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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#59 予選、大波乱

 ***


 出場者たちがそれぞれの席についたのを見届けてから、司会は侍従に合図した。

 やがて会場に運び込まれたのは、大きな砂時計。


「それでは競技要領について細部補足する。制限時間は三十分。回答は、一人につき一回とする。この砂が落ち切る前に、霊帝さまの詩に応えるのだ。出来上がった者から、霊帝さまに献上せよ」


 回答は一度きり、参加者は十五人ほどいる。この時間内に全員が詩を読み上げるとすれば、少し時間が足らないかもしれない。それに考える時間も必要だけれど、会場の空気も大事だ。誰の後にどんな詩を詠むかで、その印象は大きく変わるのだから。


(ちょっと難しいわね)

(あうあう……この空気、何だか苦手ですう〜)

(文姫……)


 張り詰めた緊張感が、徐々に私たちを強張らせてくる。

 お母さまの横顔にはまだ余裕があるが、雰囲気に呑まれれば減点は避けられない。

 詩は歌でもある以上、詠み手の上手さは詩の評価にそのまま乗る。


(お母さまの様子にも注意しておかないと……)


「それではこれより予選を執り行う。本戦には、この中から上位三名が出場するものとし、予選の採点官は霊帝さま……」


 司会が次々に採点官となる者たちの名を読み上げる。名を呼ばれたものは立ち上がり、その場で一礼。

 “何進”の名が呼ばれた時には、武官たちが一斉に立ち上がって拍手を送る。

 続いて呼ばれた“王允”の時には、「あれが王佐の才の……」と、一部の文官たちから声が漏れた。


「……最後に、何皇后殿下!」


 何皇后は胸元を大胆に見せつけるように、ゆっくりと腰を折る。その視線は会場の男たちに熱っぽく注がれていて、自身の世話をする女官たちには目もくれない。


 これまで見てきた感じ、今のところ何皇后がお母さまに対して何か特別な感情を持っている様子はない。

 今大会唯一の女性参加者だけれど、その関心は女官たちに向けられたそれと然程変わらないように思えた。


 競技要領からして、全員に手番が回ってくるような形にはなっていない。

 これなら、敢えて“目立たない”こともできるのか? 私は一瞬頭を巡らせた。


 いや、予言にはお母さまが“大恥をかいた”と書いてあった。つまり、何かあるのだ。

 この催しの中に、お母さまを陥れる何かが……


「霊帝さま。それではまず一句、ご披露ください」


 司会が恭しく告げ、早足で後退する。

 霊帝さまは玉座からゆっくりと立ち上がり、両手を広げて詩を詠む。


『かつて高祖(こうそ)は旗を挙げ 

 破竹の如く勝利を収め 鉄と血により乱を鎮めた

 時は流れて河は澄み 田は満ち市は()え 蝶が舞う


 いま(ちん)が座し世を見渡せば 乱も戦も遠き夢

 鉄血すでに赤黒く 中華の春は文で息づく

 支え掲げよ漢の旗 決して絶やすな劉の血脈』


 会場が深く静まり返る。

 これは、長く続いた『漢』の繁栄を讃えると同時に、皇帝である『劉家』への忠誠を改めて誓わせる詩だ。

 しかも、今後は剣ではなく文で世を治めるという宣言でもある。

 壇上の文官たちは感嘆の声を上げているが、壇下にいる武官たちはやや怪訝な表情をしていた。


 先ほど皇帝自身がそう言ったように、国内には賊が蔓延り、異郷の敵だってまだ大勢いる。

 武官たちの多くは、都から離れた辺境の地で、そうした血生臭い現実と日々戦ってきた。

 だがこれは事実上、皇帝がそうした内外の脅威よりも、中央の政治・文化を重視するということの示唆になっている。これでは彼らが面白いはずがない。


(これ……どう返す?)

(どっちに転んでも、どっちかの陣営からは不興を買いそうで怖いですぅ)

 文姫に問いかけるが、彼女もこの詩への返答が難しいことに気がついている。


 そんな中、真っ先に手を挙げたのは正義感に燃える若き将──袁紹だった。


「よい。ほほ。早いの、袁紹」

「はは!」


 霊帝さまの声がかかり、袁紹が緊張した面持ちで歩み出る。


『漢は永遠なり 忠義の将が剣を履き

 内外に目を光らせるならば

 漢は危うし 蝶に似た毒虫が宮に入り込み

 その甘い色香で帝の目を欺くならば

 

 いまの王宮は 蝶の舞う春にあらず

 石の下に毒虫が蔓延る 冬なり

 しかしいずれ冬は終わる 春は必ずやって来る そしてその時は近い

 漢の世を永遠とする我が剣は この先も決して錆びることはない』


 袁紹は正面から言った。

 思っていることを“ど直球に”、霊帝さまに申し述べたのだ。

 武官たちの目に、一気に火がつく。毒虫と呼ばれた文官たちも、同じく。


(最初の一人目からこれかっ……!)


 霊帝さまはしばらく袁紹の目をじっと見つめていたが、やがてにんまり微笑み口を開く。


「ほほほ。ふむ、袁紹。なかなか言うではないか」


 その顔には自分の詩が暗に否定されたことへの怒りはない。

 むしろこの先、どの様な詩の応酬が始まるかを“心底楽しみにしている”という表情だ。 


「はっはっは! いいな、袁紹! お前にしては大胆な一句だ!」


 会場の反対側で、またも曹操が高笑いしている。


(これ……こんなの、私の知っている詩の大会じゃ、ないですう!!)

 横で文姫が目を白黒させながら、情けない声を上げた。

(……だ、大丈夫よ! 必ず、勝機はあるわ!)


 漢詩大会……いや、漢詩ラップバトル。予選開幕──


 ***

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