#28 漢詩大会への誘い
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「見せて蔡邕」
私は蔡邕の持っていた書状を奪い取って読む。見れば、それは公的な招待状というより、母のために差し出された手紙のような書き出しだった。右下には、見覚えのある『劉』の印字──
『董璃 殿
暮春の候──夏草の匂いが少しずつ届くこの頃、いかがお過ごしだろうか。
先の茶会への不参加、誠に残念だった。
後から聞けば、ご子女の方で何やら不幸があったとのこと。大事なかっただろうか。
それにしても、其方から送られし返事の文には、正直惚れ惚れした。茶会でも、広く披露しておいた。
その才を見込んで、一つ頼みがある。
来る五月の夜──宮廷にて漢詩大会を催すつもりだ。
出場者は、劉虞、盧植、荀爽、楊彪等いずれもその道に秀でた文化人だが、ちと華に欠く。
聞けば、其方は長安の『黒赤蝶』と呼ばれるほど美しいとか。
此度こそ、万事取り計らいのうえ、参加してほしい。
それでは、会えるのを楽しみにしている。
霊帝』
これはダメだ。完全にご指名されている。すでに母の容姿のことまで、霊帝さまは知っている。
しかも、茶会に出さなかった狙いはお母さまを霊帝さまに合わせないことと、もう一つ。
何皇后の嫉妬を買わないことだった。
なのにあの返事を取り上げて賞賛? しかも直々に召集状まで送ってくるなんて……
確実に、すでに何皇后は母のことをよく思ってないだろう。
目の前が一気に暗くなる。積み上げたはずの足下が、ガラガラと崩れていく音がする。
「これじゃ……私たちのやったこと、全部……意味なかったじゃない」
私はその場に泣き崩れた。目から涙が自然と溢れる。
がくりと膝をついた私を、文姫が抱きしめながら言った。
「小紅さま! ごめんなさい。私が頑張り過ぎたせいで……私、わたし……」
文姫も泣き出してしまう。
「違う。文姫は悪くない。私がそう書いてって、お願いしたんだもの」
その頭を撫でながら、私は言った。これは本心だ。文姫が責任を感じることなんて全くない。
そんな私たち二人の肩を、蔡邕が優しく抱き止める。
「私は……全てが無駄だったなんて思いません。あの一件で、董家の絆は確実に深まりました。その絆こそ、我々が最も守りたいものではありませんか。ですが……このような形で赤麗さまが霊帝さまの目に留まるなんて……私も予想ができませんでした」
“赤麗”とは、母・董璃の名だ。私と同じく赤い目をもち、美しい母はいくつも名を持っている。“黒赤蝶”もその一つ。それにしても都の噂話とは、こんなに広まるのが早いものなのか。くそっ、宮廷の暇人どもめ。
「どうしましょう小紅さま。このままだと……確実に赤麗さまが霊帝さまのお気に入りになってしまいます」
文姫が不安そうに呟く。
「そうね。次にどう動けばいいか……考えないと」
わかっている。わかってはいるけれど……
────!!
その時、何かが身体を通り抜けた。刹那、頭に酷い痛みが走る。目の前が一瞬だけブレる。
「小紅さま!?」
倒れそうになった私を、蔡邕と文姫が両側から支えてくれた。でも、痛みはすぐに治った。
「ありがとう、ちょっと眩暈がしただけ。でももう大丈夫よ……。それより文姫、いま何か感じたわ。もしかすると竹簡が……書き変わろうとしているのかもしれない」
直感があった。私自身がどこか少し、生まれ変わったような感覚──これは……
「……わかるの。記憶が……書き変わっていくのが。今すぐ確認を」
私の言葉に、蔡邕と文姫はそれぞれ息を呑んだ。
「ついに、わかるんですね……」
「ええ……次に何が起こるか。そして、私たちがどうなるのか……」
そう。泣いて立ち止まっている暇なんてない。
今の私たちにできることは、未来を知ること。そして備えること──それだけだ。
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