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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#62 治世の能臣

 ***


 曹操と孔融は舞台中央で睨み合い、その空気はまさに一触即発と言わんばかり。

 そんな二人に、霊帝さまから声が掛かった。


「ほほ。二人とも血気盛んじゃの。……して、曹操。其方がそこまで言うのじゃ。もう詩はできておるのじゃろうな?」


 曹操はそのまま霊帝さまの真下まで歩み寄ると、片膝をついて申し述べる。


「はっ。もちろんここに。霊帝さま、“あれ”が詠んだのは“経文”……。されど、これは“詩”の大会でございます。今度は私が、“本物の詩”というものを献上させていただきましょうぞ」


 曹操の言葉に、孔融はやれやれと肩をすくめてため息。

「ずいぶん面白いのがいるわね」と何皇后も興味津々の様子だ。


「よいぞ曹操。其方の言う“本物の詩”とやらが、大言壮語でないことを朕に証明してみせよ」

「御意」


 そう答えると曹操は立ち上がり、マントを翻して舞台の中央に進む。


「徳のない“獣”に……本物の詩など詠めるものか」

 すれ違い様、孔融はそう言って彼に厳しい眼差しを向けると、ふんと鼻を鳴らして席に戻った。


 曹操が台上に立てば、会場はしんとして静まり返っていた。

 誰もがその声に耳を傾けているが、その目には疑いと期待の両方が浮かぶ。

 あの孔融の後だ。

 しかも、あんなに完成された詩を否定した彼が詠む詩が、いったいどのようなものになるのか誰も予想がつかない。


 曹操は霊帝さまに深く一礼。ゆっくりと両腕を袖から抜き取ると、右手を天に突き上げた。

 観衆は皆、その手が振り下ろされる先がいったいどこになるのか、息を呑んで前のめりになる。


 瞬間──曹操は振り返る。

 孔融を? 違う、彼が振り下ろした右手で射抜かれたのは、“観衆たち”であった。

 その鷹の眼光が、全ての観衆たちの心臓を握りつぶす。


『諸将よ! いまここに集いし漢の英雄たちよ

 我問わん “国家の安寧”は いったい何の上に成る 

 高祖の“鉄と血”か 官吏の描く“文の春”か 或いは 孔子の言う“徳”か!』


 曹操が一喝。

 その問いに、武官も文官も皆押し黙る。

 それぞれが自分の領分しか知らないために、誰も答えを知らないからだ。

 この衆前で恥をかくようなことはできない。誰も、袁術の二の舞にだけはなりたくなかった。


 曹操は続ける。


『諸将よ ここに集いし中華の子らよ

 我問わん 万事万世に栄えし国は何故なきや

 “血”が乾き“鉄”が錆びたからか “文の春”が終わったからか

 或いは 孔子の言う“徳”が 西陽とともに陸の底へと沈んだからか』


 何故だ? わからない。中華の国教はこの七百年変わることはない。

 しかしその間に王朝は四回も滅びた。

 そしていま、漢王朝も緩やかにその栄光に翳りが見え始めている。

 誰もが何故そうなっているか答えようがない。


『我が答えよう それ即ち ただ時が過ぎた故なり

 褪せた門を見たか 綻びた鎧を見たか 老いた兵を見たか それ即ち解なり


 “国家の安寧”は 常に“新しきもの”の上にこそ成る

 水をかえ 風を巡らせ 土を耕し 新しき“徳”を抱くべし

 これ即ち 漢に再び春巡り 我が君の天意を叶えるものなり』


 そこまで言い切って、曹操は再び孔融を見る。

「……何か反論は?」

 静かに放った一言に、しかし孔融は余裕の笑みを保ったままこう答えた。


「ふっ……。詩は“一度まで”と決められているのでな。“いま”は退く。だが、“次”は返す」


 その答えに、観衆たちがどっと湧き上がる。


「すっげぇぇぇぇえ!! あの孔融を黙らせたぞ!?」

「違う! 孔融どのは大会の規則に従ったまで。負けてはおらぬ!」


「すごい詩であったな!」

「ああ! とんでもない異端児だ。まさか王宮の翳りにまで直接一言物申すとは……」

「しかしたとえ“余興”とはいえ、あれでは霊帝さまも怒るのではないか?」


 徐々に騒ぎが静まると、会場に静かな笑い声が響く。


「ふふっ。ふふふふふ……」


 いったい誰だ? 誰もがその無邪気な笑い声に、一瞬なぜか心を奪われそうになる。

 観衆の視線が、一斉にその笑い声の方──壇上で腹を抱えて笑うその女に向く。何皇后その人に。


「あっははははは! おっもしろい! 曹操、あなた面白いわ! 袁紹よりも苛烈で、孔融よりもわかりやすい! 本っ当に……素晴らしい! 最高よ!」


 その賞賛に、曹操は深く腰を折って何皇后に一礼する。


「はっ。ありがたきお言葉」


 そのやりとりに、霊帝さまも立ち上がって拍手を送る。


「見事じゃ曹操。其方の言葉は朕のため、否、漢を誠に案じておる者の嘘偽りない弁じゃ。それに……」


 霊帝さまは、一瞬だが言葉を探す。その一瞬が、どこか人間臭く感じたのは、私だけじゃないはずだ。


「詩とはかくも情熱的で、美しいものなのだな。目が覚めたぞ。礼を言う」


 笑みを讃えた霊帝さまは、そう言って等身大の笑みを見せた。


 ***

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