完全に塞ぐの?」


「違う。湖底に直接置くんじゃない。底穴へ向かう水の勢いを散らすんだ。石を吊って、水が落ちる音を弱める」


コピが頷く。


「水流制御用の共鳴石ですね。穴を塞ぐのではなく、流速と振動を抑える役割があると推定します」


オルガが顔をしかめる。


「つまり、ただの重石じゃないんだ」


「はい」


シオンが外へ目を向けた。


「そんな大事なものを、どこへ持っていく気だ」


ファルコンが通信する。


「荷車に追いつく。下層抜け谷の入口だ」


リリィは頷いた。


「追おう。接触したら、まず話す。でも石は止める」


下層抜け谷へ向かう道は、風が強かった。


地面には古い亀裂が走り、ところどころ白い鉱物が露出している。


草は少ない。


鳥の声もない。


先へ進むほど、空気が乾き、喉が少しざらついた。


カナタが記録板を押さえながら言う。


「ここも観測塔の地図だと危険区域だけで、細かい記録がない」


トーヤが言う。


「湖底番は近づかない。底の音が乱れるから」


シオンが前方を見た。


「いた」


谷の入口に、荷車が二台止まっていた。


四人の大人が、石を降ろそうとしている。


顔は布で覆われている。


だが、盗賊のような荒さはない。


動きは手慣れていて、石を雑には扱っていなかった。


リリィは大きな声で呼びかけた。


「その石を運ばないでください!」


四人が振り返る。


そのうち一人、年配の女性が前へ出た。


「追いつかれたか」


トーヤが叫ぶ。


「返せ! それは湖底番の石だ!」


女性はトーヤを見る。


「知っている。だから借りた」


「借りた!?」


「返すつもりはある。だが今は、こちらにも必要だ」


シオンが怒鳴りかける。


リリィが手で制した。


「理由を聞かせてください」


女性は布を外した。


日に焼けた顔。

深いしわ。

首には、丸い湖の下に縦線がある紋。


トーヤのものと似ている。


だが、線が二本ある。


トーヤが息をのむ。


「湖底番……じゃない。底守り?」


女性は頷いた。


「下層抜け谷の底守り、マロウだ」


カナタが聞く。


「底守り?」


トーヤが苦い顔で説明する。


「湖底番は眠り湖の底を聞く。底守りは、その下の抜け谷を見張る役目だって聞いたことがある。でも、とっくに途絶えたって……」


マロウは静かに言った。


「勝手に途絶えさせるな。みんな、記録から消えただけだ」


その言葉は、また同じだった。


谷下集落。

雪室番。

湖底番。

そして底守り。


高原の古い水を知る者たちは、消えたのではない。


見られなくなっていただけだ。


リリィは尋ねた。


「なぜ底押さえ石を運んだんですか」


マロウは下層抜け谷を指した。


谷の奥から、低い風音が聞こえる。


「下が鳴っている」


コピが測定する。


「下層空洞で圧力変動。眠り湖底穴と連動している可能性があります」


マロウは頷いた。


「眠り湖の底穴を押さえすぎると、水は横へ逃げる。その横の先が、ここだ」


カナタが目を見開いた。


「底穴を閉じたら、下層抜け谷が危ない?」


「そうだ。底穴を完全に押さえれば、高原の上はしばらく助かる。だが下層の空洞に圧が回り、この谷が抜ける」


シオンが食ってかかる。


「だからって石を持っていったら、眠り湖の水が下へ落ちる!」


マロウは静かに返した。


「落としすぎても高原は乾く。押さえすぎても谷が抜ける。どちらも危ない」


リリィは言葉を失った。


まただ。


開けても危ない。

閉じても危ない。

流しても危ない。

止めても危ない。


水は一か所だけの問題ではなかった。


トーヤは震える声で言った。


「でも、勝手に持っていくなよ! 底穴の音が変わったんだぞ!」


マロウの表情が少し揺れる。


「音が変わった?」


「青火が入った夜からだ!」


マロウは他の三人を見た。


「……青火の件は聞いていない」


カナタが一歩前へ出る。


「情報がつながっていないんです。だから、どこも勝手に動いて危なくなってる」


マロウはカナタを見た。


「観測塔の者か」


「はい」


「今さら記録するのか」


カナタはまっすぐ答えた。


「はい。今さらでも、しないよりましです」


マロウはしばらく彼女を見ていた。


やがて、小さく息を吐く。


「若いのに、痛いことを言う」


カナタは少しだけ眉を下げた。


「言われた側なので」


シオンが横で小さく笑いかけたが、すぐ真顔に戻った。


その時、下層抜け谷の奥で音がした。


ごうん。


空気が震える。


荷車の上の底押さえ石が、かすかに鳴った。


トーヤが顔色を変える。


「石が共鳴してる」


コピが警告を出す。


「眠り湖底穴と下層抜け谷、同時に圧力変動。石を移動させたことで、共鳴位置が変化している可能性があります」


オルガが叫ぶ。


「つまり、今の場所に置いておくのも危ない?」


「はい」


マロウの顔が険しくなる。


「まずい。谷鳴りが早い」


リリィは決めた。


「石を戻すか、谷に置くかを今すぐ決めない。仮置き場所を作る」


「仮置き?」


トーヤとマロウが同時に言った。


コピがすぐに地図を表示する。


「眠り湖底穴と下層抜け谷の中間に、古い石台があります。共鳴石を一時的に置けば、どちらか一方へ偏りすぎるのを防げる可能性があります」


マロウが目を細める。


「中置き台か。まだ残っていたか」


トーヤが驚く。


「知ってるのか」


「底守りの古い記録にある。だが場所までは知らなかった」


カナタがすぐに言う。


「地図に入れます。案内してください」


マロウは頷いた。


「いいだろう。ただし急げ。谷鳴りが三度続けば、下が抜ける」


荷車は方向を変えた。


盗まれた石を取り返すのではない。


高原上部と下層抜け谷の間で、水の圧を分けるために使う。


道中、石は何度も低く鳴った。


ごん。


ごん。


そのたびに、トーヤとマロウが音を聞く。


湖底番は上の音を。

底守りは下の音を。


同じ石を、別の場所から聞いていたのだ。


古い石台は、割れた岩場の陰にあった。


三つのくぼみがあり、ちょうど底押さえ石を置ける形になっている。


表面には古い文字が刻まれていた。


コピが読む。


上を押さえすぎるな。

下へ抜きすぎるな。

石は中に置き、音を分けよ。


カナタが息をのむ。


「昔の人は、両方知ってたんだ……」


トーヤが石を持ち上げる。


「一つ目、置くぞ」


マロウが頷く。


「角度を少し南へ。下の鳴りを逃がしすぎるな」


二人が息を合わせる。


石が台に置かれる。


ごん、と短く鳴った。


コピが数値を読む。


「眠り湖底穴の反響、低下。下層抜け谷側の圧力上昇も鈍化」


シオンが目を見開く。


「効いてるのか」


「はい。続けてください」


二つ目。


三つ目。


石が置かれるたびに、地面の奥の音が少しずつ変わった。


荒い音から、低く長い音へ。


水が暴れる音ではなく、息を整える音に近づいていく。


オルガが肩の力を抜いた。


「今回は、ちゃんと効いたって言っていい?」


コピが少し考える。


「応急的には有効です」


「それで十分」


だが、完全に安心はできなかった。


中置き台は、あくまで一時的な調整場所。


底穴を安定させるには、湖底番と底守りの両方が同時に音を聞く必要がある。


トーヤはマロウを見る。


「勝手に持っていくな」


マロウは静かに返す。


「そちらも、上だけで押さえるな」


「上だけじゃない。今からは、そっちも聞く」


マロウは少しだけ目を細めた。


「なら、こちらも上の音を聞こう」


カナタは二人の言葉を記録した。


湖底番と底守り、共同観測開始。


夕方、旧観測塔へ戻ると、カナタは壁の地図をさらに広げた。


分水室。

貯水池。

葦鳴き谷。

青火の水門。

季節水源。

眠り湖。

春戻りの泉。

そして下層抜け谷。


もう、地図は一枚に収まらなくなっていた。


シオンが言う。


「高原って、こんなに下まで水路があったのか」


カナタは頷く。


「知らなかった。でも、もう知らないままにはしない」


リリィはその地図を見た。


第四部の問題が、さらに形を変えた。


水を戻すだけではない。


上へ戻す水と、下へ逃がす水。


押さえる石と、逃がす谷。


古い役目たちを、もう一度つなぎ直さなければならない。


その時、コピが警告を出した。


「春戻りの泉で変化。外縁水の濁度が上昇しています」


カナタが顔を上げる。


「泉が?」


「はい。耳石が欠落したままの影響と、中置き台の調整による水圧変化が重なった可能性があります」


トーヤが言う。


「耳石を戻さないと、泉が荒れる」


マロウも頷いた。


「だが、底穴の石は今動かせない」


リリィは春戻りの泉の地図を見た。


耳石は手元にある。


でも、戻すには泉の圧力を安定させなければならない。


底押さえ石は中置き台へ移したばかり。


全てが連動している。


さらに、ファルコンが外から戻ってきた。


「旧測候小屋の周辺に、また人影がある」


オルガが眉をひそめる。


「まだ誰かいるの?」


「一人。荷物を燃やしている」


カナタが息をのむ。


「記録を消してる……?」


リリィはすぐに立ち上がった。


水を動かしていた者たちの記録。


春戻りの泉を起こすなという警告。


青火による上部起動への変更。


誰かは、証拠を消そうとしている。


夜の旧測候小屋から、細い煙が上がっていた。

第117話では、湖底番の底押さえ石を運び出していた者たちを追いました。


彼らは敵ではなく、下層抜け谷を見張る「底守り」でした。


眠り湖の底穴を押さえすぎると、今度は下層抜け谷側に圧力が回り、谷が抜ける危険がある。


そのため、底守りは底押さえ石を持ち出していたのです。


リリィたちは、湖底番と底守りの対立を止めるため、古い「中置き台」に石を仮置きし、上と下の圧を一時的に分けることに成功しました。


ただし、問題はまだ続きます。


中置き台による圧力変化で、春戻りの泉にも影響が出始めました。


さらに終盤では、旧測候小屋で誰かが荷物を燃やしていることが分かります。


次回は、記録を消そうとしている人物を追い、誰が青火による上部起動を決めたのかに迫ります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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