第四十三話:勝負師たちの夜
レクセリアでの二日目の朝。
……だというのに、この街は夜明け前からの喧騒を引きずったまま、既に手の付けられないほどの活気に満ち溢れていた。
窓の外からは、朝帰りの酔客をターゲットにした楽団の軽快な演奏が響き、運河沿いでは朝酒を煽る旅人たちの豪快な笑い声が弾けている。中央市場はすでに仕込みの熱気で動き出しており、街全体が一時も眠ることなく呼吸を続けていた。
「……なんなんですか、この街は……。夜中まで地鳴りみたいにうるさかったのに、なんで朝からこんなに元気なんですか……」
宿の一室で、ノイルが机に完全に突っ伏したまま、半死半生の声で呪詛を吐いていた。枕で耳を塞いでも無駄だった悪夢の夜の疲労が、その背中に重くのしかかっている。
一方で、龍馬はといえば、恐ろしいほどに元気そのものだった。
豪快に窓を開け放ち、朝の眩しい光を浴びながら上気した顔で笑っている。
「ははは! まっことええ街じゃのう! 朝から晩まで、命の音が鳴り止まんき!」
「朝から元気ですね龍馬さん。少しは疲れって言葉を知って欲しいんですけど」
呆れたような声とともに、部屋に入って来たランセルは人数分のコーヒーを差し出した。
「さて、二日目のレクセリアを満喫する前に、まずは仕事の片付けです」
ランセルの言葉を合図に、宿の一室で静かに分厚い帳簿を開いた。今回の旅における、行商の総決算の始まりだった。
ランセルが羽ペンを走らせながら、これまでのカネの流れを整理していく。
「今回の我々の行商は、完全な‘現地売り切り方式’です」
ランセルが指先で地図をなぞる。
「まず、ガルガドで仕入れた上質な毛皮を、最初の街『ガラン』で全て売り払いました」
「ありゃあ巧くやっちょったのう」
「食事が最高でしたよね~」
「そこで得た利益で今度はガランの海産加工品を仕入れ、それを大需要地である『王都』で高く売り捌いた」
「私はまた王都に行きたいです!あの壮大さといったらもう」
「ちょお息苦しかったがのう」
「そうですかぁ?」
「さ!ら!に!……王都の洗練された流行品を、軍事都市『アーデルハイト』へと持ち込んで軍人や貴族に売り、そこで手に入れたドワーフ製の高級装飾細工を、ここ『レクセリア』の市場に流した。ここまではいいですね」
「「――はい」」
「……よろしい。荷馬車一台という限られた容量だからこそ、在庫を抱えず、旅先ごとに商品を入れ替える回転効率を最優先した結果です」
その総決算の結果、手元に残ったのは、これまでの旅で得た莫大な純利益――見たこともないような金貨の山だった。
そしてランセルは、その金を使ってすでに次の仕込みを終えていた。
今回レクセリアで仕入れたのは、大陸西方の海洋国家から流れ着いた『渡来の魔導具』の数々。
他国製の精巧なランタン、食材の鮮度を保つ魔力式の保存箱、夏の旅には欠かせない小型冷却具に、異国の便利な生活道具、そして狂いなく時を刻む魔力式時計。
これらはどれも、出発地であるガルガドへ持ち帰れば、間違いなく高値で取引される最高級の品々だった。
その見事な手際に感心していた龍馬だったが、ふと疑問に思ったことを口にする。
「のう、ランセル。一つ気になったがじゃが、レクセリアほどの都市なら、なんで今回の装飾品を『商業ギルド』の息がかかった大商館へ流さんかったがか? あそこに一括で売れば、もっと楽だったろうに」
すると、ランセルはフッと悪戯っぽく笑って首を振った。
「龍馬さん。このレクセリアという街においては、大陸規模の巨大な商業ギルドのシステムは、少し『古くて遅い』のですよ」
「古い?」
「ええ。この街は流行り廃りの速度が尋常ではありません。ギルドが書類を回して価格を審議している間に、流行は次のものへと移り変わってしまう。その目まぐるしい変化に一番敏感なのは、組織のしがらみがなく、小回りの利く地元の中規模商会なんです」
「『今の』流行っちゅうやつか」
「はい。だから私はギルドを通さず、昔から付き合いのある信頼できる商会へ直接荷を流しました。その方が、結果として何割も高く売れるのです」
「ふぅ〜む……なるほどのう。『街々、いうことかのう』」
龍馬は深く納得したように腕を組んだ。
世界には、どこにでも通用する一律の「正しい商売の形」など存在しない。王都には王都の、アーデルハイトにはアーデルハイトの、そしてレクセリアにはレクセリアの、その土地の呼吸に合わせた最適な商売の形がある。
龍馬の中で、この広大な世界の仕組みへの理解が、また一歩深く進んだ瞬間だった。
昼時、龍馬はベルノの「仕事」へ同行することになった。
レクセリアという華やかな歓楽都市の、いわば“昼の裏側”の視察である。
ベルノが統括するガーグファミリーのシマを歩けば、その仕事の多面さに驚かされる。
商店や劇場を守る用心棒の配置。
街の不穏な動きを察知する情報屋からの定時報告。
大賭博場の売上管理。
小競り合いを起こした荒くれ者どもの揉め事仲裁。
他国からの密輸品の監視。
そして縄張りの維持――。
「まぁ、ココじゃあウチも一角に過ぎねぇからな」
「混ざるっちゅうんはそがなもんやろ」
そこで龍馬が見たのは、レクセリアは決して「無法地帯」ではないという事実だった。ここには国法とは別の、裏社会が敷いた絶対的な「法」が生きていた。
さらに龍馬を驚かせたのは、ベルノが見せた意外な一面だった。
細い路地裏に入れば、親のない孤児たちへ無造作に温かい飯を配って回り、大通りで一般の観光客に暴力を振るおうとしたタチの悪い酔っ払いを一言で震え上がらせた。
裏市場のさらに隅っこで、人の精神を完全に破壊するような悪質な禁制薬を売り捌こうとしていた密売人どもを、徹底的に叩き潰していた。
その一切の容赦のない、しかし妙に筋の通ったやり口を見て、龍馬は呆れたように笑った。
「おまん、思ったより随分と真面目な仕事をしゆうのう。裏社会のヤクザもんじゃき、もっと非道なことばかりしゆうかと思っとったぜよ」
ベルノは煙管の灰をトントンと落とし、冷徹な目で路地裏を見据えた。
「勘違いするな、龍馬。綺麗事でやってるわけじゃねぇ。この街は『自由』が売りだ。だがな、何でもありの無法にすりゃあ、街は一瞬で腐って誰も寄り付かなくなる。どこかで厳格に『線引き』をしねぇと、この巨大な金のなる木は維持できねぇんだよ」
その言葉の重みに、龍馬は「なるほどのう」と静かに頷いた。自由を守るための、裏社会なりの執念がそこにはあった。
夕方、一行は少し落ち着いた開けた酒場へと集まっていた。
冷たいエールを喉に流し込みながら、ランセルがふと、現実的な旅の日程を切り出す。
「さて、レクセリアでの売り買いも無事に片付きました。そろそろ、我々のホームであるガルガドへ戻る準備を始めませんとね」
「ガルガドかぁ~。あぁ、なんかテラダ屋のお風呂が恋しくなってきましたね」
「まぁあの浴槽には私も驚きましたよ。木で出来た浴槽なんてアリアンロッド大陸でも『テラダ屋』だけでしょうからね」
「でも温まるんですよね~あれ」
「アレはウチの娼館にゃあ使えねぇからなぁ」
「気ぃ抜け過ぎて客が使いもんになんなくなっちゃ困ろうしな!」
「「「それな」」」
皆で笑いながら、旅の終わりをまじかに感じていたのだった。
ひと頻り笑いが収まった頃、ベルノがふっと不敵な笑みを浮かべ、煙管の吸い口を龍馬へと向けた。個室の空気が、一瞬にしてピリリとした勝負師のそれに切り替わる。
「……さて。それじゃあ最後だ。お待ちかねだな、龍馬」
「おう?」
龍馬が目を細める。
「このレクセリアで、一番デカくて、一番極上で、一番イカれた‘遊び場’へ案内してやるよ。商売の決算で、懐には売るほど金があるんだろ?」
その挑発的な言葉に、龍馬の口元がゾクゾクとするような興奮で歪んだ。
「ほう……! 望むところじゃ。わしの金!毟り取れるもんなら毟ってみぃ!」
夜。ベルノに連れられてやってきたのは、レクセリアの頂点に君臨する組織の大賭博場だった。
そびえ立つ白亜の建物の内部は、目も眩むような魔導照明の光で満たされ、天井からは豪華なシャンデリアが吊り下がっている。
床には高級な絨毯が敷き詰められ、世界中の富豪や仮面をつけた貴族たちが、息を呑むような大金を賭けてテーブルを囲んでいた。
中央のステージからは妖艶な楽団の演奏が響き、ディーラーたちは見たこともないような鮮やかな手つきでカードやサイコロを操っている。
そして何より、テーブルの上に文字通り‘山積み’にされた、眩いばかりの金貨の山が、人間の欲望をこれでもかと煽り立てていた。
「なんじゃここぁ!! カネが、カネが生き物のように飛び交いよる!!」
龍馬は完全に目を輝かせ、その圧倒的な光景に大興奮していた。
その子供のようなはしゃぎっぷりに、ベルノは腹を抱えて爆笑した。
「ハハハ!! そうだろ! これがレクセリアの心臓部だ! さぁ、軍資金を全部ぶち込んで、派手に踊ろうじゃねぇか!」
最初は、場の雰囲気を楽しむように普通にサイコロやカードのゲームに興じていた龍馬だったが、いくつかのゲームをこなすうちに、その鋭い瞳の奥に冷徹な光が混ざり始めた。
サイコロがカップの中で転がる、わずかに不自然な高低の音。
ディーラーがカードを配る際の、ほんの一瞬の指運びのブレ。
隣の客と目線を交わす、受付の男の不自然な視線の動き。
(……なるほどのぅ、そういうカラクリか)
龍馬は全てを見抜いた。目の前のディーラーたちは、客の勝ち分をコントロールするために、極めて精巧な「イカサマ」を行っていたのだ。
普通ならここで激怒するか、席を立つところだが――龍馬は違った。彼は口元を楽しげに吊り上げると、隣のベルノにだけ聞こえる声で囁いた。
「……ベルノ。おんしらの身内の店かどうかは知らんが、ここの連中、随分と派手にやりよるのう」
ベルノは驚く風でもなく、ニヤリと笑って応じる。
「身内じゃねぇがな。ま、カジノじゃあ、バレなきゃ‘技術’の内だからな」
「ははは! そりゃあ面白い!」
龍馬は笑いながらベルノと共にルーレットの卓に腰掛けるや、ベルノの肩に手を回す。
「いやぁ、ここはまっこと楽しいのう『親友!』わしゃ、初めて来たが、こんな場所もあったがよ!」
「お前っ…………ふ、まあここはこの都市一番の店だからな」
「ほうか!やっぱりのう」
ディーラーは一瞬目を細めたが、なんの動揺も見せず「どうぞ」と声を掛け、卓に置かれた砂時計の砂を落とし始める。
金貨が置かれ盤が回る。
やがて白玉が転がされると、金貨の動きが加速する。
砂時計の砂が落ち切った時、ディーラーは「ここまでです」と静かに手を振り金貨の動きを制する。
そして皆が注視する中、白玉はカラカラと音を響かせ、やがて盤の数字へと納まり停まる。
「おっしゃあ!」
龍馬の喜声の元に、配当の金貨が押し出されてくる。
僅かな余韻の中、何事も無かったかのように「どうぞ」と皆に次を促すディーラーの声が広がり、更なる熱が金貨を動かした。
そして3度ほどの『幸運』を得た龍馬は嬉しそうにベルノに笑みを向けるが、それはどこかイタズラめいていた。
「しっかし今夜は『ツイいちょる』のう!まぁ大勝ちたぁ言わんが、わしゃこんなに勝ったのは初めてかもしれんちゃ」
「はは。その割には慣れてそうだがな?ほら、またお前の勝ちだ」
「ん!おぉ!かかか!最高じゃ」
既には金貨100枚を超えた。
「どうぞ」
平常運転のディーラーは砂時計の砂を落とし始める。
「よし!今日はイケる!全部ぶっこみじゃ!」
龍馬は全てのオールインを示す一枚のマークを場に置いた。
おお!とどよめく周囲は、面白い!とばかり自分達も先ほどとは違う本気の金貨を置き出した。
盤が回り、ディーラーが白玉を摘まんだ時――
「いやあ、しっかし何処の誰かは知らんが、おまんと『今夜出会えた』んは女神様の思し召しじゃなぁ!おまん!名ぁは何ちゅうがよ!」
刹那、ほんの一瞬、ディーラーの指が止まった、かの様に見えた。
「ふん。今更かよ。俺はベルノってモンだよ」
「ほうかほうか!ベルノちゅゆがか!ええ名前じゃ!」
ディーラーが白玉を転がし、カラカラと盤の上を転がる中。
「ほいじゃぁのう、ベルノ。わしの名前は――」
龍馬は指でマークを摘まむと。
「――坂本龍馬じゃ」
パチン。とたった一つの緑枠。『0』に置いて不敵に笑った。
『0』
赤でも黒でも無い―緑―。それはディーラーの一人勝ちのポケット。そこに入ればディーラーが勝つ。ただし、そこに賭けているプレーヤーが居た場合には――
コトン、と『0』に球が停まる。
「わしの一人勝ちじゃなあ」
「くくく……くはははは!やるじゃねぇか龍馬!こいつぁ最高だぜ!」
呵々大笑。
実に爽快な「イカサマ返し」にベルノは涙を浮かべて爆笑していた。
龍馬はこのディーラーは自分の望んだ場所に『入れられる』ことに気が付いていた。
だから殊更に大きくベルノを『親友』と呼んで様子を見た。
すると勝てた。連続して勝てた。
赤だけ、偶数だけ、と連勝しても不思議でない賭け方で勝てた。数字に賭けても勝てた。
だからこそ龍馬は確信を持って、ベルノと『今夜出会えた』事を祝って、言い放って有り金を賭けた。
だからディーラーは『0』に入れる決断をしたのだ。ベルノと『今夜出会った』という、ベルノの『親友』では無かった男の稼いだ全てを奪う『0』に。
龍馬の前のテーブルには、金貨の山が築き上げられていった。
「おい、あいつ何者だ!?」
「信じられん、あのディーラー相手に全勝だと!?」
会場内は、地鳴りのような大騒ぎに包まれていた。
当然、そんな異常事態を賭場側が黙って見過ごすはずがなかった。
「――お客様。少々、お話が。裏の特別室へご案内いたします」
支配人と思しき男と目の死んだ屈強な男たちに囲まれ、龍馬は楽しそうに笑みを漏らす。
「なんじゃ? 遊びの続きか?」
龍馬は金貨を袋に放り込みながら肩に担いだまま、ケラケラと笑った。
「特別室でワンランク上の遊びを提供させていただき――」
支配人の言葉が終わるより先に、龍馬の身体が動いていた。
「堅苦しいのは抜きじゃ!」
ドンッ!! と豪快な音を立てて、龍馬が近くの重い木製の椅子を蹴り飛ばす。椅子は宙を舞い、正面の男二人の顔面に直撃した。
それを合図に、カジノの中で大乱闘が勃発する。
テーブルが真っ二つに割れ、投げ飛ばされた男たちが壁に激突し、ポケットから溢れたチップが火花のように空中を舞い散る。
「おいおい、随分派手にやってくれるじゃねぇか!」
ベルノもまた、呆れながらもその目に狂気的な光を宿し、襲いかかってくる男たちの懐へ飛び込んでは、容赦のない拳と蹴りで次々と昏倒させていく。
最高に息の合った悪友コンビの暴力が、部屋中の男たちを圧倒していった。
だが、さすがにプライドを潰された賭場側も、完全に正気を失った。
「ガーグの!貴様俺達とコト構えるってのか!」
「馬鹿野郎が。そっちが勝手に勘違いして絡んできてんだろうが。俺ぁ降りかかる火の粉を払ってるだけだ」
「薄汚い田舎者が、調子に乗るなァ!!」
一人の男が、ついにレクセリアのタブーを破り、ギラリと輝く本物の「真剣」を龍馬に突きつけた。場の空気が、一瞬にして命の奪い合いのそれへと凍りつく。
しかし、龍馬はその刃を前にしても、なおも愉快そうにニヤリと笑った。
「おいおい。店の中で本物の刃物を抜くたぁ、そりゃあ野暮じゃろうが」
ベルノは迫り来る剣を紙一重でかわし、男の顎に強烈なアッパーを叩き込みながら叫ぶ。
「どうだ龍馬! この街の『遊び』ってやつは刺激的だろうが!」
「ははは!! まっこと、最高にゾクゾクする街ぜよ!!」
龍馬はベルノに視線を向けると
「わしはここ等でドロンじゃ!縁があったらまた会おうや!」
「さっさと失せろ、馬鹿野郎が!」
言うや、部屋の奥にある巨大なガラス窓へと向かって突撃した。
ガシャァァァン!! と凄まじい音を立てて窓ガラスを突き破り、龍馬は夜のレクセリアの空中へと躍り出る。
しなやかに下の路地へと着地した彼は、追っ手の怒号を背に受けながら、爆笑しつつ夜の街を猛スピードで疾走し始めた。
「待ちやがれぇぇぇ!! ぶっ殺してやる!!」
後ろからは、十人以上のカジノの用心棒たちが松明を掲げて追いかけてくる。
全力で走り抜け、街の中央を流れる巨大な石橋の上へと差し掛かったその時――。
橋の下の暗がりから、一台の荷馬車が猛烈な勢いで飛び出してきた。
御者台には、冷や汗を流しながら手綱を握るノイルと、顔を真っ白にして絶叫しているランセルの姿があった。最初から、龍馬はこうなることを見越して待機させていたのだ。
「飛ばしぃやノイル! 捕まるとまっこと面倒じゃぞ!」
「何をやったんですか、龍馬さんはァァァァ!!」
ノイルの魂の絶叫が、夜のレクセリアの空に木霊した。
一方、龍馬が逃げ出したあとの、騒然とした大賭博場。
割れたガラスと倒れた男たちの真ん中に、一人の「大男」が影のように静かに佇んでいた。その圧倒的な威圧感だけで、周囲の用心棒たちが一斉に直立不動になる。
王国裏社会。その中でも確固たる地位を持つガーグファミリーのボス――『ガーグ』その人であった。
ガーグは、窓の外の闇を見つめながら、隣に立つベルノへ低く問いかける。
「……あれがお前が言ってた?」
ベルノは煙管に再び火を灯し、窓枠に寄りかかりながら、フッと楽しげに笑った。
「あぁ。坂本龍馬だよ、オヤジ。面白ぇ男だろ」
ガーグはしばらく沈黙したあと、その厳つい口元をわずかに緩めた。
「……いい眼ぇをしてやがった」
夜の街道を、ノイルの駆る荷馬車が火花を散らすような勢いで爆走していく。
遠ざかっていくレクセリアの極彩色の光を背に受けながら、龍馬は荷台の上でひっくり返り、腹を抱えて心底楽しそうに大笑いしていた。
「ははは!! いやぁ、レクセリア! まっこと最高に面白い街じゃった!! さぁランセル、ノイル! このまま突っ走るぜよ!!」
龍馬の初めての行商は、こうして賑やかに幕を閉じた。
「ガルガドへ凱旋じゃあ!」




