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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第二章──毒の予言と夜宴の蝶

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#33 王室の秘密

 ***


「ちょ、陛下……何言ってんですか!? 本気で言ってます!?」


 突然の勧誘に戸惑う私。でも、劉辯の態度は大真面目だ。


「いや、本気だ。先ほどの発言一つだけとっても、其方の知識の深さが見て取れる。そんなこと……治水を担当する文官でも教えてはくれなかったぞ? それをまあ、大した情報でもないみたいに簡単に……どこでそんな知識を?」


 こ、答えづらい質問来たーー! お爺ちゃんは武官だし、専門は治安維持とか戦方面になる。だから、我が家の蔵書には戦記はあっても治水に関するものなんてない。ここで変に踏み込めば、芋蔓式に正体がバレる。


「……え!! いやいやいや、何て言えばいいのか……あ、当てずっぽうです! ただ何となく、そんな感じじゃないかな〜〜って、思っただけです!」


 下手な誤魔化し方だ。自分でも分かってる。でも、劉辯はそれすらあっさり信じた。


「慧眼だな。いや、だったらそれこそ興味深い。黄河の流域は古代から作物がよく獲れる。それを川の氾濫と結びつけたのは……もしかすると其方が初めてかもしれん」


 そんなことねーだろ!? 中華四千年の歴史……いや、今だと二千年か? でも色々あるだろ文献が!!

 文官たち、ちゃんと教えてやれよ!!


「それは少々言い過ぎです。漢の世は長いですが……中華は高祖の時代よりずっと以前から、この地で文明を築いて来たのです。ならば、先人の記した諸々の文献にこそ、その叡智は収められているはず。それらを一通り修めたからこそ、文官たちは役人として選ばれているのですから、私なんかより、どうぞ彼らを……」


 あえて改まった喋り方をすれば、劉辯は少し落ち着いたようだ。しかし、その表情は浮かない。


「ああ……本来ならば、だがな」


「──え?」


 劉辯は、少し疲れた様子で椅子に腰掛けると、近くにあった椅子を指した。

 

「座ってくれ」

「は、はい」

 

 私が腰掛けた後、彼は身を寄せて印を組む。──『透過の術』


「これで少しは音を消せる」


 この部屋は行政宮の中でも最奥の間の一つ。だから滅多に人は通らない。

 それでもここまでしないと話せない内容なのかと、私は息を呑んだ。


「実は、あまり言いたくはないが、いまこの中央──都の人事は腐敗しきっている」


 とんとんと指でこめかみを叩き、彼は続けた。


「賄賂が横行し、役職が金で売られているのだ。政治が全く機能していない。中には有能な者もいるが、そういった者たちは辺境に飛ばされ、ことごとく中央での力を削がれている」


「──な。そんなことが……」


 華雄も言っていた。都には賄賂が蔓延っていると。でも、中央の行政を司る機関にまでその流れが押し寄せているとなれば、それは漢王朝の危機と言ってもいい。


「いったい……なぜそのような事に?」


「──母上のせいだ」


 短く、しかし確信を持った声で劉辯は告げる。なぜ? 何皇后が?


「母上は、父上の側を固める宦官たち──十常侍に近づいた。彼らは父である霊帝に重んじられ、実質的に漢を裏で動かしている。母上は、十常侍から金を集めているのだ」


 十常侍──私も聞いたことがある。いずれ、漢に大きな火種を産む事になる宦官のトップたち。


 “宦官”とは、本来後宮で王家の身の回りの世話をする男たちのことだ。

 後宮は、皇帝とその世継ぎ、そして彼らを産むための妃たちだけが住まう場所。

 男子禁制の後宮にあって、力仕事や警備を担う者たち。それが宦官だ。

 罷り間違っても王家の血統を汚さぬため、彼らはその生殖機能を奪われている。だが、だからと言って出世欲や功名心までも失われたわけではない。


 多忙な皇帝に代わり、幼い頃から常に自身の世話をやく年上の男たちを、皇子たちは文字通り“父”のように慕う。そして彼らが皇帝となってさえなお、宦官たちは皇帝に厚く遇されるのだ。


 それがいま、この国を腐敗させている。


「で、でも。なぜ何皇后さまが? 彼らと何皇后さまは、何の接点もないじゃない。まだ後宮に入ってほんの数年のはずでしょ? 十常侍が勝手に身を肥えさせているだけじゃないの?」


 私はそこに疑問を感じた。霊帝さまが十常侍の言葉を重んじるのはわかる。

 でも、そのお妃である何皇后が、十常侍に影響力を持つのはおかしな話だと思った。


「それが──変なのだ」


「変?」


 私の問いかけに、劉辯はしまったという顔をして少し間をおいた。

 その顔を見て私も悟った。これは、部外者である私が聞いていいような話じゃない。慌てて手を前に、私は続けた。


「あ! すみません……こんな立ち入った話。言わなくても良いです。私もまだ、あの時のことお話できてないし……」


 しかし椅子から立ち上がった私の腕を、劉辯がつかむ。


「よい。余はもう其方を信じておる」


 その声は優しかった。でも、どこか悲しそうで、目が何かを訴えていた。


「聞いて……欲しいんですか?」


 私が尋ねると、劉辯は躊躇いがちに頷いた。

 腕を掴んだ手が、小さく震えている。


「わかりました。このお話は、ここだけのことにしておきます」


 そう言って、私は再び席に腰を下ろす。

 劉辯は安心したように微笑み、そして大きく息を吸ってから、一息に言った。


「余は見たのだ。母上が、十常侍と──身体の契りを結んでいるのを」


 身体の契り? それって……もしかして……


 答えに思い至った私は赤面し、口を塞いだ。だって、そんなのおかしい。彼らにはもう──


「それ、霊帝さまに話したの?」


「言えるものか! 父上が、実の兄や父のように慕っている相手だぞ? 父上の心を考えたら、言えるはずないではないか! それに余とて、もう彼らには“あれ”がない事を知っている。だが……」


 そこまで言って、劉辯は自分の身を抱いた。


「……怖いのだ。あの場所が。……自分が、本当に『劉』の血を引く漢の皇子なのかと。そう思うと……居ても立っても、居られなくなるのだ」


 小さく、でも確かにその声は震えている。


 劉辯の独白に、私は咄嗟に言葉が出なかった。

 あまりにも大きな秘密を、彼は抱えていた。私なんかよりも、ずっとずっと不安だったろう。

 ずっとずっと、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


 大人びた漢の皇子が、初めて年相応の少年に見えた。


 私はいつの間にか、そっと近づいてその背を抱くように体を寄せていた。


「大丈夫。あなたは立派だわ」


 手が触れた瞬間、劉辯の体がぎゅっと強張るのを感じる。

 けれど、拒まれてはいない。直感で分かった。


 一人じゃどうしようもなくて、誰かに聞いてもらいたくて……でも、誰にも話せない。

 知ってる。私も──そうだったから。


「貴方の苦しみが嘘だなんて私は思わない。だからそんな不安、気のせいだなんて気休めは言えない。でも……」


「……」

 劉辯の顔は、見えない。

 だけど、私が彼に伝えたい言葉は、一つだけ。


「たとえその身に流れる血が誰のものであっても……貴方は素敵な『漢の皇子』よ」


 小さく、その背中が鳴った。

 ついに溢れ出るものを堪えきれなくなって、何かが私の袖を濡らす。


「あり……がとう」


 感謝と嗚咽が、飾りのない部屋に小さく響いた。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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