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調和の守護者 リリィ&コピ第四部  作者: マスター


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13/24

第114話 眠り湖は、空ではなかった

第113話では、季節水源の主制御扉が勝手に開くのを防ぐため、冷却支流を使いました。


ネーヴェが覚えていた雪室番の歌、


「冷たい水を、少しだけ」


を手がかりに、断続的な冷却で扉の自然開放はひとまず遅らせることができました。


しかし、その結果、扉の下から季節水が漏れ始め、さらに下層には未記録の地下湖がある可能性が見えてきます。


第114話では、その地下湖が高原の水循環にどんな役割を持っていたのかを調べます。

地下深くから響いた音は、一度きりではなかった。


ごおん。


氷室の床が、かすかに震える。


カナタは記録板を握ったまま動けなかった。


「地下湖が……鳴ってる?」


コピが表示を確認する。


「下層地下湖の水位変動と同期しています。空洞内で水面が上下し、圧力音が発生している可能性があります」


オルガが氷の床を見下ろす。


「下に湖があるって分かったとして、まさか降りるとか言わないよね?」


シオンが口を開きかけた。


オルガが先に指を差す。


「言わないよね?」


「……言ってない」


「顔が言ってた」


リリィは小さく息を吐いた。


降りるのは危険だ。


氷室の床は薄い場所がある。

主制御扉はまだ不安定。

青火の反応も完全には消えていない。


下手に近づけば、季節水源そのものを壊しかねない。


「直接見に行かない」


リリィが言った。


「でも、聞く」


カナタが顔を上げる。


「聞く?」


コピが頷く。


「音響測定です。床を叩くのではなく、既に発生している水音と反響を記録します。地下湖の広さ、深さ、出口の位置を推定できます」


ネーヴェが小さく言った。


「雪室番は、湖を“眠り湖”って呼んでたと思う」


ユオが妹を見る。


「そんな名前、記録にはなかった」


「歌にあった。眠り湖は、春まで息をひそめる。起こす時は、三つの出口を先に聞けって」


カナタがすぐに記録する。


「眠り湖。三つの出口」


シオンが眉を寄せる。


「出口が三つあるなら、なんで水が戻らないんだ」


コピが静かに答えた。


「そのいずれか、または全てが機能不全になっている可能性があります」


リリィは床の下を見た。


目には見えない。


けれど、そこには水がある。


高原を潤すはずだった季節水が、地表へ戻れず、下で動いている。


調査はすぐに始まった。


コピは小さな共鳴浮標を三つ用意した。


水へ落とすのではない。


床の亀裂から細い糸で吊るし、下の空洞へ音を送る。


音は小さい。


氷室を壊さないほどの弱い振動。


それでも、地下湖は応えた。


一つ目の浮標。


低い反響。


広い空洞。


二つ目。


短い反響。


岩壁が近い。


三つ目。


水の流れるような反響。


コピが解析する。


「地下湖は北東から南西へ細長い形状。少なくとも三方向に水路反応があります」


カナタが地図に線を引く。


「北東、南西、それと……下?」


「はい。下層へ落ちる垂直系の水路反応があります」


シオンが顔をしかめた。


「水がさらに下へ落ちてるのか」


「可能性があります」


ユオが黙り込んだ。


彼は水を起こそうとした。


しかし、その水は地表へ戻るのではなく、さらに下へ逃げているかもしれない。


「俺たちが青火を入れたせいか」


リリィは首を横に振った。


「まだ分からない。でも、前から出口が弱っていた可能性もある」


コピが過去の水位推定を表示する。


「貯水池の急低下、谷下の地下圧上昇、青火水門の圧力変化。これらは全て、地下湖の水位変動と連動している可能性があります」


オルガが頭を押さえた。


「つまり、全部の下にこの湖がいる?」


「かなり大きな要因です」


カナタは地図を見た。


貯水池。

分水室。

青火の水門。

葦鳴き谷。

谷下集落。

旧氷室道。


すべての線が、眠り湖へ向かっている。


「中心はここだったんだ」


カナタが呟いた。


ネーヴェが小さく頷く。


「でも、中心は触っちゃだめって教わった。先に出口を聞けって」


その言葉で、方針は決まった。


湖を開けるのではない。


出口を探す。


三つの出口。


一つ目は、貯水池へ戻る雫の道。


二つ目は、葦鳴き谷へ向かう湿原の道。


三つ目は、まだ不明。


コピが言う。


「未確認の第三出口を特定できれば、水がどこへ消えているか分かる可能性があります」


ファルコンが上空地図を広げる。


「地下湖の南西方向には、地表に古い窪地がある。今は乾いた草原だ」


高原道の老人が息をのむ。


「そこは、昔“春戻りの泉”と呼ばれていた」


カナタが振り向く。


「春戻りの泉?」


「春になると、雪解けより少し遅れて水が湧いた場所だ。今は枯れている」


シオンが低く言う。


「そこが第三出口か」


リリィは頷いた。


「見に行こう」


ただし、すぐには動けなかった。


氷室の中では、まだ冷却支流の断続操作を続ける必要がある。


八秒流し、二十二秒止める。


この間隔を外すと、扉が温まりすぎるか、退路が凍り始める。


カナタは時計を見て、シオンへ指示を出す。


「次、三秒後」


「分かってる」


「一、二、三。開けて」


シオンが氷片をずらす。


細い冷水が流れる。


「止めて」


シオンが戻す。


二人の息が合い始めていた。


ユオはそれを見て、ぽつりと言った。


「俺は、一気に起こそうとした」


リリィは答えた。


「水は、起こされるのが嫌だったのかもね」


「嫌、か」


「うん。急に揺さぶられたら、誰だって暴れる」


ユオは苦い笑みを浮かべた。


「雪室番の末裔なのに、水の起こし方も知らなかった」


ネーヴェが首を振る。


「兄さんだけじゃない。私も、歌を全部思い出せなかった」


カナタが記録板から顔を上げる。


「だったら、今から全部集める。記録も、歌も、言い伝えも、地図も」


シオンが小さく言う。


「谷下のこともな」


「もちろん」


その答えは、もう迷わなかった。


昼前。


氷室の応急冷却は、ユオとネーヴェ、そしてカナタが交代で続けることになった。


リリィ、オルガ、ファルコン、シオンは、春戻りの泉を確認するため外へ向かった。


カナタも行きたがったが、今回は残った。


「ここを記録する人が必要だから」


そう自分で言った。


シオンは少し驚いた顔をした。


「来ないのか」


「行きたい。でも、今はここ」


「……そうか」


それだけ言って、彼は目をそらした。


春戻りの泉は、北斜面から少し下った草原にあった。


地図には載っていない。


ただ、老人の記憶と、地下湖の反響だけが頼りだった。


そこは一見、ただのくぼ地だった。


乾いた草。

割れた土。

石で囲まれた小さな跡。


水はない。


シオンがしゃがみ込む。


「本当に泉だったのか?」


ファルコンが上から言う。


「周囲の草の色が違う。昔は水があった可能性が高い」


コピが地中反応を測る。


「地下浅層に空洞。さらに下に水流反応。ただし、出口が塞がっています」


リリィが土を見る。


泉の中心には、白い鉱物と黒い泥が混ざって固まっていた。


青火の白ではない。


もっと冷たく、硬い層。


「詰まってる?」


「はい。鉱物沈着と泥炭化した植物片による閉塞です」


オルガが周囲を見る。


「掘る?」


「直接掘削は危険です。出口周辺の土が空洞化しています」


また、触れない。


でも、見つけた。


眠り湖の第三出口。


春戻りの泉。


本来なら、季節水を少し遅れて地表へ戻す場所。


ここが詰まっているなら、水は地表へ出られない。


貯水池へ戻る道も弱り、湿原へ向かう道も壊れ、第三出口も塞がっている。


季節の水が戻らない理由が、ようやく形になり始めた。


シオンが拳を握る。


「じゃあ、ここを戻せば……」


コピが遮る。


「戻せる可能性はあります。ただし、詰まりを急に抜けば、地下湖の水が一気に噴出する危険があります」


オルガがため息をつく。


「また少しずつ案件」


リリィはくぼ地を見つめた。


「でも、ここが希望だと思う」


貯水池は吸い込む。

葦鳴き谷は崩れやすい。

青火の水は危険。


でも、春戻りの泉は、本来地表へ水を戻す出口だった。


ここを安全に起こせれば、高原に飲める水を戻せるかもしれない。


その時、シオンが地面の端で何かを見つけた。


「おい、これ」


そこには、小さな杭が打たれていた。


新しい。


木の表面に、削った文字がある。


コピが読み取る。


第三出口、閉塞確認。

開放不可。

青火による上部起動へ変更。


リリィの表情が変わった。


誰かは、ここを先に見つけていた。


春戻りの泉が詰まっていることを知っていた。


だから、青火で上から季節水源を起こそうとした。


シオンが低く言う。


「ユオたちか?」


「可能性はあります」


コピが答える。


だが、リリィは違和感を覚えた。


ユオたちなら、なぜこの杭を残したのか。


なぜ記録筒ではなく、こんな簡単な杭なのか。


その時、ファルコンが上空から鋭く言った。


「待て。泉の外側に足跡がある」


「足跡?」


「小さくない。大人のものだ。しかも、複数」


コピが照合する。


「ユオ、ネーヴェ、シオン、カナタとは一致しません」


オルガが眉を寄せる。


「また別の誰か?」


風が草原を抜けた。


乾いた春戻りの泉の底から、かすかな音が聞こえた。


ぽこ。


水泡のような音。


リリィが息をのむ。


泉の中心に、小さな湿りが生まれていた。


地下湖の水位変動に反応している。


眠っていた出口が、わずかに動き始めている。


コピが警告する。


「春戻りの泉、地表湿潤を確認。閉塞部の圧力上昇が始まっています」


シオンが顔を上げる。


「噴き出すのか?」


「可能性があります。ただし、時期と規模は不明」


リリィは泉を見つめた。


ようやく見つけた希望の出口。


でも、それは今にも暴れ出すかもしれない出口でもあった。


そして、そこにはユオたち以外の足跡が残っている。


誰かが、この場所を知っていた。


誰かが、ここを諦め、青火による上部起動へ切り替えた。


その誰かは、まだ姿を見せていない。

第114話では、季節水源のさらに下にある未記録の地下湖を「眠り湖」として確認しました。


ネーヴェの口伝から、眠り湖には三つの出口があることが分かります。


貯水池へ戻る雫の道。

葦鳴き谷へ向かう湿原の道。

そして、第三出口である「春戻りの泉」。


リリィたちは直接地下湖へ降りるのではなく、音響測定と口伝を組み合わせて、第三出口の位置を探りました。


春戻りの泉は、かつて季節水を地表へ戻す出口でしたが、現在は鉱物と泥炭化した植物片で塞がっています。


そこを安全に起こせれば、高原へ飲める水が戻る可能性があります。


しかし、その場所には既に誰かが調査した痕跡があり、


「第三出口、閉塞確認。開放不可。青火による上部起動へ変更」


という杭が残されていました。


さらに、ユオたちとは違う複数の足跡も見つかります。


次回は、春戻りの泉をどう安全に起こすか、そしてユオたち以外に古い水路を知っていた人物は誰なのかを追います。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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