#41 反転の手相
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「正しくなかった? そんな事……」
──ない。
印の組み方は教えてもらったとおりにやった。劉辯だって、さっきまではそう言っていたはずだ。
「すまん。董白が間違えていたわけではない。余が正しく教えられていなかった……と、言うべきだ」
「……どういうこと? 反転とか正しくないとか、ごめん。実はまだ、ちゃんとついて行けてない」
私は正直に口にした。
「わかった。順を追って伝える。まず、五行を身に宿す上で重要なのは対応だ。五指にはそれぞれ対応した正しい五行がある。それが……」
私は親指から数えるように、右手の指を折る。
「うん。木・火・土・金・水」
すると、右手の指先からふっと力が抜けるような感覚。でも、嫌な感じはしない。
「そう。だが……其方の左手は恐らく、対応する五指が違う」
そう言われて、左手でも同じようにやってみる。親指から、木・火・土……。意識してみれば、確かな違和感に気づく。右手の時と全く感覚が違うのだ。
どこか、詰まっている感じ。
「……ほんとだ。片手ずつやってみると全然違う。でも、中指の先だけなんだか少し……楽な気がするわ」
「そうか……。では、小指から順に意識してみてくれ。さっきと反対方向に……」
劉辯に言われるまま、私は小指から順に指を曲げた。心の中で五行を唱える。
すると、さっきまでの違和感は消えた。
同時に指先から、何かを体内に注ぎ込まれているような不思議な感覚……これが……。
「何これ……すごい! これが五行なの!?」
嬉しくて、思わず声が弾む。
劉辯も、歯を見せながら小さく拳を握った。
「よし、思ったとおりだ!!」
しかし、その喜びは長く続かない。
劉辯はすぐに顔を真剣に戻すと、一度だけ唇を舐めた。そして、また口を開く。
「だが……まだだ。いまはただ、其方の仙術が発動しない理由がわかっただけ。課題は……どうやって正しい印を組むか、にある」
「……え?」
思わず彼を見る。
なぜ、これだけではダメなのだろうか。五行はすでに、身体に宿った。
「わからないか? 対応する五指を合わせることで、五行は身体を循環する。だが、其方はそれが左右逆。そして印の組み方は……その多くが鏡動作なのだ。だから、『反転の手相』を持つ者の場合には、異なる印の組み方が必要になる」
真っ直ぐ合わせた手を片方だけ捻って、逆手に握り直す劉辯。これだと、最初の型からしてこれまで習ったものと全く違う。
それを見た私はやっと理解した。
つまり私はこれまで、身体の右半分だけで正しい動作をしていたのだ。左半分は何一つ必要条件を満たしていなかった。
「わかった! じゃあ、その組み方を──」
そう口にした私だったが、劉辯の表情は浮かない。
「ど、どうしたの?」
その問いかけに、劉辯は小さく首を振る。
「すまぬ……。余は知らんのだ。反転の手相を持つ者の、印の組み方を……」
苦々しい顔で答えた劉辯。でも、その目はまだ死んでない。
「だから……いま暫く待ってくれ。宮廷の蔵書を読み漁ってくる。……一週間で必ず見つける。……いや、見つけてみせる」
真剣な声。覚悟を決めた眼差し。でも、もう一つだけ彼は問いを重ねた。
「其方の事情はよく知らぬ……だが、それで間に合うか?」
彼にはまだ、私の事情を何一つ伝えていない。
この後に及んでもまだ、彼は自身の言葉を守り、詳しい理由を聞かないでいてくれる。
それでも、劉辯は何かを察し始めている。
もしこの作戦が上手くいったら……その時は──
「……うん」
漢詩大会までは、残り約三週間。劉辯が謎解きに一週間使ったとしても、まだ十日以上ある。
正しい手順を覚えるだけなら、四日で足りる。
「わかった。じゃあ董白はその間、もう一度五行を身体に宿す練習を。余がさっきしたように逆手で組んで、身体を一巡させられるようになれ。術言はもう出来ている。後は、余を信じて待っていて欲しい。……良いな?」
何より、ここまでしてくれた彼を信じたい。
私は力強く頷いた。
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