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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#60 袁術

 ***


 袁紹の一句から会場の熱気は急上昇。観衆も参加者たちも堰を切ったように議論を始める。

 彼らの視線の先には、もちろん袁紹。若き英雄は、高めていた緊張をほぐすように息を吐いてから席に戻る。


 そんな彼と入れ替わるように、霊帝さまの前に進み出たものが一人。

 その顔は鼠のように細く尖り、目にはいやらしい笑みを浮かべている。


「霊帝さま、先ほどは従兄(いとこ)の袁紹が大変失礼を。あやつは歴代“三公”を輩出した我が袁一族でも、特に卑しい身分の出。剣でしか物を語れぬゆえ、あのような詩を詠んだのでございます」


「なんじゃ“袁術”。詩ができたのか?」


 進み出た鼠男の名は袁術。名門──袁家の現当主にして、袁紹の従弟。

 後年では常に強者に媚び、弱者に偉ぶる卑怯者という評価を受けているが……こいつの雰囲気はまさしくそんな感じだ。


「はい。できるも何も、“最初から”我が心は我が君に同じでございます」


「ほほ。よい。では早速詠め」

「はは」


 袁術はごほんと一つ咳払い。仰々しく袖口から腕を抜き取ると、その手には金色の読み札が握られている。

 彼はそのまま、声高らかに詩を詠み上げた。


『天下の泰平 これ即ち天子の差配の賜物なり

 中華の盤石 これ即ち漢朝の繁栄の帰着なり

 家臣一同皆 粉骨砕身して国家案ずるべし

 これ即ち我が臣民の栄誉にして 至上の務めなり

 いま国家の臣 一同に会して天上を仰ぎ見ることを許されむ

 嗚呼 これ即ち 至上の喜びなり』


「おお!」

「これは美しい……」

 思わず採点官たちの唸り声が漏れた。


 袁紹の作った不穏な空気を一気に掻っ攫う様な皇室への“美辞麗句”。

 袁術は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、席についた袁紹を見遣る。


「ほほ。良いのう袁術。実に良い」

「ありがとうございます」


 霊帝さまも上機嫌で袁術の詩を讃える。


「して、その美しい金の詠み札は、いったいどこから持ち込んだものじゃ?」

「はは。これは我が詩を霊帝さまに献上差し上げるため、職人たちに命じて、“事前”に用意していたものにございます」


「ふむ。其方の“意”は最初から朕と“同じ”。そう申したな」

「はい。その通りでございます」


 そこでふと、霊帝さまは顎に手をやる。


「……詠み札は良い。しかしまさか……“詩”まで“誰か”に作らせたもの……というわけではあるまいな?」

「め、滅相もございませぬ! これは我が本心。先ほどの霊帝さまの一句に感激し、いま急いで書き上げたものにございます」


「ほう……では、見せてみよ。墨が乾いておらんか、朕が見てやろう」

「……ぐっ」


 霊帝さまの命令に、袁術は一瞬喉を詰まらせた。


「わ、我が君……。墨で御身のお手を汚すのは、臣として避けるべきかと。そのご命令、謹んで辞退させていただきます」

「はて? 止めるのか? 其方は朕と同じ気持ち……と、つい先ほど申したではないか」


 止まらぬ追及に、袁術の顔はみるみるうちに青く染まる。

 会場の観衆からも、口々に戸惑いの声が上がった。


「おい……どういうことだ?」

「さあ? いま袁術殿が詠んだ詩は素晴らしかったぞ?」


「でも、よく考えると霊帝さまの詩には応えてないような気もする」

「じゃあここに来る前に作って来たのを詠んだってことかな?」


「まさか、それじゃあ競技にならないじゃないか」

「そんな訳があるか。三公を輩出した名家だぞ」


 ざわめきが大きくなると、やがて霊帝さまはその右腕をそっと前に伸ばした。

 その所作に、あらゆる者が息を呑んで袁術を見つめ、霊帝さまの言葉を待った。


「袁術、改めて訊こう。其方、いま詠んだ詩は──本当にいま“この場”で作ったものか? もし誰かの知恵を借り、それを己の手柄と偽って献じたのであれば……それは少々不敬であるぞ」


 霊帝さまの言葉で袁術の膝は笑い。額からは大粒の汗が滝のように流れている。

 それを見た何皇后がきゃっきゃとはしゃぐ。


「見て見て、お兄様。あの男、とっても焦っているわ。ほんと無様ね……。うふふ、最高よ!」

「こら、“何蓮(かれん)”! 少しは口を慎め。そのような言動、皇后としてふさわしくないぞ」

「だって〜。面白いじゃないの」


 何皇后と何進の話し声が聞こえてくる。

 何進はやれやれとため息を吐くと、立ち上がって霊帝さまに相対した。


「霊帝さま。ご無礼を存じて申し上げる。ご覧の通り、袁術は少々この場の雰囲気に当てられて参ってしまった様子。彼の詩は大変素晴らしいものでしたが、この様子だと決勝に進むのは難しいでしょう。ここは一つ、彼の詩の評価は一旦“保留”にする。ということで如何かと」


「ほほ。何進……それは名案じゃ。朕も熱くなりすぎた。そもそもこれは、宴の席の“余興”であったのう」


 袁術は、まるで彼の“英雄”でも見つけたような顔で何進を見ている。その目には涙がたまり、口元はふるふると震えていた。

 その様子を見た霊帝さまは、満足そうに頷いてそれを許した。


「よかろう。袁術、では退がれ。大義であった。誠に美しいその詩は、詠み札ごと宮廷に飾っておこうぞ」

「……はは。ありがたき幸せ」


 なんとかそう答えてその場に膝をつく袁術。

 そばに駆け寄った侍従たちに、両脇を抱えられて退がって行く。

 会場からは、拍手と歓声。もちろんその賞賛の先にいるのは霊帝さまと何進将軍だ。袁術ではない。


「袁術……」


 一部始終を見ていた袁紹が、少し悲しそうな顔で小さく呟いた。


「さて、いずれも良い詩であった。次に朕に詩を披露するのは誰じゃ?」


 霊帝さまがそう口を開く。そうだ、圧倒されている場合ではない。


(文姫! どう、何かいい句は浮かんだ?)

(ダメです全然思いつきません! こんな雰囲気じゃ、とてもじゃないですけどいつもの調子が……)


 文姫のいう通り、これは単純な“詩”の大会じゃない。ほとんど言葉の“斬り合い”だ。


(落ち着いて、深呼吸よ。政治や権謀がわからないなら、敢えてあの中に飛び込む必要はないわ。風流で攻めればいい。いつも通りでいいの。お母さまは女性なんだから)

(は、はい。頑張ってみます)


 なんとか作戦を口にしてみたが、こんな状況で文姫が落ち着いて詩を考えられるかは別問題だ。

 どうする……こんな時、いったいどうすればいい?


 私が頭を悩ませていると、会場の中央にまた一人──若い男が歩み出る。


「それでは、次は私が」

「ほほ。お主か、確か──」


「“孔融”にございます」


 ついに来た。

 孔融──予言の書にあった今大会の“優勝者”。

 その物腰は柔らかく、出場者の中でも特に落ち着いた雰囲気を纏っている。


「一句、よろしいでしょうか」


 彼の詩にヒントがあるかもしれない。この大会を切り抜ける重要なヒントが。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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