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調和の守護者 リリィ&コピ第四部  作者: マスター


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第115話 春戻りの泉を掘るな

第114話では、季節水源の下にある未記録の地下湖、「眠り湖」の存在が見えてきました。


眠り湖には三つの出口があります。


貯水池へ戻る雫の道。

葦鳴き谷へ向かう湿原の道。

そして、第三出口である春戻りの泉。


春戻りの泉は、かつて季節水を地表へ戻す出口でしたが、今は鉱物と泥炭化した植物片で塞がっていました。


しかもそこには、ユオたちとは別の誰かが調べた足跡と、


「第三出口、閉塞確認。開放不可。青火による上部起動へ変更」


という杭が残されていました。


第115話では、リリィたちが春戻りの泉を安全に起こす方法を探ります。

春戻りの泉は、朝になると少し湿っていた。


昨日までは乾いたくぼ地だった。


だが今は、中心の土が黒く濡れ、小さな泡が時々浮かんでいる。


ぽこ。


一つ。


少し間を置いて、また一つ。


ぽこ。


シオンが身を乗り出した。


「水、戻ってきてるんじゃないか」


カナタがすぐに腕を掴む。


「近づきすぎない」


シオンが顔をしかめる。


「昨日まで、お前が突っ込む側だっただろ」


「昨日までの私と、今の私は違う」


「一日で偉そうになったな」


「記録係は成長するの」


オルガが二人の襟を同時に掴んだ。


「成長したなら、二人とも線の内側に戻ろうか」


二人は黙って下がった。


コピが泉の中心を測る。


「地下圧力、上昇中。ただし急噴出の兆候はまだ限定的です」


リリィは湿ったくぼ地を見つめた。


ここを掘れば、水は出るかもしれない。


でも、強く開ければ地下湖の水が一気に吹き出す危険がある。


貯水池、谷下、青火の水門。


すでに高原の水路は不安定だった。


もう一つ出口を乱せば、何が起きるか分からない。


「掘らない」


リリィが言った。


カナタも頷く。


「春戻りの泉を掘るな、ですね」


ネーヴェが小さく顔を上げた。


「その言葉、聞いたことある」


全員が彼女を見る。


ネーヴェは少し考えながら、雪室番の古い歌を思い出すように口を動かした。


「春戻りは、掘るな。

耳石を立てて、息を聞け。

水が急げば、横へ逃がせ。

水が眠れば、道を洗え」


カナタがすぐに記録する。


「耳石……?」


高原道の老人が杖でくぼ地の外縁を指した。


「泉の周りに、石がいくつか残っている」


そこには、草に埋もれた小さな石柱があった。


一つ。

二つ。

三つ。


どれも低く、ただの境界石に見える。


だが、上面には小さな穴が開いていた。


コピが調べる。


「中空構造です。地下の音や圧力を聞くための観測石と考えられます」


オルガが眉を上げる。


「昔のセンサー?」


「近いです」


カナタは耳石の前にしゃがみ込む。


「泉を掘らずに、周りから水の状態を聞いてたんだ」


ネーヴェが頷く。


「たぶん。母さんは、泉の耳って呼んでた」


シオンが周囲を見回す。


「でも、三つだけか?」


コピが地形を重ねる。


「本来は四つ、または五つあった可能性があります。北側に一つ欠落しています」


カナタがすぐに立ち上がる。


「欠落?」


ファルコンが上空から位置を示した。


「北側の草が乱れている。昨日見つけた足跡の近くだ」


リリィたちは慎重に北側へ向かった。


そこには、石柱が抜かれた跡があった。


穴は新しい。


土の縁が崩れきっておらず、周囲には道具でこじったような傷がある。


シオンが低く言う。


「誰かが耳石を抜いたのか」


コピが分析する。


「数日以内の可能性があります」


カナタは唇を噛んだ。


「第三出口を調べた誰かが、ここを壊した?」


「断定はできません」


リリィは抜かれた跡を見つめた。


耳石は、泉を安全に聞くためのもの。


それが一つ抜かれている。


だから春戻りの泉の状態を正しく読めなかったのかもしれない。


あるいは、誰かが読んだうえで、諦めたのかもしれない。


「まず、残っている耳石を使おう」


コピが細い測定糸を耳石へ通した。


穴の中へ空気が流れている。


微かな音もある。


一つ目は、低い水音。

二つ目は、泡の音。

三つ目は、ほとんど無音。


コピが表示する。


「泉中心部の圧力は上昇していますが、周縁部の水路は一部生きています。完全閉塞ではありません」


カナタの表情が明るくなる。


「じゃあ、起こせる?」


「可能性はあります。ただし、中心を開けるのではなく、周辺の古い水路を洗う必要があります」


リリィは聞き返した。


「洗う?」


ミラの通信が入る。


『少量の水を外から入れて、詰まりを押し出すんじゃなくて、湿らせて崩れやすくする。いきなり抜くんじゃなくて、緩める感じ』


オルガが頷く。


「固まった泥を、ふやかすんだね」


コピが補足する。


「はい。春戻りの泉の閉塞は、鉱物層と植物片が絡んでいます。急に剥がすと噴出します。少量の冷水で外縁から湿らせ、圧力を逃がす小さな道を作ります」


シオンが泉を見た。


「水を戻すのに、水を使うのか」


カナタが答える。


「少しだけね」


その言葉に、全員が少しだけ笑った。


この高原では、何度も同じことを学んでいる。


少しだけ。


止めすぎず、流しすぎず。


必要な場所へ、必要な量だけ。


作業は昼前に始まった。


貯水池の上澄みは使えない。


家畜用に残す必要がある。


そこで、旧氷室道の冷却支流から、余剰分の冷水をほんの少しだけ運ぶことにした。


もちろん、氷室の冷却を乱さない量だけ。


ネーヴェが歌の記憶をもとに、使ってよい間隔を教える。


ユオが流量を管理する。


カナタが記録する。


シオンは水桶を担いだ。


「俺が運ぶ」


カナタがすぐ言う。


「こぼさないで」


「分かってる」


「記録に残るからね」


「脅すな」


オルガが笑う。


「水運びで喧嘩できるの、逆にすごいね」


春戻りの泉では、耳石の周りに浅い溝を作った。


中心へ向けて掘らない。


外側から、石柱同士をつなぐように。


そこへ、冷たい水を少量ずつ流す。


水はすぐに消えた。


地面へ吸われ、耳石の下へ染み込む。


最初は何も起こらなかった。


シオンが焦る。


「効いてるのか?」


コピが答える。


「まだです。変化には時間が必要です」


「また時間かよ」


カナタが言った。


「焦って壊すよりいい」


シオンは言い返さなかった。


しばらくして、一つ目の耳石から泡が上がった。


ぽこ。


泉の中心ではない。


外側の石柱の穴からだ。


カナタが目を輝かせる。


「反応!」


コピが数値を読む。


「外縁水路の通気を確認。閉塞部の一部が湿潤し、圧力の逃げ道が形成されつつあります」


リリィは泉を見た。


中心の湿りは少し広がっている。


だが、噴き出してはいない。


ゆっくり。


本当にゆっくり、泉が息をし始めている。


ネーヴェが小さく歌う。


「春戻りは、掘るな。耳石を立てて、息を聞け……」


ユオはその歌を黙って聞いていた。


彼が青火で無理に起こそうとした水は、こんなふうに少しずつ起こすものだったのかもしれない。


午後になると、泉の外縁に薄い水の筋が現れた。


透明に近い。


青火の水のような光はない。


コピが採水する。


「鉱物成分、低。濁度、低。ただし飲用判定には追加検査が必要です」


牧草地の代表が通信越しに息をのむ。


『飲める水の可能性があるのか』


「可能性です。まだ使用しないでください」


カナタがすぐ記録した。


春戻り外縁水、低濁度。飲用判断保留。


シオンが小さく言う。


「本当に戻るかもしれないな」


カナタも頷く。


「うん。でも、まだ一筋だけ」


「一筋でも、水だ」


その言葉には、谷下で水が届かなかった時間の重みがあった。


リリィは二人を見た。


上の水。

下の水。


別々に見えていたものが、少しずつ同じ場所へ向かっている。


だが、安心するには早かった。


三つ目の耳石が、突然低い音を出した。


ごぼっ。


今まで無音だった耳石だ。


コピの表情が変わる。


「三番耳石で圧力急上昇」


オルガがすぐに叫ぶ。


「離れて!」


泉の中心ではなく、三番耳石の周囲が膨らんだ。


土が持ち上がる。


リリィはすぐに判断した。


「水を止めて!」


シオンが桶を倒しそうになりながら止まる。


カナタが記録板を抱えて下がる。


三番耳石の周りに、小さなひびが走った。


だが、破裂はしなかった。


コピが数値を確認する。


「圧力上昇、停止。外縁水路の一部が詰まり、流入水が偏った可能性があります」


カナタが息を吐く。


「一つの石だけ、通りが悪い……?」


「はい。特に三番から北側、欠落した耳石方向に流れが偏っています」


リリィは北側を見る。


抜かれた耳石の跡。


そこへ水が向かっている。


けれど、受ける石がない。


だから圧力が逃げられず、三番に戻ってきたのだ。


「抜かれた耳石が必要なんだ」


シオンが呟いた。


カナタも頷く。


「欠けたまま起こすと危ない」


コピが地図を更新する。


「春戻りの泉を安全に再起動するには、欠落耳石の復旧、または仮耳石の設置が必要です」


オルガが肩を回す。


「つまり、抜かれた石を探す?」


「はい」


ファルコンが上空から周囲を確認する。


「北側の足跡は、旧測候小屋方面へ続いている」


リリィは息をのんだ。


また、旧測候小屋。


ユオたちが使っていた場所。


だが、足跡は彼らとは一致しない。


カナタが記録板を閉じる。


「旧測候小屋に戻るしかない」


シオンも頷く。


「抜いた奴が、石を持っていったならな」


ユオが通信で言った。


『俺たちは耳石を抜いていない』


その声には焦りがあった。


『測候小屋は使った。でも、春戻りの泉の耳石は知らなかった』


カナタは少し黙った。


以前なら疑ったかもしれない。


でも今は、すぐに責めなかった。


「分かりました。確認します」


夕方。


春戻りの泉は、一旦休ませることになった。


水を入れ続けない。

中心を掘らない。

三番耳石の圧力を監視する。

外縁水は小さな器に受け、成分を確認する。


泉は少しだけ息をした。


透明な水も、ほんの一筋だけ出た。


けれど、欠けた耳石がなければ、安全に起こせない。


リリィたちは北側の足跡を追った。


足跡は草地を抜け、岩場を回り、旧測候小屋の裏へ続いていた。


小屋の表ではなく、裏。


崩れた壁の下に、古い地下倉庫の扉があった。


ファルコンが上空から言う。


「ここは昨日見ていない。屋根の影で隠れていた」


オルガが扉を確認する。


「最近、開けた跡がある」


シオンが低く言う。


「耳石、ここか」


扉は重かったが、壊れてはいない。


コピが安全を確認する。


「内部空気、問題なし。ただし足元注意」


リリィたちは中へ入った。


地下倉庫は狭い。


古い測定器。

壊れた風向計。

丸められた地図。

そして、奥の棚に、石柱が置かれていた。


穴の開いた小さな石。


春戻りの泉から抜かれた耳石だ。


カナタが駆け寄ろうとして、足を止める。


「……罠は?」


オルガが少し感心した顔をする。


「成長してる」


コピが棚を調べる。


「罠は確認されません。ただし、石柱の下に紙片があります」


リリィが紙片を取る。


そこには、短い文字が書かれていた。


春戻りを起こすな。

第三出口が開けば、眠り湖の底も開く。


カナタが息をのむ。


「どういうこと……?」


コピが解析しようとした、その時。


地下倉庫のさらに奥で、何かが動いた。


小さな影。


人だ。


オルガがすぐに前へ出る。


「誰!」


影は棚の陰から飛び出し、裏口へ走った。


シオンが叫ぶ。


「待て!」


その人物の外套には、雪室番の紋とは違う印があった。


丸い湖の下に、縦線が一本。


コピが低く告げる。


「未確認の紋章です」


リリィは逃げる背中を見た。


春戻りの泉を起こすな。


第三出口が開けば、眠り湖の底も開く。


この高原には、雪室番とは別に、眠り湖を知る者たちがいる。


そして彼らは、春戻りの泉の復旧を止めようとしていた。

第115話では、春戻りの泉を直接掘るのではなく、周囲に残っていた「耳石」を使って、泉の状態を聞く方法を試しました。


ネーヴェの口伝から、


「春戻りは、掘るな。耳石を立てて、息を聞け」


という古い知識が戻ります。


少量の冷水を外縁水路へ流した結果、泉はわずかに反応し、透明に近い水が一筋だけ戻りました。


しかし、北側の耳石が抜かれていたため、圧力が偏り、安全に再起動できないことも分かります。


足跡を追うと、旧測候小屋の地下倉庫に抜かれた耳石が隠されていました。


さらに、そこには、


「春戻りを起こすな。第三出口が開けば、眠り湖の底も開く」


という紙片が残されていました。


次回は、逃げた人物と、雪室番とは別に眠り湖を知る者たちの存在を追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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